2023

■Worry about fellow man

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 定例会が終わって、たまには後輩と飯でも行こうとツッツに声をかけてみる。すると案外乗り気だったのか、行きますと快い返事が返ってくる。かっすーにも声をかけ、適当な店に落ち着く。会議内容的にいい気分ではなかったので、美味いモンを食いたいなと奮発する前提でチェーンではない店へ。

「しっかしまあ、今回の定例会は物騒な話が長かったわな」
「ウチの問題だと思ってたのが、FMにしうみにまで広がってたっつーんだから」

 去年の12月、サークルOBを自称する三井とかいう奴がサークル室を強襲して1年どもに対してイキリ散らして行った。語っている内容に無能臭が漂っていたのか、社会人時代のトラウマがぶり返したうっしーが発作を起こしたり、映像制作やコミュニティラジオでの活動について煽られたジュンがブチ切れたりと、まあまあヒドいことになった。
 その場は殿が何とかしてくれたが、奴の目的もわからねーし根本的な問題は何も解決していないからどーしたモンか。野坂さんから得た僅かな情報を元にかっすーや春風と話し合っていたら、何と奴はインターフェイスの面々が番組を始めたFMにしうみにもカチ込んで来やがったらしい。今日はこのことについての報告がサキちーから入った。

「マジで対処法がわかんねーわ。奏多、どーしよ?」
「俺の独自調査の結果としては、奴は典型的な構ってちゃんで、イキリ散らすけど中身はねーし無視しとけっつー感じだったわなあ。で、現役の時にもインターフェイスじゃトラブルメイカー扱いだったし、奴がどんな事件を起こそうが3年生以上は驚かねーってよ」
「っつっても俺らは2年なんだよなー」
「俺が言うのもおかしいんですけど、正直、威張ってる割には小心者かなって、思いました」
「言うねえツッツ! いいぞ~」
「どうしてそう思ったんだ?」
「殿が、あの人の前に立ち塞がった時の様子が、そんな感じで。動揺が隠し切れてないと言うか。それまでの語気が嘘だったみたいに、さっさと逃げていって」

 正直、ツッツに小心者って言われるって相当だ。ツッツは相当なビビりで人見知り。インターフェイスの現場で荒療治をやってるけど、1年かけて人に慣れて行けというレベルだ。そのツッツが小心者って他人に対して言うんだぞ。
 とは言え、春風が言ってたジュンからの情報によれば、ツッツは人間に対する耐性が無さ過ぎるだけで、得意なこと……例えばDIYが絡めば人並み以上に強気で物事を進められるそうだ。そうやってジュンは高いコーヒーを奢らされたらしい。

「そーいや奏多、独自調査って、どこでそんなことやってたんだ?」
「その辺はインターフェイスにある人脈を上手~く使ってね。3年生からOBまで、ヨソの先輩何人かに証言をもらって。奴の扱い方をついでに聞いてみたんだけど前述の通りですわ。話を聞けば聞くほどロクでもない奴だって評価になるわな」
「3年生はともかくOB!?」
「人脈が上手いこと繋がって、今年卒業してった人……つまりアイツとタメの先輩だな。そういう人らと同席する機会があったんでね」
「そんなに幅広い人に話を聞けるなんて、さすが奏多先輩です」
「そーだろツッツ~。俺の良さをわかってくれるのは現役じゃお前だけだよ」
「鳥ちゃんがいたら怒られてるヤツじゃん奏多」

 ラジオ局の方は局の偉い人が対応して出禁になったらしいけど、今後もインターフェイスやウチの活動にいちゃもんを付けに来ないとも限らない。それらしい対応策は特に見つからず、MMPもインターフェイスも後手に回っているという状況だ。

「多分ウチの救いって、女子が全然いねーことなんだよ。目が合った女を無節操に付け狙うらしくってよ」
「ええ……」
「奏多、ツッツがドン引きしてるぞ」
「でもマジらしいからなあ。それで星大のPC自習室に何週間も張り付いてたらしいし」
「ガチ犯罪じゃんか! え、つか鳥ちゃん危なくね!?」
「いや、男のいる女はアバズレ認定だから男と同じ扱いで暴言を吐きまくるそうだ。春風に関しては心配ない」
「それはそれで……。えっ、自分の彼女になる可能性のない人は、敵対する、みたいな感じですか…?」
「聞いた感じそんな風よな。処女信仰でもあんのかね」

 ジュンのバーターで呼ばれたつばめ会で入手した情報を解釈するとそんな感じだ。ラジオ局にいるサキちーの先輩バイトの人もインターフェイス出身で奴のことは知っているそうだけど、女子には特に注意を促していたそうだからそういう奴なんだろうとは。

「こうやって会議してみたけど、結局何も進まなかったな」
「マジで無視が一番効く感じなんかなー」
「……ちょっと、ジュンと、うっしーが、心配です……」
「まあお前からしたらそうだよな」
「殿とも話してて……。前に、うっしーがジュンを叱ってたんですけど、「一度壊れた体とメンタルは、どれだけ回復しても壊れる前の状態には戻らない」って……。もしそれが、うっしーの経験から来てるんだとしたら、うっしーの精神状態が心配だし、ジュンも負の感情をこじらせたら、とことん落ちていきそうで怖いね、って。楽しくてやってた作品制作やラジオが、あの人を見返すためにって、目的が変わらないかって」
「ツッツ、お前、サークルに来た頃よりちゃんと顔が上がってんな」
「え?」
「どうもお前は1年の中ではアイツに動じてない方みたいだからな。その感じで、近いトコから同期連中を見てやっててくれ」
「うん、ホントに。ツッツ、奏多の荒療治が効いてきてる? 何か、一番動じてないのは殿かなって思ってたけど、実はツッツなのかも。俺らも極力ケア出来るようにするけど、ツッツ、5人を頼むな」
「はい。出来るだけ、ですけど、やってみます」
「それでいい。特に年長組が年が上ってだけの理由で強がってたら、俺の方がメンタル強いぞってぶん殴ってやれ」

 サークルっつー狭い範囲とは言え、今のツッツの発言には着実な成長を感じたし、この状況で頼れるのはマジでコイツだ。コイツならジュンがまっくろどころじゃねー闇に堕ちたり、うっしーがあの頃を思い出して取り乱すのを食い止めてくれそうだ。

「さ、心配するのは仲間内っつー方向性でまとまったところで帰りますか!」
「そうだなー」
「奏多先輩、誘ってくれてありがとうございました」
「いーってことよ! あ、でもさすがに奢らねーぞ」
「そ、そんなつもりじゃなかったです」
「わーってるよ」
「奏多、何かキャンペーンやってるって。合計4000円以上で抽選1回、1等は当日のお会計100%割引って」
「おっ、そしたらここはまとめて、ツッツ、抽選行け!」
「えっ、ええ~…!?」


end.


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ひっそりと三井の乱が起きていて、その対策をちょこちょこ話し合っているMMPの面々です。
1年生6人だと一番動じてないのは殿かなって思ったけど、彼もブチ切れてはいるし実はツッツだったのかもしれない
奏多ツッツの先輩後輩の関係もなかなかいい感じになってきた感。

(phase3)

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