2023

■良い音はどこにある

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「それじゃあまた次の打ち合わせでー」
「お疲れっしたー」

 インターフェイス夏合宿に向けた班の打ち合わせを重ねる中で、ミキサーとしての腕みたいなモンもちょっとずつ付いてきたかな、と思えるようになってきた。いや、本職の人から言わせれば何ふざけたこと言ってんだって感じだろうけど。
 俺は七海が班長の班で、2年はあと雨竜がいる。正直2年の名前だけで見ればラジオをやるにはちょっと弱いけど、それがどうしたという気持ちで頑張っている。1年もいるし、学年やパートにこだわらずに意見やアドバイスを求められるのは戸田班時代で鍛えられた部分だな。

「向舞祭と比べたら夏合宿の打ち合わせってマジで涼しいな!」
「それなー。俺はミキサーだからPAテントの下だけど、雨竜はアナだからめっちゃ暑いだろ? アナとか絶対何人か死ぬと思ってるけど」
「いやお前ステージ慣れしてる星ヶ丘がそれ言うとか絶対死ぬじゃんか! うわキャラ的に俺死にそー!」
「わはは。何となくわかるぜそれ。解釈一致ってヤツ?」
「うるせー! それはそれでどーなんだよ!」

 同じ班になった雨竜とは定例会でも一緒だし、最近は何となく話す機会が増えている。あと、こないだサキ君と飯食ってるときに聞いたんだけど、雨竜は最近音の扱い方のセンスが伸びてきているという話だ。音についての話は参考になったって。サキ君が言うならガチっぽい。
 俺もまあまあ人見知りで定例会では様子見が基本だけど、雨竜は去年青敬のMV制作で顔を合わせたし、話すハードルがまだ低い。奏多は未だにワケわかんなくて引く。アイツはサキ君と毎回ケンカしてるけど、リク曰く「サキがそれだけ言葉を選ばないのは相手を認めてる証拠」らしい。

「そうだ雨竜、1コ聞いてくれよ」
「何だー?」
「ウチってステージの他に、たまにラジオドラマとかをやったりするんだよな」
「あー、そーだよな! 去年の作品出展も確かラジドラだったよな!」
「それでさ、プロデューサーとしては、話を書きながら頭の中で声や音を鳴らして作品のイメージを作るワケだ」
「うんうん」
「作品のイメージに合う音探すのってムズくね? 雨竜は青敬の映像でもいろいろ効果音とか入れるだろ? どうやってんのかなとか聞いてみたくて」
「俺はもう、ひたすら音源漁りだな! そんで気に入ったのをフォルダにまとめてサクッと使えるようにしてる」
「やっぱ数を漁ることかー」
「期限とか締め切りがなきゃ無限にやってられんだけどな」
「それだよ! 時間との勝負なんだよ!」
「だから俺は普段からその作業やってるわー。そんで、使いたいときにさくっと使えるように音の特徴とかもメモっててー」

 雨竜が音の感覚に目覚めたのはそれこそ去年のインターフェイス夏合宿からだと言う。とにかく派手に派手に書いていたキューシートに対してペアを組んでいた青女のわかばさんから入ったダメ出しがきっかけだった。派手な効果音だけ入れればいいってモンじゃねーぞ、的な。
 それから雨竜はここぞという場面で使う効果音を絞り込むことを始めたそうだ。作品全体を見て、どこをヤマにしたいか。それを際立たせるために何を足して、何を引くのか。似たような効果音でもそれぞれの音の特徴を感じて使う場面を限定したり。

「お前は音楽やってるからイメージつきやすいかもだけど、ドレミファソ~みたいなことでも楽しいとか悲しいとかあるじゃん」
「長調とか短調みたいな話な?」
「まーよくわからんけどそんなようなことだと思う。似たような音でも、ド! なのか、ドーなのか、ラ……なのか、ラ~! なのかで全然印象って変わるから、似たような音をたくさん集めといて、その特徴をちゃんと把握してドン!」
「言いたいことは何となくわかった。微妙なニュアンスをどう表現して見てる人にこちらの意図を伝えるか、ってことな」
「そーそーそんなよーなコト!」

 雨竜の話を聞いていると、やっぱ普段からやってないとダメなんだなと痛感させられる。ピアノだって普段から弾いてないと指が全然動かなくなるし、書けなくたってステージの台本を書こうとしなけりゃどうやって書こうとするのかすら忘れちまう。

「俺とかたまにこの音を使いたいからこういう作品を作る、みたいなこともあるぜー」
「なるほどなー。でもラジドラの場合はそうもいかねーんだわ。音に内容を寄せるのか、否! 内容あっての音だ! でもそれが見つかんねーんだよな~!」
「つか、見つかんねーなら作ればいーじゃん」
「は!?」
「ほら、昔のラジオドラマとかは現場で効果音を人の手で作って乗せてたみたいな話あるじゃん? 缶の中で小豆揺らして波の音、雨の音、的な」
「何かで聞いたことはある? かな?」
「それでなくてもお前シンセあるんだから大体の音は自前でやれんじゃん! それってすげー強みだぞ! 探す必要ねーんだから大幅な時間の節約にもなる」
「俺が、自分で、音を作る?」
「正直俺はシンセサイザーの扱いとかはわかんねーけど、たまにそーゆー動画見るんだよ。シンセひとつで世の中のあらゆる環境音を再現してみた的なヤツ。お前も極めりゃ出来んじゃね?」

 正直、効果音なんかはある物の中から探して使う、というのが当たり前の感覚として染み着いていたから「なければ作る」という発想には一切たどり着かなかった。だけど、言われてみれば身の回りにある物の音を録ったり、キーボードで音を作ることは、多分出来る。
 前に戸田さんから、お前はプロデューサーとしてただの朝霞さんのパチモンになってる、みたいに言われたことがある。どうにかして朝霞さんとは違う、俺だからこそ書ける本を、とは思ってたけどどうすりゃいいのか正直あんまりわからなかった。ここに糸口があるような気がする。
 さすがの朝霞さんでも本を書くことしかやっていなかったはずだ。あの人はディレクター遣いが粗くて効果音は戸田さんがアホほど探してたっていう話を聞いたことがある。俺は、自分で本を書いて自分で音を作ることが出来る。自分のイメージした本に対する音に一切の妥協をしなくていいんだ。

「雨竜サンキュ! 俺やってみる! お前に相談して良かったぜ!」
「おー、何かわかんねーけど吹っ切れたならよかったぜ!」
「雨竜の音の感覚が面白いって聞いた時はホントか~? って思ったけど、さすがサキ君だなー、ホントだったわー」
「いやいやいや、つかさ、何でサキが話を信じる基準みたいにになるんだよ!」
「だってサキ君だし」
「確かにサキは面白いヤツだけどさ、お前らが思ってるよりも俺だってちゃんとやってんだよ! 当麻と北星の所為じゃんなー俺がポンコツ扱いになってるのって!」


end.


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自分で音を作ることに関しては言ってたような言ってなかったような
ここから彩人は自分なりの作品作りを突き詰めていけるようになるのかな
9時キャン組はそれぞれ2年生になって頑張ってるんだなあ

(phase3)

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