2023

■エネルギーの生産効率

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「カオちゃん見ました!」
「どれを?」
「あの超ド匂わせ画像に決まってるじゃないですか!」
「ああいう些細な写り込みでいろいろ特定される時代なんだもんな。あ、もちろん情報は極力入らないようにはしましたけど」
「確信犯だわー、やってますわー」

 伊東さんの言うところの“超ド匂わせ画像”というのはこの間うちで高崎と鍋をやったときの写真だ。それだけだと何が何だかなので、「クラファンユーヤと2人鍋」と添えて投稿した。もちろん情報の写り込みには細心の注意を払って。情報の扱い方は誕生日バレの時にめちゃくちゃ勉強した。自分だけならともかく相手のあることはもっと慎重に。

「あの画像、実は撮ったタイミングと投稿タイミング違うよね?」
「わかるんだ」
「わかりますよ。だって投稿が10月29日の日付変わって少し後でしょ? 本当にクラファンのユーヤ君、もとい高崎クンとお鍋やってたんだとすればそんな時間帯に高崎クンが起きてるワケないもんね」
「おっ、さすが伊東さん。ご明察」
「あと机の後ろの方にう~っすらと見覚えのある紙袋が写り込んでましたよ。うちのおつかいをこなしてもらってありがとうございました」
「いえいえ」

 伊東さんから頼まれていたおつかいというのが、彼女への誕生日プレゼントのお返しとなる物をアイツに渡してくれという内容だ。アイツと会っていたのは厳密には投稿日時の前日である28日だけど、投稿日時をズラすことでクラファンユーヤへせめてもの祝意を伝える。
 尤も、誕生日云々ということは現場でもネット上でも言わないから、それこそ伊東さんからの“謎の小包”だけが言葉無くそれを伝える唯一の媒体となる。もちろん俺はそれを知らない体だし、小包を渡し終えればただの鍋パーティーだ。

「あの投稿にチータが「鍋やるんなら俺も混ぜろ!」って絡みに行ってるのがかわいかったし、普段SNSの投稿にあんまり反応がないソルさんがいいね付けてるの見て激エモでした」
「あー、ソルさんの反応は仕事も落ち着いてきたみたいだし多分高崎関係の投稿だからかな? あと今度メンバーのタメ組で鍋やることにはなった」
「そのメンバーでお鍋って、誰がお世話するんだろう。正直バネレイはイメージないし、コンちゃんとか?」
「まあ、実際そうなるとは思う」
「コンちゃんて普段料理とかするんです?」
「花婿修行の一環として練習を始めたとは聞いてる」
「わかるわー、状況と気持ちわかりすぎるー。って言うかそれこそ高崎クンとの2人鍋って、どーやってたの!? だって高崎クンなんか言っても普段カズに全部投げっぱで食べ専飲み専みたいなトコありますよ!?」
「それこそ見よう見まねで適当に具を煮ただけだよ。お前学生時代カズの鍋死ぬほど食ってんだろとか、お前は山口の鍋食ってたんだろとかっていう小競り合いから始まってさ。でもまあ喧嘩しててもしょうがないし、スープは市販のが十分美味いからあとは適当に」

 お互いにカズや山口の用意してくれた鍋のイメージはあったけど、自分でやるということをほとんどしたことがなかったらしい。高崎は学生の頃にアパートでLとも鍋をやってたらしいけど、それもアイツは後輩のLに用意を投げていたそうだ(この光景は映像で想像出来る)。
 鍋に流し込むだけでそれらしくなる市販のスープの素晴らしさを確認するのと同時に、スープを自分で作るにも出汁からしっかりとるカズや山口の異常性を認識した俺たちは、今までどんな恵まれた環境にいたんだろうかと反省をし、しみじみと肉を食み続けた。
 特にお世話をするされるということがない鍋の利点としては、「お前食べてる?」みたいなことを気にするでもされるでもなく好き勝手に具を突っ込みながら鍋をつつけるという点だ。と言うかアイツは俺が気にするまでもなく食ってるし飲んでるし、俺は欲しい具はネクスト用器にキープして冷ましている。

「ああそうだ伊東さん」
「なに?」
「冬の間に1回さ、弁当サブスクの晩飯権使ってカズの鍋をぜひとも食わせていただきたいワケです。追加費用がかかるんなら喜んで払います」
「あ、いいね! そしたらうちからも頼んどくよ」
「あざっす!」
「そうだ、高崎クンも呼んじゃえ。人数多い方が楽しいし、カズも張り合いが出るだろうからね。そうなると高崎クンがノー残の水曜日か金土くらいになるのかな? みんなのスケジュール確認しとかないと。あ、カズのオッケー出たらカオちゃん高崎クンに連絡しといてくれる?」
「え、何で俺が」
「最近一番高崎クンと連絡取ってるでしょ?」
「言うほど取ってねーし。会うときだけだから精々月イチだ」
「リアルの人なら月イチは十分取ってますよ」

 確かに、それまで仲良かった奴でも社会人になると連絡を取り合わなくなって……的な話はちょこちょこ聞いたことがある。そう考えると俺と高崎はまあ頻繁に会っている方だと思う。夏から数えたら月イチでメシ行ってるって確かに十分だよなあ。つか、山口ともそんなに会ってないぞ。
 休み前がベストだろうけど実際曜日関係なく高崎クンならカズのお鍋には絶対食いついてくるから、と彼女からの太鼓判があるとは言え、俺の役割は実質的伝書鳩。この間の謎の小包とやっていることが大差ない。いつも思うけど、友達(悪友)なんだから自分で連絡すればいいのに。

「あー、カズの鍋もいいけど山口の鍋も食いてーなー」
「よっぺさんのお鍋ってどんな感じなの?」
「美味かったのは鶏団子鍋だな。あれはマジで絶品だ。今度頼んでみようかな。アイツこれから忙しくなってくるからやるなら早い方がいいな」
「いいなー、興味深い」
「伊東さんも声かけようか」
「わかりますかカオちゃん、それこそ超ド匂わせ画像越しにあることないこと妄想するポジションでいたみが強いんですよ。クラファンユーヤ君でもないリアルガチ親友との2人鍋とかオンのSNSには持ってこない方がいいんだろうけれどもね!?」
「わかるかわからないかで言えば、全っ然わからない」
「高崎クンもオフの友達ではあるけどクラファンのユーヤ君ていうまたの名があるでしょ? でもよっぺさんはよっぺさんなんですよ、不可侵領域なんですよ! もちろんオンとオフ、ネットと現実の区別は付いているのでご安心あれ。その上でオンの面でのあれやこれやをあーやらこーやらするのが楽しくってね!?」

 伊東さんを見ていると、俺もネット上での歩き方を日々勉強して情報をアップデートしていかなきゃなって思うので身が引き締まる。ちょっとした断片的情報で何がどう崩れていくかわからない。USDXレイのやらかしで迷惑がかかる人も少しずつ増えているし。

「腐女子と言うか、伊東さんてこう、エネルギーの再生産効率が物凄くいいなって思って羨ましい」
「自家発電能力が凄まじく高いとは自負してますよ」
「そうやって生み出されたエネルギーを使って雨宮さんが生み出したものがまた誰かの活力になるのか」
「その雨宮の活力はレイくんをはじめとする様々なお友達です」


end.


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多分慧梨夏とPさんはお互いに自分はコイツよりは一般的な感覚をしてるよなあって思ってる

(phase3)

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