2023

■secret weapon of love&peace

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「やァー野坂、相変わらずヒロの勉強の面倒スかァー」
「ヒロの奴、俺が使えないとわかると春風やジュンに集り始めたからな。さすがに後輩がコイツの犠牲になるのは可哀想だろ」
「野坂さんも大変ですねえ。野坂さん自身はもうほとんど単位を取り終えていて、残っているのも一般教養でしょう?」
「それな。内容は理解しているとは言え去年以前に取った講義だぞ。そもそも、ヒロが留年しようが就職が流れようがどーうでもいいんだ俺は」

 だけどヒロがノートだの何だのを後輩に集り始めると、集られる後輩が可哀想なので結局こうなってしまう。それを見ている京川さんからは「S君チョロいねえ」などと煽られる始末だ。正直に言えばTAのアンタがこの悪魔をどうにかしろと言いたい。
 さて、ヒロは飲み物を買いに出ているとは言え久々にMMPの同期が揃った。律とこーたも席に落ち着き、始まるのは近況報告だ。こーたはともかく律はまあまあ久々だから、どうしてるかみたいな話はあんまり入ってこなかったもんな。

「律は最近どうだ?」
「自分はゼミに出る以外は大学に来ないンで、その時間で来春から暮らす家を探したりっつー感じスかね」
「お、どこに住むんだ?」
「会社の場所が場所スから、星港の港区だとか、西海の星港寄りになるかと」

 律は木材関係の会社に就職を決め、来春から実家を出て一人暮らしをすることになっている。律の地元には働く場所もあまりないし、大学への通学ならともかく社会人として暮らすには立地が良くない。絵に描いたような新生活が始まるってワケだ。
 こーたはウェディング関係の会社に就職することになったそうだ。幸せなカップルをひたすら呪うウザドルがまさかそんな幸せいっぱいの会社に就職するとは思わなかったけど、事務や式場の音響の仕事をするらしい。音響と聞いて感心したのはミキサー陣2人である。
 そして俺は、星港中心のオフィス街にドドンとビルを構え、俗にクソデカ商社と呼ばれる会社にエンジニアとして内定をもらっている。就職までに取れる資格は取るし勉強はするし、とにもかくにも無能の大卒にだけはなるまいと努力の日々だ。

「ところで、カノンから連絡があったンすけど、今度奈々にサプライズで3年間お疲れさまでした的食事会を豊葦の貸部屋でやるそーなンで、4年生も来てくださいっつって招待されてヤす」
「奈々も引退ですか。月日が流れるのは早いですねえ」
「殿がおでんを作ってくれるそーなンでね」
「絶対美味いじゃないか! ちなみに、日程ってサークル最終日か?」
「そう聞いてヤす」
「了解」
「あっ、りっちゃんとこーたやん。何しとんの」
「私たちは通りがかりですよ」
「やァーヒロ、卒業出来そースか?」
「ノサカがどーにかしてくれるから。卒業出来やんのならノサカのせーやし」
「意味がわからない」

 コーヒーのペットボトルを持ってヒロが戻ってきた。律とこーたに久しぶりやんと挨拶をして奴も席に着く。ヒロは単位がギリギリだから割と大学に来ているけど、律とこーたはほとんど来ていない。その差もまあデカいだろう。

「ヒロ、ところで今度サークルの食事会に誘われてるンすけど、来ヤすか?」
「え、何で?」
「奈々のお疲れさま会だそうですよ。幹事がカノンですから、とにかく賑やかにやりたいんでしょう」
「あー、そーゆーね。今更ボクに声かかるとも思ってなかったわ」

 それはそう、とミキサー陣3人の声が揃う。俺たち3人はともかく、ヒロは今年度まだ1度もサークルに顔を出していない。如何せんサークル棟は遠いので、足がなければ気軽に行けるような場所でもないのだ。俺たちは悪ふざけのためにたまに行ってたけど。
 ただ、ゼミの関係上春風とジュンだけはたまに顔を合わせているし、だからこそノートやプリントを集ろうとしていたのだけど。もちろんこの2人には俺が「油断するとヒロはつけ込んでくるから下手に出るな、そして奴の現状は自業自得だから決して助けるな」と教育してある。

「今年1年いっぱいおるらしいけど、ボクジュン以外誰も知らんもん」
「まあ、1年もお前のことを知らないからなあ、三井先輩をお前だと思うワケだな」
「え、何それどーゆーコト」
「そこで財布の人が出てくるンすか」
「こないだ謎に三井先輩がサークル室に来て暴れてったんだよ。年末特番の作業してた1年にイキリ散らすわ備品を壊すわ」
「私たちのよく知る三井先輩という感じがしますけどねえ」
「それで救援要請を出されて現場に行ったんだけどさ。1年生の間じゃ三井先輩は謎の人だろ、それで未だに顔見せてないもう1人の4年生か、みたいな仮説が出てだな」
「はー!? 三井先輩と間違われるとかイヤすぎるんやけど!」
「それはお前が普段も学祭でも顔を出さなさすぎた所為だろ」
「にしてもやよ! ボク三井先輩と対極な平和的な存在やと思わん!? あーもー納得いかん。ボクあんなセンスなくておもんなくてワガママな人とちゃうよ」
「いや、十分ワガママだろ」
「まあ、面白い人であるとは思いますよ、ワガママですけど」
「センスもまァありヤすが、ワガママではありヤすよ」
「でも三井先輩よりはちゃんとしとるよ! ボクのワガママでりっちゃんとこーたが困ったことある!?」
「番組の時に困り散らかしヤしたが」
「それはゴメン。それ以外の話やよ」
「私は正直困っていませんね。暴言の程度も一般の範疇内ですし」
「そースね。ぶっちゃけ野坂以外に実害はないンすよね、ヒロのワガママは。なンで自分も特に」
「俺には実害ありまくりなのだが?」
「それはそーゆー星の下ッつーコトで」
「でも三井先輩と間違われたままなんはイヤやわ~……」

 まあ、ヒロはヒロで大概ではあるのだが、正直他の人からすれば三井先輩ほど厄介ではないらしい。俺には実害ありまくりだがな! あと、ヒロも三井先輩絡みの被害にはちょっとは遭っているので(対策委員の活動中とか)、自分が三井先輩と同じ人だと思われることに対する嫌悪感が凄まじいのだろう。

「今日何曜日? あっ、月曜日やん。サークルやっとるやん。カノンに言ってさ、遊びに行こーよりっちゃん」
「自分はいースよ。こーたと野坂はどーしヤす?」
「私もいいですよ。年末特番の力作も気になりますし」
「まあ、そうなったら俺も行くよな」
「ところでヒロ、年内のサークル最終日の夜にある食事会スけど」
「出る出る。そーゆーコトやからカノンに言っといて」
「了解しヤした」

 さて、ラブ&ピースの学年の隠し玉が最後にしてようやく出てくるワケだけれども。天然の悪意ほど恐ろしいものはないと、現役生に思い知らせてやろうじゃないか。


end.


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油断すると収集付かなくなるうるささは相変わらずのラブピの学年。
この学年の就職先や1コ下の何となくの進路希望を考えなければならないのが時の流れ。

(phase3)

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