2023

■turn it, turn it, turn it!

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「ジュン、購買に寄っていい?」
「いいよ。何を買うんだ?」
「養生テープとマスキングテープが欲しくて」
「はあ。普通の文房具とかじゃないんだな」
「本当はホームセンターとかに行くべきなんだろうけど、なかなか行けなくて。それで作業が止まるのも嫌だから、多少割高でもすぐ欲しいんだよ」

 サークルの前、ツッツの用事で購買に寄ることに。欲しい物がDIYに使う養生テープとマスキングテープというのがまたツッツらしいなと思いつつも、そんな物が果たして大学の購買に売っているのかとも思う。
 購買の前に差し掛かると入り口の前に長机が出されていて、職員の人が座っている。何かの受付でもあるのかなと思って看板を見てみると、ガラポン抽選会と書いてある。よくあるガラガラを回して出て来た色に応じた景品がもらえるらしい。

「ツッツ、抽選会だって。2000円で一口」
「俺の買い物じゃさすがに2000円にはならなそうかな」
「そっか、残念」

 看板を読むと、1等は有名テーマパークペアチケット、2等は大人気ゲーム機、3等は緑風産新米5キロ、以下文房具券、学食のお食事券、粗品となっている。俺個人としては文房具券とかお食事券がもらえると助かるんだけど、他のMMPメンバーだと何を狙っていくんだろうか。

「ツッツ、回せないとしても、どれが欲しいとかはある?」
「あー、うーん……この中だったらゲーム機かな。持ってはいるけど、俺のは結構古くなってるし。新しい方がバッテリーも長持ちしそうだから。ジュンは?」
「文房具券かお食事券」
「おー! ジュンにツッツやん! お前ら何しとるん!」
「……いや、それはこっちのセリフだ。うっしー、4限サボっただろ」
「いやー、本屋で立ち読みしとったらこの時間よ! あっジュン、ノートヨロシク!」
「ったく」

 4限にいないなと思っていたうっしーが、こんなところにひょっこりと現れた。うっしーは本人曰く、程よく力を抜いて大学生活を送る、ことをモットーとしているそうだ。授業をサボることにしても本人のイメージする大学生活の謳歌の仕方なのだという。サボってる割にテスト前に焦る様子も見られないしそこそこの成績なのが凄いと思う。

「お前ら何買いに来たん?」
「俺はツッツの付き添い」
「えっと、養生テープとマスキングテープが欲しくて」
「かーっ、また渋いモン買いに来たなあ。まあ、養生テープなんかは一応家でも使えるモンやから売ってはおるか。ツッツが使うようなモンかは知らんけど」
「え、養生テープって家で使うような物か? ツッツみたいな趣味があるならともかく」
「案外便利なんよ。粘着弱いから箱の仮止めに使ったりとか、表面にマジックでメモして付箋みたいな感じで貼っとくとか。ああ、もっとちゃんとした使い方があるとすれば台風の時に窓にバッテンするとかか」
「ああ、なるほど。そう聞くと確かにあると便利そうだ」
「防災の観点からも、あるといいと思うよ」

 手でも簡単にちぎれるのでパッと使うにも便利なんだそうだ。そう聞くと便利そうなので、とりあえず自分も買ってみようと思う。もしかしたら自分の家にもいい使いどころがあるかもしれない。

「ところでうっしー、表の抽選会の看板見たか?」
「見た見た! お前ら何狙うん?」
「いや、さすがに2000円には足りないかなって話してたところだよ」
「うん」
「そしたら3人の買い物足すか? サークル室の買い物するとか」
「そう言えば、この間奈々先輩がアップルパイ焼いて来てくれた時にフォークの残り本数が少なくなってたと思うんだよ。買っていくか」

 使い捨てのプラスチックフォーク10本入りの袋を3袋。これで300円ちょっとだ。養生テープの分も含めると600円くらいにはなるだろう。ツッツは養生テープとマスキングテープ、それから飲み物を足した。うっしーは飲み物とお菓子、それからマスクと喉スプレーを手に取った。それを見て、インフルエンザも流行ってるし必要だなと思って俺もマスクと喉スプレーを追加。

「何やジュン、お前1人で2000円行ったやん」
「俺とうっしーで抽選1回だね」
「ツッツ、お前回したらええわ」
「え、何で?」
「お前みたいに邪念の少なそうな奴の方が当たるんよこーゆーんは」
「あー」
「納得すんなやジュン! ま、そーゆーコトやから」
「わ、わかったよ」
「じゃあ、まずは俺から行きます」
「おう、行ったれジュン」
「お願いします」

 抽選券を係の人に渡して、ガラポンを回していく。出て来た玉の色は白。粗品の駄菓子をもらった。まあ、こんなものだよな。抽選会自体も始まったばっかりだし。もらったお菓子は夜の作業中につまもう。

「うっしー、うまい棒もらった」
「見せんなや! まだトラウマ残っとんのや! ジャックにやれや」
「いや、自分で食べるけど」
「ならさっさとしまえっつーの」
「ツッツ、ゲーム機当てろ」
「お願いします」

 ツッツがカラカラとガラポンを回すと、緑色の玉が出て来た。そして高らかに鳴り響く鐘の音。緑は何等だと確認すると、どうやら3等らしい。

「おめでとうございまーす! 3等、緑風産の新米です」
「おー! ツッツ当てたやん!」
「ゲーム機ではなかったけど、3等ならなかなかじゃないか?」
「……でも、うっしーと会計を一緒にしたし、俺がもらうのも」
「そしたらジャックにでもやって、アイツん家で俺らメシ食う時にでも使おうぜ」
「うん、それがいいんじゃないか?」
「そ、そしたら、ジャックに預かってもらおうかな……」

 そう言ってツッツは受け取った米袋を抱える。これからサークル室までの坂を上って行くのに大丈夫かなと思ったけど、ツッツには5キロ程度なら全然平気らしい。普段もっと重い荷物を持ったり、棚とかを組み立てたりしているから人並みの力はあるんだろう。控えめな性格だから力があるようには見えなかったんだけど、思い込みはいけないなと思った。

「つか、5キロって茶碗何杯分やろ」
「わからないなあ……」
「えーっと、今調べたら1キロで13杯くらいらしいから、5キロだと65杯かな?」
「11人でも6杯くらいか。めっちゃ食わなアカンな」
「何も一度に食べなきゃいけないってワケでもないんだぞ」


end.


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ツッツがお米を当てたという件が昨年度サラッと語られたので、収納班のガラポン抽選会。

(phase3)

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