2020(03)

■縁起でもない肩のポン

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 佐藤ゼミでは水曜日の4限と5限の枠で、非公式講義として合同ゼミという物が開かれる。これは佐藤ゼミの学生が一堂に会する場で、一緒にワークショップを受けたり、バーベキューのようなイベントが行われることもある。
 今日の合同ゼミは何をするのか伝えられていなくて、大学祭も近いことだしその準備に充てるのかなと推測もしたけど根拠はない。教科書を持って来いとも言われてないし、あらかじめ課題が出てたワケでもないからね。みんな何をするのなってちょっとそわそわしてたよね。

「やあやあ。今日はね、大学祭に向けたちょっとした注意事項と、大学祭の後からのラジオについての話をしようと思って集合をかけました。私からの話はすぐ終わるので、その後は準備をするなり帰るなり好きにしてください。では――」

 その話って明日の通常のゼミじゃダメだったのかなあ。そう思っていたら、全く同じことを俺の真後ろで果林先輩が呟いてて、ですよねーって思ったのと同時にほっとしたよね。俺だけが思ってることじゃなくて良かったって。
 3年生の方では学祭明けくらいから2年生も少しずつラジオブースに入れていって、引き継ぎじゃないけど、何かそんな感じで教えたり教えてもらったりしながら番組に少しずつ関わって行く、みたいな感じの話がされたらしい。ちなみに2年生はまだ聞いてない。

「私は緑ヶ丘大学だけじゃなくて他の大学でも講義をしてるんだけど、青女だね。青女に何人かいい子がいたからその子たちにも佐藤ゼミのブース運営を手伝ってもらうことになりました。それから、ラジオブースでの番組もやってもらおうと思ってるんだよ~。木曜向きの子ではあるんだけど、履修の都合もあるから水曜日に何回か。担当するミキサーの子はよろしく」

 やっぱり、ラジオブースに入れるか入れないかっていうのは先生の匙加減だけで決まるんだなあと思う。ササとシノには希望を潰さない感じでやんわりと言ってるけど、俺も先輩たちからそうしてもらってたように、現実をありのままに伝えた方が良かったのかもしれない。
 ラジオブースに入るには、ラジオの技量じゃなくて先生にいかに気に入られるかの方が大事なんだよね。事実、先生との相性が悪い果林先輩はあんまりタイムテーブルに名前が載ってない。ラジオの実力だったら毎週レギュラーでやっててもいいはずなんだけどね。
 MBCCの1年生たちがちょっと聞いただけでもゼミのラジオは「これを昼にあの規模で流すのはどうなの」と言っちゃう感じなんだよね。それは技術どうこうの話だけじゃなくて、放送する範囲が広い割に内容がリスナー置いてけぼり感が強いとか、そういう部分で。
 先生は延々と青女での講義の話を続けている。これはゼミラジオに関する話の脇道なんだろうけど、いくらMBCCのミキサーでも正直自分にはまだ関係ないだろうと思ってるから早く大学祭の話に入ってくれないかなあとその話を受け流す。

「――で、今日は青女から手伝いに来てくれる子たちを呼んでるから。君たち、入ってきていいよ」
「はぁーい、どうもー!」

 そう声を張りながらスタジオ入り口の階段を下りて来る姿には見覚えがあった。いや、見覚えがあるからこそ目をそらしてしまったと言うのが正しいかもしれない。この声に頭の上の大きなリボンは紛れもなくサドニナだ。うわー……冗談じゃない。顔見知りだってバレたら絶対巻き込まれる!

「歌って踊れるアイドル声優の卵、サドニナでーす! 緑ヶ丘大学のみなさーん、はじめましてー!」
「うわっ……ないし」
「……2つ右に同じじゃん?」
「珍しく鵠沼と意見が一致したし」
「このキンキン声に全身で拒否反応が出てる。鳥肌がヤバい」
「アタシも単純にイライラする」
「……まあ、鵠さんと安曇野さんとは合わないとは思った」

 先生はサドニナ率いる青女勢の紹介をするのにまた長い話を始めてしまった。俺はサドニナと目を合わさないようにだけ気を付けて、鵠さんと安曇野さんが「あれとブース運営すんの?」と怪訝な顔をしているのに苦笑するだけ。

「タカちゃん」
「何ですか果林先輩」
「このゼミにサドニナを扱い切れるミキサーが何人いると思う?」
「あー、ああー……小田先輩がワンチャン行けませんか」
「……悪いことは言わないから、覚悟は決めといた方がいい」
「ですよねー……」
「モニターの使い方は小田ちゃんが詳しいから。教えてもらうなりして動画再生にも対応出来るようになっといた方がいいよ」

 後ろからポンと肩を叩かれて受ける忠告が本当に縁起でもなさすぎるんだけど、覚悟を決めなきゃいけないのも本当だから、俺は腹を括るしかないのだろうか。いやー、サドニナかー……確か、神崎先輩が唯一サドニナを上手く扱えるんだよな。傾向と対策を聞いておくか?

「あーっ! タカティ! 全っ然気付かなかったー! 学校でも地味だからー!」
「うわー、バレた」
「ちょっとぉ、バレたじゃないよ! えー、タカティいるんだったらサドニナの番組もすっごいのにしてもらえる感じ!?」
「高木君、君ぃ、サドニナちゃんと友達なの? だったら都合がいいし彼女の番組でミキサーを担当してあげなさい。そういうことだから、ブースの入り方は小田君に教わってね」
「はい~……」

 左を見ても、右を見ても、助けてくれそうな人はいない。だったら後ろに? チラリと視線を送ったけれど、ドンマイとかがんばれの意で肩にポンと手が置かれるだけ。あー、えーと……本格的にどうしようかな~…! これは困ったぞ。


end.


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ナノスパの初期の頃にはそういうこともやってたなあと思い、フェーズ2で掘り返してきました。サドニナin緑大です。
鵠あずが心底イライラしてるのでタカちゃんは助けを求めることも出来ないし、自分の存在もバレてミキサーをやることになるとかなかなかキツイ。
とは言えタカちゃんとサドニナの相性なんかは考えたことがなかったな。ムチャ振りには応えられるけど、タカちゃんのメンタル次第だなあ

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