2023(02)

■吹き抜けを見上げて

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 年度末に向けて、ウチの会社もじわじわと忙しくなりつつあった。年度末には決算もあるし、棚卸もある。棚卸前にはドカンと出荷があるから、それに向けて備えておかなくちゃいけない。
 年明けから2月にかけてはちょっと空いた時間に在庫の確認をしてまとめるものはまとめたり、庫内整理に明け暮れていた。これをやっておくのとやらないのとでは出荷も棚卸もかかる手間が段違いなんだよね。
 越野から睨まれている返品入庫は、短期バイトで来てくれてたタカティがよく捌いてくれて本当に助かった。長岡君も「あの子は本当にいいところに気付いてくれる」ってお気に入りだったみたい。短期じゃなくてずっと来てくれればいいのに。筋がいいよなあ。

「あ~、まーた返品が来たぁー」
「高木君がいないからって溜めるなよ」
「大丈夫です。出荷の合間を見てちゃんとやります」
「実際出荷は人材の人もいるんだし、お前は新倉庫とかB棟2階の仕事をやっててもいいくらいなんだぞ」
「わかってはいるつもりなんだけど。週のはじめは心配にならない?」
「言いたいことはわかんないでもないけど。とりあえず内山に内線するかあ」
「じゃあ、これB棟側に引いとくよ」

 他社のトラックが返品入庫のケースを積んだパレットを持ってきた。トラックの中を見る感じもうちょっとありそうなので、先に来たパレットは構内に引いておく。各々の持ち場に上げるのは越野や内山さんがチェックをしてくれてから。

「大石くーん!」
「はぁーい!」
「ごめーん、このパレット下ろしてくれるー?」
「オッケー!」

 上から長岡君の声が降って来る。A棟2階の吹き抜けには出荷するケースが積まれたパレットが置かれていて、これをフォークリフトで下ろさなきゃいけないんだけど、慣れないうちは荷物を落とすんじゃないかって怖かったなあ。実際積み方や操縦が甘ければ落ちるもんね。

「大石、ダイワさんが取りに来てる」
「あ、はーい。今リフトどけますねー」

 荷受けでは荷物を取りに来た運送会社の人が自分たちの持って行くべきパレットをトラックに積んでいく。伝票に番号が振ってあって、1番はこの会社、2番はこの会社、みたいに決まってるんだ。もちろん、他の会社の荷物を混ぜてパレットに積んじゃいけない。

「あ。大石、マズい」
「どうしたの?」
「ここ。1番のパレットに7番が混ざってる」
「あ、ホントだ危ない」
「おい、つか吹き抜けのパレットも混ざってんぞ」
「どれ?」
「あれ。次に下ろそうとしてるヤツ。下から2段目の角とその斜め上。7に0が混ざってる」
「あー、ホントだねえ。よく見たらそうだ」
「長岡のヤツ何やってんだ」
「とりあえずトラックが来る前に直してもらわないと。長岡くーん!」
「長岡ぁー! おーい!」
「越野、俺下に降りてるパレットに間違いがないか見てくるよ」
「おう、頼む。長岡ぁー! 誰かー!」

 おーいおーいと越野の声が響いてる。俺はすでに下ろされているパレットに不備がないか確認。ぐるりと回って……うん、ダイワさんが乗せるパレットも現状は大丈夫そうだし、下の分はオッケーかな。

「越野、長岡君に通じた?」
「ダメだ。遠くに行ってんのかもな」
「A棟は広いからね。俺が行ってこようか。どうせ2階には行かなきゃだし」
「それが早いかもなー」
「あ、越野さん。返品はどこに来てますかー?」
「ああ、あっち。B棟の方に引っ張ってあるから。ああそうだ内山、お前ここに来るまでに長岡見た?」
「長岡君だったら事務所側の階段下りてきてましたよ。新倉庫に用事があるような感じで」
「マジか、入れ違ったか」
「どうかしたんですか?」
「上見てみろ。パレットの数字が混ざってんだよ」
「あー、ホントですねー。って言うか急ぎの用なら放送かけて長岡君呼び出しちゃえばいいんじゃないですか?」
「ううん、現場の事情で急ぎで新倉庫に行ってる可能性もあるし、パレットの荷物は俺が行って直してくるよ。この感じなら上にダイワさんのケースが無いとも限らないし、他はまだ取りに来てないなら十分間に合う」

 吹き抜け横のハシゴで直接2階に上って、件のパレットをぐるりと確かめる。うん、下から発見したの以外にも混ざってるみたいだ。幸い既に荷物を取りに来ているダイワさんの分はないようだけど、長岡君の姿もなし。そして、2月の中頃から来始めた人材さんがパレットに荷物を積んでいる。

「すみません、別の会社さんの荷物が混ざっちゃってるので、直させてくださいね」

 一言お断りを入れて、バッサバッサとやっちゃう。これをああしてこうしてこう積んで、これをこう持ってきて、っと。もちろん下手な積み方をすれば吹き抜けから下ろすときに事故る可能性が上がるので、急いでいるときこそ丁寧に。
 修正作業をしていると、事務所側の吹き抜けに製品の乗ったパレットが上がってきた。きっと長岡君が上げたのかな。うーん、この感じだったら長岡君が帰ってくるまでは俺がここを見てた方が良さそうだね。畠山さんは庫内整理で忙しいはずだから。

「大石君ごめん! 越野君から粗方聞いたよ」
「長岡君、もう大丈夫?」
「うん、補充は一通り済んだよ。あっ、引き継ぎます」
「うん、お願ーい。とりあえず、混ざってたのはこっちによけてあるから」
「了解です」
「じゃ、お疲れさまでーす」
「お疲れでーす」

 来たときと同じようにハシゴで1階に降りて、B棟に引っ張った返品の内容を確認しにいく。さっきチラッと見た感じでは、A棟の出荷は俺が行かなくても大丈夫そうな感じではあったし、今日は定時まで自分の区画の片付けを優先させてもらおう。

「おっ、お疲れ」
「大石さんお疲れさまでーす」
「あー、こんなに返品が来てると思ったら憂鬱だよー。長岡君のところで現実逃避してた方が良かったかなあ」
「一応言っとくけど、溜めるなよ」
「わかってます。あー、せめて3月末までタカティが来ることになってたらなあー!」
「気持ちはわかるけどお前が自分でやるんだよ」
「大石さんて普段は仕事出来て凄いなあって思うんですけど、返品入庫が嫌い過ぎてちょっと残念ですよね。普段の食事でも好きなものを最初に食べるタイプっぽいと言うか」
「返品入庫が嫌いって言うか、細かい仕事が苦手なんだよ。ピッキング作業でも、小銭入れとか袋みたいな細かい物は数えてらんないもん。だったら大きくて重くても大雑把に数えられる物の方が圧倒的に楽だね」
「こないだまで来てた高木君ていただろ」
「はい。大石さん直々にスカウトしたっていう学生さんですよね。メガネの」
「あの子が細かい作業が得意だから大石の助手みたいな感じでB棟の手伝いに入ってもらってたんだけど、いなくなったらこうだよ」
「って言うか、大石さんが細かい作業が苦手って会社の人はみんなわかってたんですよね? 何でB棟2階の担当になったんだろう」
「だよねえ。長岡君の方がマメマメしてるし向いてると思うもん」
「経験だろ」
「だよねえ」
「知ってました。何だかんだ製品知識と入庫技術は群を抜いてますもんね。はい、チェックできました。大石さん、返品溜めないでくださいね」
「頑張ります」


end.


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フェーズ3の向西倉庫話では残念になりがちなちーちゃんの救済をしたかったはずなのに
吹き抜けの下から2人がわーわー叫んでるのをやりたかった話。

(phase3)

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