2023

■いつかのバクダン

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「あー、ハナさんどーもわざわざすいません」
「ビックリしたよ、急に「相談したいことがある」だなんて」

 そうやってハナを呼び出してきたのは向島の松兄だ。定例会では軽くて、調子がよくて、ちょっとふざけてるような印象が強いけど、ファンフェスでペアを組むことになって1対1で話してみると、意外にちゃんとしてる一面もあるんだなって。普段からちゃんとしてればいいのにとは本人にも言ったけど、結局定例会では軽いままだったな。しょぼーん。
 で、何の相談なのかはこれから話があるんだろうと思う。松兄がハナに何の相談なのかっていう想像は全っ然つかないんだけど。思い当たる節は……うーん、やっぱり特に思いつかない。定例会のことだったら別にハナじゃなくてもいいし。サキとのことでもなさそうだし。でも、松兄みたいな人が相談って言うと、すっごい重いかすっごい軽いかのどっちかなんだよね。

「じゃ、さっそくなんで本題に入っちまいますね」
「うん、お願い」
「俺がハナさんに聞きたいのは、ファンフェスのときにアンタが言ってた「向島には何年かに1人結構な爆弾みたいなのが出る」的な話の詳細っす」
「そんなこと聞いてどうするの?」
「単刀直入に言うと、こないだウチのサークル室にOBを自称するイキリ野郎が押しかけて来ましてね。年末特番の制作作業をしてた1年に威圧的な説教をかました上にサークルの備品の棚をぶっ壊しやがりまして」
「えっ、大変じゃん!」
「そーなんす」
「それでどーなったの!?」
「1年共はパニックになったり煽られて手が出そうになったりしたらしーんすけど、最終的には静かにブチ切れた殿が奴の真ん前に立って「これ以上は看過できません。お引き取りください」っつって追い返したそうっす」
「あー……それは怖いねー。あっ、殿はいい子だよ? でもあれだけおっきい子が静かにブチ切れてそれって怖すぎるよ、しょぼーん」
「俺はその後にサークル室に到着したんで、1年連中から話を聞いただけなんす。で、俺はその自称OBと面識がほぼないんで、もしですよ? 今後も同じようなことがあったときにどーしたモンかなと考えてたワケっす。そこで思い出したのがハナさんの話っすよ」
「ハナヒントになりそうなこと何か話したっけ」
「青女の子がこの間卒業してった向島の4年にパワハラ紛いのことをされたのがトラウマになってサークルを辞めざるを得なくなった、っつー話を確かファンフェス打ち合わせで聞いたなーと思ってね。圭斗サンや菜月サンはそういうことをするようには見えませんし。アンタなら何か知ってるんじゃないかと思って相談に上がった次第です」

 松兄のしてる話が重い方の話だったから、ホントに大変じゃんって思って。松兄はこうも続けた。周りより年上だし“松兄”なんて名前でやってるからこういう時にいろいろ相談されがちだけど、サークルに入った時期で言えば今の1年生とほぼ変わりない。でも兄貴分をやっている以上、どんな事態も想定しておかなければならないんだと。
 奈々には相談したのかと聞くと、代替わり済みとは言えサークルの最高学年の人間なので報告くらいはしてあると返って来た。逆に言えばそれくらいしか話を通さずにハナのところに来てるってことは、きっと奈々に心配をかけたくないんだろうなって。一応野坂先輩とも話はしてるらしいけど、基本的には現役で何とかしたいらしい。

「その青女の子が受けてたパワハラ紛いのことっていうのも、ハナも話に聞いただけなんだけど、それこそ今松兄が言ってたみたいな威圧的な説教がメインみたくって。もちろん圭斗先輩となっち先輩ではないよ」
「はー、やっぱそーなんすか。同じ奴なんすかね? その自称OB、三井っていうらしいんすけど」
「うん、確かそんな名前だったと思う」
「そうか。オッケー、前科アリね」
「その話についてはハナもエージから聞いたくらいでちゃんとは知らないんだけど、班打ち合わせでの態度が本当に酷かったって。3年の言うことを聞けーとか、自分がインターフェイスで一番上手いアナウンサーなんだーとか、星ヶ丘のミキサーに何がわかるーとか。口ほどの実力もないのにとにかく上から目線のクソ野郎だって当時のエージは言ってた。あっ、その向島の人、ハナたちが1年の時の夏合宿でエージの班にいた人なんだけどね」
「そいつの対処法? みたいなことって、アンタよりエージさんのが詳しい感じっすかね?」
「そうだねー、ハナ直接相手したことないから」
「アンタが相手したのはもう1人のクソ野郎っすもんね」
「そーそー。って、思い出したくもないよ。しょぼーん。あっ、良かったらハナからエージに聞いてみようか? あの人のこと」
「あー、えーと、聞いてもらえるのはありがたいんすけど、出来れば話をあんまりデカくはしないでもらいたいっす。あくまでウチの問題なんで」
「わかったよ」

 多分松兄は水面下で情報を集めてるんだろうなって思う。それこそカノンやとりぃすら置いてけぼりにするレベルで。責任感みたいな物はハナが思ってるよりずっとずっと強いのかもしれない。向島も大変そうだし力になってあげたいとは思うけど、あんまりどうこうはしてあげられないんだろうな。それこそちょっと相談に乗るくらいしか。

「あー、しかしマジでどーしたモンかなー。ハナさんワンチャン奴の嫌いなモンとか弱点とか知ってたりしません?」
「えっとね、聞いた話では、目が合った女の子はもれなく惚れられて付き纏われるとか、あっ、自分より能力が高いイケメンが嫌いって話だよ。ウチの高崎先輩とかすっごい目の敵にされてたって」
「うわー俺絶対嫌われるわーうれしー」
「松兄、そーゆートコ。結局イマイチ信用ないの」
「スイマセンね。つか目が合った女にもれなく惚れるとか。マジで言ってます?」
「うん、本当らしいよ。星大では女子はまず「あの人と関わるな」って教わるそうだもん。星大さんて、あの人に5、6人? もっと? とにかくすっごい告られて、振ったら振ったで逆恨みされるらしくって」
「そーいや追いコンの時にも春風を狙ってたな。春風を狙うとか節操がねーのはマジだな」
「とりぃは可愛いじゃん」
「アンタは春風の外面しか見てねーからそんなコトが言えるんすよ」
「そりゃあ幼馴染みよりは知らないけどさ、すがやんとレナの話を聞いてる感じじゃいい子じゃん」
「その2人の話も十分偏ってると思いますけどね。特にすがやんなんて惚気混じりでしょ」
「惚気混じりだけど嫌な感じが全然ないんだよ。さわやかな感じで好感度は高いよ」
「あーそう」


end.


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ここからつばめ会に話がどんどん流れていくのね。でもMMPだけの問題ではなくなってたからセーフ

(phase3)

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