2023(02)

■客観的に見て

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「あ」
「レナ、どうかしましたか?」
「生理が来た」
「それは大変です! どこかお手洗いのある場所へ行きますか?」
「そうだね。そうしてもらえると助かる」

 ちょうど目の前にはコンビニがあって、春風にはそこで車を停めてもらう。そろそろかなとは思ったけど想定よりはちょっと早かったし、よりによって遊んでるときに来るとかツイてない。下着が汚れてなくて、あと春風の車を汚さなくて良かったと思うしかない。

「ごめん、お待たせ」
「大丈夫ですか? この後はどうしましょう」
「あ、それは平気。予定通り行きましょう」
「そうですか。辛くなったらすぐに言ってくださいね。鎮痛剤もありますし」
「ありがと。てか用意いいね」
「兄さんが車の中にはもしもを想定した防災用品を置いておけと言って持たせて来るのです」
「へえ。薬の他には何があるの?」
「水、食料、携帯トイレに、アルミの温熱シート、それから笛があります」
「でも、実際必要だと思うよ。いつ何時何があるかわからないし」
「ええ。これに関しては正しいことだと思うので、生理用品など、自分なりに必要だと思うものを加えて積んであるのです」

 春風から見れば過保護なお兄さんだけど、車の中に防災用品を積んでおけというのは至って正しいと私も思う。自動車整備工の家なので、バッテリー上がりなど車のトラブルにも対応出来るようになっているそうだ。
 そんな防災用品の中から一応鎮痛剤をもらって、買った白湯で流し込む。白湯がコンビニで買えるのはなかなかありがたい。一応こういう時くらいはカフェインのない物を飲んだ方がいいかなと思うから。明日ぶっ倒れてもいいから今日は楽しく遊びたい。

「そう言えばすがやんの車ってその辺どうなんだろう」
「徹平くんの車もその辺りの備えはしっかりしてありますよ」
「あ、そうなんだ。さすが」
「徹平くんはドライバーとしていろいろな人を乗せる機会があるので、安全安心ということに関しては人一倍気を遣っているように思います」
「お兄さんの座右の銘と言うか人生訓? そんなような物を与えたまさにその人の息子だもんねえ」
「はい。だからこそ私が徹平くんの車に乗ることに対しても渋い顔をしなくなったように思います」
「え。もしかして、お兄さんてどこの誰とも知らない人の車に春風が乗ることも嫌がるの?」
「あまりいい顔はしませんね。車はちゃんと整備はしてあるんだろうなとか、若気の至りで変な運転はしないだろうなとか、うるさいですよ」
「あー……じゃあ、仮にだけど私の後ろに春風を乗せようとしたら、どんな反応するかな」
「そうですねえ……レナがちゃんと寝ていなければ乗るなと言われるでしょうね」
「はい、そうですね、はい」
「ですが、乗り方は教えてもらっているのでそれ自体は特に反対されているというわけではないのですよ。いつか乗せてもらえたらとは思います」

 こう聞くとお兄さんの恩師への信頼がカンストしてるなって感じがする。ただ、恩師ボーナスの分を抜きにしてもすがやんへの信用はまあまああるそうだ。車を見れば人が分かるとお兄さんは言うそうだけど、たまに見るすがやんの車の状態に対する信用でもあるんだろう。

「春風って生理重いタイプ? 平気な方?」
「その時々によりますね。規則正しい生活をしているとはお世辞にも言えませんし、食生活もどちらかと言えばあまり良くありませんから。毎月ガチャガチャを回す感じで、重たい時は重たいですよ。レナはどうですか?」
「周りの人と比べたら重いかもしれない。寝込んだりはしないけど」
「それは大変です」
「くるみは全然平気って言ってるんだよね。あれだけ甘いもの食べてるのになーって思って不思議でさ」
「砂糖やクリームの脂肪分はあまり良くなさそうですよね」
「うん。まさにそう。でも、誰だったかな、サキかな? 何だかんだくるみは運動してるし生活リズムも規則正しいから体に与える影響もいいんじゃない的なことを言ってて。あーなるほどなーって思ったよ」
「確かに、学内のジムに通っているという話でしたね。と言うか、緑ヶ丘ではそういう話を男性の方ともオープンにするのですか?」
「さすがに誰とでもはしないけど、同期内だと割とオープンかも。ウチの同期は理解ある方だと思う」
「はー……向島ではなかなか考えられませんね」
「まあそっちは男女比の偏りも大きいしね」
「奈々先輩が引退されたので、女子がまた1人になってしまいましたしね」

 生理への理解については陸さんは言わずもがなだけど、サキやすがやんは科学的なと言うか、正しい知識がある人たちという印象だ。そういう観点で言えばシノが微妙だけど、シノはしんどいならムリすんなよーとか、ちょっとした気を回してくれるという感じ。
 サークルのアナウンス部長になってからは機材部長のシノと話し合うことが増えたんだけど、生理云々を抜きにしてもお互い調子が良くないときはアナとかミキとか関係なくカバーできるようにしときましょう、という感じで着地した。陸さんに言わせれば「2人ともちゃんと寝ろ」で済む話らしい。

「そっち今何人だっけ? 3年生抜きで」
「10人ですね。希くんは頑なに10.5人と言い張りますが」
「当時春風たち3人はいなかったけど、カノンにとってすがやんは1年生の時間を一緒に過ごした半分同期みたいな物だし、小数点以下としても心に置いときたいって気持ちはわかんないでもないね」
「徹平くんも徹平くんでこちらのことをとても気に掛けていますし、コンマ5とまでは行かなくともコンマ3、くらいは比重を置いているように見えます。MMPメンバーの欲目でしょうか」
「実際すがやんはたまにそっちに行ってるくらいがちょうどいいと私は思うけどね。こっちに必要ないって意味じゃなくて」
「こちらの1年生も徹平くんを慕っているようですしね。本当に不思議な人だなと思いますよ」
「そう言えばウチの1年生は高木先輩に懐いてる気がするなあ。私たちもあの子らと積極的に話していかないと」
「高木先輩は穏やかな方ですから、話しやすいのかもしれませんね」
「ところどころでは結構尖ってるけどね。穏やかなのも本当だけど。陸は器が大きいんだって言うけど、エージ先輩は器がザルなんだって言ってるなあ」
「え、液体や粒の細かい物でなければ、大きなザルはたくさん受け止めることが出来ると思いますよ…?」
「あ。高木先輩で思い出した。聞いて下さいよ春風さん」
「何でしょう」
「陸さんて、菜月先輩に対する野坂先輩ばりに高木先輩のことを崇拝してるんだけど」
「それは相当ですね……」
「最近高木先輩の様子がおかしいんだって言って陸さんが情緒不安定になってて――」


end.


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TKGパイセンは受け流し方が適度なんだろう。だから大きなザルでいい。
そして春風から見てもノサカのアレは相当だと思う様子。今となっては陸さんを示す表現になってそうだ

(phase3)

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