2023

■みんなで走ろう

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「ねえねえ! 9時キャンメンバーでこれに出てみない!?」
「えーっと? “西海シーサイドマラソン”?」
「そう! これ、3月に開催されるみたいなんだけど、その頃だったら番組も始まってるし、企画としてはいいんじゃないかなーって」

 FMにしうみで1月から放送開始する学生番組の初期メンバーは5人集まった。緑ヶ丘から俺と琉生、向島のジュン、青女のまつり、青敬の雨竜だ。今は番組の基本方針であったりコーナーの打ち合わせを中心にやっていて、個々人のキャラクターを掴む段階でもある。
 そんな中、まつりがパンフレットを俺たちに差し出して提案してきた。局の入り口とかに掲示してあるヤツだ。でも、マラソンと聞いて正直「正気?」と思ってしまう自分がいる。運動は苦手だし、しかもマラソンでしょ。42キロとか絶対にムリ。

「町おこしの一環で行われるイベントの一種ですかね。観光の要素もある感じで」
「そーそーそーゆー感じ! 沿道でご当地名物とか食べれたり、仮装ランナーがいたりするお祭りマラソンって感じ!」
「へー、コスプレで走るんだー。大変そー」
「コスプレは絶対じゃないよ」
「9時キャンの認知度も上げたいし、町の企画に参加することで一体感を出そう的な!? 大会に向けた経過報告でひとつのコーナーにも出来そうじゃない?」
「まつりの言ってることは尤もだしすごくいいと思うんだけど、マラソンでしょ。走りたくなさすぎる」
「すっご。アタシの脳内のサキとほぼ同じこと言った。サキはやっぱ走るのとか運動とか嫌いだよね」
「わかってくれてるようで何より。好きじゃないし得意でもないね」

 MBCCの同期で遊ぶときも、体を動かす系アクティビティになると大体みんなのお荷物になってるなって自覚してる。チーム戦だと能力のバランスを取るためにスポーツ万能のササと組むことになりがちだし(ササに関しては完全に天が二物も三物も与えてるよね)。
 まつりは野球の経験者で、体を動かすのが大好きな体育会系。俺とは対極の存在だ。だからマラソンをやろうという発言が出るのも驚きはないし、企画自体は悪くない、むしろ良いとさえと思う。自分がやるのが嫌なだけだ。

「つか、お祭りマラソン自体は楽しそうだけど、マジで実際自分が42キロ走るとなると、確かにちょっと引くわ。俺も文化系だし」
「トレーニングしてる人以外は実質早足のウォーキングだよ! 食べ歩きもついてる! 雨竜、一緒にやろう!」
「早足のウォーキングくらいでいいならやってみようかな」
「やったあ! さっすが雨竜! 話のわかる男! あっ、サキは走らなくて良いから監督兼マネージャーね。練習の時にはストップウォッチでタイムキープしたり、実際の大会中には走らずにアタシたちに密着する人や、参加者の人にインタビューする人がいてもいいと思うんだ」
「そういう仕事でいいんなら9時キャンマラソン部のマネージャー、やってもいいよ」
「いいなーマラソン部ー。部活みたい。ジュンくん、一緒にやろー」
「琉生、走れるのか?」
「あんまりやったことないけどー、みんなでやったら楽しそうかなーって。ジュンくんは走るの好きー?」
「好きだよ。俺は高校の時陸上部で、長距離やってたからある程度は。でもブランクがあるから体力落ちてそうだ」
「ウッソ!? ガチ勢じゃん!」
「9時キャンマラソン部のエース爆誕じゃねーか!」

 こうしてまつりを部長に置いた9時キャンマラソン部が創部されることになった。番組内での企画化についてはまた局の偉い人たちに話を通してからになるとは思うけど、それがダメでもマラソンには出ようということで話がまとまった。
 何て言うか、ここのメンバーが「全員で走ろう!」って言って無理矢理走らそうとする人たちじゃなくてよかった。意外に融通が利くと言うか。MBCCだったらくるみ辺りが絶対に1回は走れって言ってきそうだし。監督兼マネージャーの椅子を用意してもらって感謝だ。

「でも、せっかくだしインターフェイスのみんなにも声かけてみたいねー。走るの好きな子とかいると思うんだけど」
「でも9時キャンの企画でインターフェイス全体に声かけんのか?」
「そう言えば聞いたことがあるよ。ちょっと前には、インターフェイスのメンバーが集まってサッカーをやるIFサッカー部っていう課外サークルみたいなのがあったそうだよ。実際インターフェイスの表舞台に出てきてない人も普通にいたとか」
「へー、そんなのがあったんだ。サキ、定例会で声かけてみてよ」
「さすがに私的な話過ぎないかな。まつりが口コミとかで広げてよ」
「しょうがないなー。星大はちとせルートで千颯から攻めるかー」
「じゃ俺は当麻に声かけっかー」
「ねー誰か星ヶ丘攻めてよー」
「じゃあ彩人に伝えとくよ」
「よろしく! みんなそれぞれの大学でお知らせしてね!」

 まあ、彩人も俺と似たようなタイプだから自分が参加してくれることはないと思うけど、周りの人に伝わることを期待して。ウチだと誰が出る可能性がありそうかなあ。それこそササとかになりそうだ。別に他の参加者がいなくても、純粋に9時キャンメンバーでの活動になるだけだ。

「向島は誰か、話す価値のある人はいるかな」
「可能性があるとすれば2年生の先輩かと。同期はみんな文化系なのであまり期待出来ませんね」
「あのメンバーでジュンが唯一の体育会系っていうのも何か意外で面白いよね」
「みんなそれぞれ趣味は濃いんですけど。ああ、練習するなら殿にレモンの蜂蜜漬け作ってもらいたいなあ」
「あっ、ジュンはハチミツ派なんだ!」
「まつり先輩は砂糖派ですか」
「ウチのチームは砂糖だった! どっちでもいいけど部活中のレモンって青春だよね! タッパーに敷き詰められてシャリシャリに凍ったレモンがクーッて! とにかく美味しいんだよ!」
「ああ、夏場は凍らせても美味しいですよね」
「えー何それー。私もちむちむに作ってもらいたいなー」


end.


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ジュンは意外に体育会系だし意外に脳筋的問題解決の仕方をしがち。まあまあパワータイプ。
サキの中のくるちゃんのイメージ。でもレナやん辺りがまあまあって収めそうではある。

(phase3)

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