2023(02)

■もてなしの企み

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「伊東、無制限飲みやるぞ」
「突然どーしたの高ピー。てか無制限飲みなんて懐かしい響きだね。俺は全然いいけど」
「何か、高木と果林が付き合い始めたらしいな」
「マジで!? え、どーゆー!? えっ、マジで!? 高ピーはどっから聞いたの!?」

 無制限飲みやるぞ、って言葉に懐かしいなーと思ってニコニコしてたら次に飛び出てきたのはとんでもない情報だよ。果林とタカシが付き合い始めただって!? いや、確かに俺と高ピーはサークルの現役時代からちょっと煽ったことはあったよ? でもマジになるか!

「例によって高木が西海の倉庫で短期バイトをやってるらしいんだが、その通勤の車内で万里が本人から聞いたってよ」
「まさかのこっしー! え、どういう感じで?」
「身の上話をしてるときに彼女はいるのかって聞いたら「4、5日前に付き合い始めた人がいる」っつって。相手のことを聞いたら1コ上って言うだろ」
「は~……大分絞られるねえ」
「おまけに来春からは宮ちゃんと同じ会社に就職するっつー話だ」
「確定だねえ」
「だろ。これは先輩として、盛大に祝ってやらねえとなあ」
「高ピー、悪い顔してるよ」
「あ? これのどこが悪い顔だ」
「でも、盛大に祝うのは、俺も賛成」
「お前も悪い顔してるじゃねえか」

 俺と高ピーで2人を荒っぽくお祝いする方針に決まったところで、具体的な計画を立てていく。まあ、やることは至って懐かしいMBCC的無制限飲み。みんなの休み前に予定を合わせてとことん飲んで食べて楽しく過ごすという会。
 無制限飲みの何が楽しいって、俺は無限に料理を作ってみんなに食べてもらえるというところかな。2人だと精々常備菜作りをするときくらいしか台所に立ちっ放しって感覚がないし。カオルも夕飯を食べに来てくれるけど、食べるペースがゆっくりだから流れは緩やかだ。
 高ピーと果林っていう猛者を2人同時に相手する。久々だから腕が鳴る。作っても作ってもすぐに完食されるあの感じ。最初の頃は大変だって思ってたけど、慣れてくると楽しくなって来ちゃって。今ではああじゃないと刺激が足りないよね。真宙さんと春風ちゃんも強かったけど、やっぱ高ピーと果林が頂上にいる。

「こっしーはどこまで話を聞き出せたんだろう」
「大学の施設の雪山でそういう流れになったとか、告ったのはアイツからだとか、基本的な話くらいだな」
「ふむふむ」
「まだ実感がないっつー話らしいな」
「まあ、元々がめちゃくちゃ仲良いしね。あそこまで仲良いと逆に男女っぽくなるのには時間がかかるかもね」

 下世話な妄想や詮索はいくらでも出来るけど、そこはかわいい後輩たちのために敢えてしない。その時になったらば、タカシ頑張れと応援することくらいしか。……その応援も十分下世話か。まあ、荒っぽくお祝いをするという時点で同じだ。

「俺の周り最近多いなーおめでたい話」
「悪い話が多いよりいいんじゃねえのか」
「それはそうだね。最近姉ちゃんにも彼氏が出来て、この間その妹さんと一緒にここで食事してたんだよ」
「もうそんな家族ぐるみみたいなことしてんのか」
「その妹さんっていうのがすがやんの彼女の春風ちゃんで、よく食べる兄妹でね、無制限飲みにも似た楽しみがあったんだけどね。家が自動車整備工場で、バイクにも精通してる人だから俺もいろいろ聞かせてもらったりとか」
「それは普通にいいな」
「高ピーは仕事仕事仕事って感じ?」
「仕事仕事、たまに飲む、的な。高木のゼミ合宿の話に触発された万里からスノボには誘われたけど、時期的にまだ大丈夫なのかって気がするな」
「ガチなところならまだいけるんじゃない? それこそ長篠の奥の方とか北辰とか」
「やっぱそうなるか」
「割と真面目に最近じゃ高ピーの近況はカオルに聞け、みたいなことになってるし、今度の無制限飲みは絶対ガチるよ俺」
「俺もよくわかんねえんだよな。朝霞と飯食って、何だかんだ別れ際に次の約束をしちまう現象がある。じゃあ次どこ行く、的な」
「多分ね、2人ともそういう約束を口約束で終わりにしないから続いていくんだと思うよ。また今度ね、またいつかねじゃなくて、じゃあ来週の水曜日の19時ね、みたいな具体的な予定になってると言うか」
「ああ、確かにそういう節はあるかもしれねえな」

 慧梨夏の言うところの2人が見ている先が近いということの他に、約束の具体性が付き合いやすさに現れているのかもしれない。しかも、互いに言葉はあまり選ばなくていいみたいだし。多少の暴言や粗相はご愛敬、的な。2人の近況を聞く度慧梨夏がニコニコしてますわ。

「さて。それはそうと何作ろっかなー」
「お前が作りたい物を作ればいいんじゃねえのか」
「やりたいことが多すぎて困るんだよ」
「ああ、そういうな。ああ、そうだ。無制限の日程によってはいいモン仕入れて来れるぞ」
「え、どったの」
「万里主催のスノボ、次の休みに新鷺特攻することになったんだ」
「へえ、いいねえ。次のカレンダー的な休みは俺が出勤だし、ちょっと厳しいかな。その次の休みくらいで考えてみる?」
「そうだな。果林はともかく高木は言えば出て来るだろ」

 今回はMBCCメンバー水入らずということで慧梨夏には悪いけど部屋に引きこもっててもらうか外で遊んで来てもらおう。って言うか普通に仕事してる可能性もあるのか。慧梨夏のスケジュールも確認しとかないと。場合によってはカオルにお願いする状況もあるかも。

「高ピー、新鷺に行くんだったらお米買って来て」
「人をいいように使ってくれるじゃねえか」
「いやあ、どうせならおいしいごはんを食べたいじゃない」
「違いねえ。ちなみに、買うのはこの会で食う分だけか、お前が普段食う用もか」
「普段用もお願いします、お金はちゃんと払いますし」
「つか、お前の普段用の飯ってことはいくらかは朝霞にも払わせるべきだろ。弁当だのサブスクの晩飯権とかで食ってんだろ」


end.


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後輩たちがおめでたいことになったら、先輩たちが悪い顔をしてアップを始めました

(phase3)

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