チョコ戦争
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2月13日、午後2時
数が数なので調理室から材料や調理器具を持ち出し、食堂でとある準備をする
館中の女性が集まり、大量のチョコレートを作るのがこの日のお決まりで
それは勿論明日のバレンタインの為である
マスターのお願い「最低でも皆に一つずつ配ってくれ」と頼まれたらしいので、毎年レディース以外のメンバー分を頑張って作ってるそうです。
「マスターに頼まれる前は、行き先に偏りがあったのよ」
「そうなんだ…。」
まぁどうせ本命とイケメンに配ってたんだろうな
それで見かねたマスターが「皆に配れ」と言ったと…。
グループに分かれて、それぞれ担当した所で作業をする。
あたし達三人は、型に入ったチョコレート達を綺麗に冷蔵庫内に並べる係を任された
この日の為だけに起動するという巨大な冷蔵庫
事情を知らなかった時はなんで食堂に冷蔵庫があるんだろうと思っていたけど、こういう事だったのね…。
「しっかりと鍵をかけてないと、カービィ率いるヤング軍団に根こそぎ食べられるからな。」
「そうなの?」
「そうだね、ずっと前にそんな事あったね…。」
大分前の話だが、事情を知らなかったヤンガーズ軍団が
冷蔵庫で固めていたチョコレートを食い尽くしたという事件があったらしい。
主犯は当たり前だけどカービィだ。
その年は慌ててレディース軍団でチョコレートを買いに行き、本命も買ったものになってしまったという。
「それは大変だったね…」
「全くだよ…。」
ちなみに出来上がったチョコレートは、また今日の夜に皆で集まってラッピングして
日を越したタイミングで皆の部屋の扉の所に掛けておくそうです。
なんとも大変な一日だ…。
これは皆分を作った大量生産チョコの話だけど
勿論一部のレディースには本命という物があります
付き合ってる相手だとか
付き合うまでいかないにしても、そういう感じの相手だとかにあげるチョコレートです
大量生産のチョコもしまい終わったので、今度は本命チョコを作る時間
勿論あたしもだーい好きなウルフの為に作るのだけど
言うまでも無く彼は苦い方が好きです。
思いっきりビターなチョコを使って作っていた所
材料を見たプリンが「ヤバいな…」と呟いた
「そんなにおっさんは苦いのが好きなのか…?」
「そうなんだよ、ちょっとでも飲んでるコーヒーに砂糖入れると分かっちゃうんだよー
最近はどんどんグラム数を減らして、どれくらいの量なら気付かれないか試してるんだけど…。」
「お前は暇人だな。」
「それよりもプリンも本命作ってるっぽいけど誰なの? ファルコ?」
「勿の論だ! 今年は焼き鳥に作ってやるんだー」
「えっ?!」
まさかの正直な発言に、あたしやナナに限らず
部屋に居たレディース皆が驚いてプリンの方を見る
それに気付いたプリンは、慌てて何処からか取り出した赤い瓶をテーブルの上に置いた
「も、勿論普通のチョコじゃないぞ! この激辛ソース入りの危険チョコだ」
「あぁー、なんかプリンらしいわね」
「というかもうそんな遊び入れないで、普通に本命としてあげれば良いのに」
「本命じゃねーしっ!」
何時もの様な突っ込みを入れるプリンを見て、ナナと二人で笑った。
夕ご飯後、大量のチョコを前にレディース皆でラッピングをする。
それぞれ自分の部屋の近くの人達の所に、チョコをぶら下げておく事になったんだけど
一つやたら大きな包みがあった
「こ、これは?」
「それはカービィの分だね。
他の人のを奪っていこうとするくらい楽しみにしてるから、たっぷりあげてるんだよ」
「そ、そこまで楽しみにしてるんだね…。」
そのカービィ分は一番近いプリンが担当するみたいで
「毎年重労働させやがって」彼女はとぼやいていた
あたしも担当した所の分を預かって、お仕事通り0時になったら部屋のドアノブに掛けてきます。
チョコ配りの件はあるけど朝ご飯作りはなくならないので、ちょっと休んでから0時を迎えました
近くの部屋に次々とチョコを引っ掛ける
これで今日は貰えず寂しい思いをする輩は居なくなるという事ですね。
もう殆どの部屋に掛かってるのだけど、それにしてもこれはこれで異様な光景だわ…
本命のチョコを手に、ウルフの部屋まで向かっている途中
丁度部屋の前の大袋を運び込もうとしているカービィを見かけた
カービィはあたしに気が付くと、「ユズちゃーん!」と嬉しそうに駆け寄って来た
「チョコレートありがとう、今年もたくさん!」
「う、うん、凄い量だったね本当。」
「それもチョコレートなの?」
「えっ?」
カービィの視線は明らかにあたしが持ってる本命チョコに向かっている。
「これは流石にカービィにあげられないよー、凄く苦いんだよ?」
「苦くてもお菓子大好きー」
「ダメダメ…! この苦いのはウルフにあげるんだから。
苦くないとウルフは食べてくれないんだから」
「おっさんのじゃあしょうがないなぁ…」
「苦いのは良いけど、ウルフの分だと諦めるのね…。」
「僕が食べると凄い怒りそうだから、取っちゃダメだね。」
そういうのはよく分かっているらしいカービィ
「おやすみなさーい」と手を振ると、再びチョコの運び込みに戻っていった
ウルフの部屋にやってくると、相変わらず不用心に鍵が開いている
中に入ると電気が点いていたものの
やっぱり寝ていたのか、彼はいびきをかいてベッドの上で横になっていた
気付かれない様にゆっくりと近寄ったのだけど
いびきは止まり、半分寝てるような状態でこちらに顔を向けた
「またバレてしまった…。」
「あぁ…? ユズか…?」
「気付かれないで寝てるウルフに近寄れるのってスネークくらいじゃないの…?」
まだ寝ぼけてるような感じだけど
持ってたチョコをアピールしながら、あたしもベッドに飛び込んだ
「ウルフー、バレンタインだよー
あんたは興味無いかもしれないけどねー」
「あぁ…、もう日を越したのか…?」
そうウルフは近くにあった時計を確認する
「…てか別に今じゃなくて昼でも良いだろ。」
「良いんだよー…! こっちはワクワクしてるんだからー…!」
「なんでお前がワクワクすんだよ…。」
ベッドの上で喜びを表現してのたうち回っていたら
ウルフは「分かったらから落ち着け」と、あたしからチョコの箱を奪っていった
「ちゃんとウルフの為に苦くしてあるからね」
「へいへい。」
一応あたしも完成品を味見したのだけど、とてもじゃないけどパクパク食べれませんでした。
ミルクティーとか、そういう物と一緒なら多く食べれるような感じです。
でもやっぱりウルフには口に合う様で、あの真っ黒なチョコをどんどん食べている
「信じられん…。あんな苦いのを平気でどんどんと…。」
「俺様的にはお前が何時も食ってるおやつの方が信じられねーな」
「いや、まだあっちの方が良い…。」
「まだまだ子どもだな」
「多分おばちゃんになってもそれは無理だと思う。」
「…。」
正直に考えを語っていた所、一つチョコを手に持ったままこちらに顔を向けたウルフ
なんだろうと様子を見てると、何も言わずにそれを口に押し付けて来た
反射的に顔を反らしてそれを遠ざける
「自分で作っといて食えねーのかよ。」
「そんな事は無いよ、飲み物と一緒なら食べれる。」
「ふーん。」
こっちを見たまま、彼はそのチョコを口にして数回噛む
いきなり片手であたしの顎を掴まれると、軽く上を向かされた
分けも分からず口付けされたかと思えば、口内を這う舌の感覚に身体が震える
それにちょっと遅れて来た、凄い苦み。
「べっ! 苦いっ!」
慌てて身体を離して、唾液で薄めようと口をもぐもぐさせていると
面白がってるのかウルフは笑った
「笑うんじゃないよ…! 本当に苦いんだから…!」
「分かってらぁ、だから今苦しんでるんだろ」
ヘラヘラとチョコを食べてるウルフだけど、今度はあたしからの逆襲だ…!
…と言っても、特別あたしが手を下す事はありません。
怪しまれない様に、暫く口内の苦いのと戦ってるようにしていると、いよいよその時が来た
タイミングは自分じゃ選べないから、様子を伺いながらだったけど
ウルフの反応はとても分かりやすいものだった
「べっ! なんじゃこりゃ! クソ甘ぇーな!」
そうです! 箱の底の方に甘いチョコを紛れ込ませておきました。
甘いチョコって言っても、普通よりちょい甘なのですが…
元々ドッキリ目的に入れていたんだけど
まるで良いタイミングでウルフに復讐出来ました。
ウルフはあたしと違って丸々食べてしまったから、だいぶ甘いのは残ると思う。
「ははは、どうだ! 全く意図しなかった逆襲だ!
本来はドッキリ目的だ!」
「てめぇ…! なんつーもん入れてんだよ…!」
「ナナがポポに作ったのを一つだけ交換したんだよ! ナナに失礼でしょう!
早く残りのビターチョコ食べなさいよ…!」
「ねーよ! 最後がこれだよ…!」
ウルフは辺りを見回すと
丁度テーブルの上に缶コーヒーがあって、それを勢い良く飲み干した
「そんなに口に合わないかね? あたしは凄く美味しかったけど」
「お前がビター苦手なのと同じだろ。ただ逆なだけだ…。」
「まぁそうなんだろうけど」
それにしても良い物見れたわ。
あんなにわちゃわちゃしてたウルフは久しぶりに見たかも
朝ご飯の時、ナナにお礼言っておこう。
「はぁ…、微妙に残ってんなぁ…」
「先に手を出した方が悪い。はっきりわかるんだね。」
「手を出そうが出すまいがどっちにしろ俺様は食ったろ。」
「それは否めない。」
「…。」
暫く渋い顔をしていたウルフだったけど、途中で表情が元に戻る
甘い感じが無くなったのかなと思っていたけど
こちらに戻って来たウルフに、再度顎を掴まれて再び口付けされた
ブラックコーヒーを飲んだ後だというのに
それと一緒にまだ残ってた甘い味がやって来た
「…なんだよ、そっちは苦いの残ってねーのかよ」
「残念でしたー、まぁあたしが苦いのを食べたわけじゃないからね」
「まぁそうだな…」
開放されたので、早速ウルフの布団に潜ると布団をはぎ取られた
「ちょっと、人が寝ようとしてたのに…。」
「お前は寝てた奴を起こしただろうが。」
「まぁまぁ、早く寝ようよ」
「誰が起こしたと思ってんだよ…。」
此処に来いと言わんばかりにベッドの空いた所を叩くと
へいへいと、ウルフもベッドにやってきた
ウルフは基本モフモフなので、寒い夜はウルフで暖を取るに限る。
掛け布団も戻って来たから、これで完璧だ。
横になったウルフにしがみつく様にくっ付くと、彼はこっちに身体を向ける
「お前も飽きねーな。」
「温かいからね。
ウルフも飽きないよね、突き放す事をしないじゃない?」
「…そうだな。」
喜び全開でウルフに埋まると、ポンポンと軽く頭を叩かれる感覚がした
チョコ戦争
「…ちなみに聞くが、誘ってるわけじゃねーよな?」
「違うよ!」
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