2023(02)

■Persuasive power of elders

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「かっすー、そこは大人しく年長者の経験を当てにしとけ~?」
「あーもうそれを言われちゃ反論のしようがねーんだよ! 奏多のそれホントずっこい!」

 今日は3年生追いコンのことを話し合いつつ、卒業式や新入生勧誘についても話し合って行きましょうということになっています。それから、インターフェイスで起こったことの報告など。
 私たちの代になり、こういった話し合いにも空気が見えるようになってきました。基本的には希くんが進行をするのですが、彼の勢いがみんなを置いてけぼりにしていると感じたときには奏多がストップをかけるのがお決まりの形です。今もそれが発動したところです。
 奏多自身、年齢や表面上の役職の字面だけで力を測ったりするのを嫌います。ですが、本気のやり取りでない、軽いジョークが通じる場合には手段として年長者という言葉を用いているようです(もちろん、本人はそれに説得力が付随するよう水面下で能力を磨いています……)。

「そう言えばさ、今のMMPで1番年上なのは松兄でしょ?」
「そうだな」
「次って誰になるの? 誕生日順だと」
「ええと、ジュンでしょうか。年齢が私たちのひとつ上ですし」
「そうなると思います。ちなみに奈々先輩が俺の少し後ですね」
「松兄、ジュン、奈々先輩。カノン誕生日いつ?」
「俺は12月2日」
「とりぃは確か1月だから、2年生は10月の俺が2番目だね。松兄、ジュン、俺、カノン、とりぃ。1年生は?」
「あー待って爾黎先輩。爾黎先輩とカノン先輩の間に俺入るわ。俺11月やから」
「そうなんだ」
「あー、そうだそうだ! 忘れてたけどうっしーってタメだったな!」
「ジュンの二浪は結構定番ネタなんに何で俺の失われた1年って忘れられがちなんや」
「ジュンの二浪は何だかんだ本人が吹っ切った感があるけど、お前のはガチ過ぎてみんな触れにくい。あと1年からしたらノリが1コ上に見えねーんだろ。俺らも忘れるくらいだし」

 これに関しては奏多の言うことが正しいと思います。最初の頃のジュンは二浪したことに対して結構なコンプレックスがあったように思いました。今は二浪したからこそ今ここにいることが出来ていて、仲間や自分の道に出会えたと、そのように吹っ切れた風に見えます。
 一方、うっしーの社会人時代の1年に関しては、話を聞く限りでは結構なブラック企業にいたように思われます。本人が「失われた1年」と言うように、決していいとは言えない時間だったのでしょう。きっとうっしーが納得のいく就職をするまできちんとネタとして昇華出来ないかと。

「そう言えば書記ノートにメンバーの基本的なデータ書いてないか?」
「そうだそうだ。見学の時に聞かれたし書いてるかも」

 ……と、少し脇道に反れてみんなの誕生日を並べてみます。すると、ストレートの1年生4人は、ジャックが7月、殿が3月、パロが10月、ツッツが9月と書いてあります。

「そうなると、MMPで一番年下、末っ子は殿ってことになるね」
「へー、殿が末っ子かあ」
「そう言われると急にかわいく見えてきたな。パロ兄ちゃんの横で人の様子を窺う静かな弟、的な」

 かわいいかわいい、と奏多が殿の頭を撫でてからかいます。表情が変わらないなりに困惑しているようには見えますが、怪訝に思っているというような感じでもなさそうです。こんな件はまず間違いなく1年生たちがサークルに入ったばかりの頃では考えられませんでしたね。

「殿、奏多が調子に乗っていますが、嫌なようであれば言うのですよ」
「いえ、特に、問題はないです」
「だろォ? 見てみろよ。これも俺と殿の間の信頼関係だよなー」
「はーっ……本当に調子のいいことばかり言って」
「奏多先輩のことは、自分も皆と同じように、兄貴分として、慕っています」
「そーかそーか! 殿、嬉しいことを言ってくれるじゃねーの」
「ただ、ジュンのことは、同期として、時々、心配になります……」
「えっ」
「えじゃねーわ。お前ー、俺と殿が普段からどれだけ布団で寝えゆーとると思っとんや。干しいも以外の物も食えゆーて」
「あー、あー、わーわーわー」
「耳を塞ぐなや! 手ぇ退けえお前はー!」
「今ー、俺がー、わーわーわー、作業してるのはーあーあー、インターフェイスのーおーおー仕事ーおーおー」

 こうして1年生を見ていると、やはり人間関係が深まってくると年齢だけでは測れない物も出てくるのだと強く思い知らされます。1年生6人の中では1番の年長者であるはずのジュンが、末っ子の殿に深く心配され、1つ年下のうっしーに叱られているのですから。
 手で耳を塞いでわーわーと、外からの声を聞こえなくするジュンの様子は、だだっ子のようにも見えます。この1年間で彼が吹っ切れた結果なのでしょうが、絵を描く作業に熱中しすぎて寝ることも食事もないがしろにしてしまうのはさすがによくありません。
 ちなみにジュンが今描いているのは定例会からの依頼で、ファンタジックフェスタなどで使う足下の配線隠しの横断幕のデザインだそうです。本格的に絵を描き始めたのは確か去年の夏だったと思うのですが、半年そこらで物凄い成長です。努力が実を結びつつあると思います。

「ツッツ! お前も何かゆーたれ!」
「え…? でも、ジュンを見ていると、奏多先輩の言動に年長者としての説得力があるのは、日頃の生活態度なのかなって、ちょっと思っちゃうかな……。ジュンが、年長者だぞって言っても、そうですかって、なっちゃうけど……」
「すみません、ちゃんとします」
「ったく。俺と殿の言うことも聞け」
「ちゃんとしようとは思ってるんだって」


end.


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ツッツが何気にジュンキラー。あとツッツは奏多への懐き度が高い。
1年生で誕生日の細かい設定があるのは3月生まれ組とうっしーです

(phase3)

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