2020(03)

■誰がどこ行く誰と行く

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 俺とエイジが呼び出されたのは、図書館の小さな自習室だ。ここは内から鍵のかかる個室で、高崎先輩もちょっとした内密な話をするときや、昼放送のペアを考えるときに使っていた部屋なんだそうだ。
 集まっているのはL先輩と果林先輩、それから俺とエイジの4人。ここでこれから始まるのは来期の各種人事についての話。MBCCだけじゃなくて、定例会や対策委員といったインターフェイスのことにも絡んで来る話だから俺たち2年生が呼ばれたとのこと。

「本来なら来期の人事は学祭最終日の発表だけど、今期はちょっと難しいから先に言っとくな。アナ部長をエージ、それから機材部長を高木に頼んで、ハナには会計に就いてもらいたいっつーのが俺たちの考えな」
「ハナちゃんならお金の管理は安心ですね」
「まあ、順当なんじゃないかとは。俺がアナ部長たるかはともかくとして。で、何が問題になってるんすか?」
「今問題になってるのは今は高木がやってくれてる機材管理担当と、インターフェイス関係の人事だな」
「機材管理担当か。シノくるサキの中から決めるんすよね。で、高木的にはシノとサキで悩んでるっていう」
「やっぱお前は聞いてたんだな。それなら話が早い」

 エイジとは俺の部屋で飲みながらいろいろな話をする中でサークル関係のことも話してたから、こういう話ももちろんしてたよね。俺がどういうことを考えて誰をどこに置きたいか、みたいなことを。でも、俺だけで決められることでもないから。

「何だっけ、お前の考えじゃシステム保守的にはサキにやらせたいけど、経験を積ませる意味ではシノにやらせたいとか何とか」
「だね」
「それで、対策委員と定例会を踏まえた上で考えたんだけど、MBCCの機材管理はシノに任せて、サキには定例会の方でインターフェイスの機材管理を重点的にやってもらおうかと」
「えっ、サキが定例会ですか!?」
「でもアイツ、大丈夫かな。合宿ではちゃんとやれてたとは言え基本人見知りだろ」
「すがやんも定例会に出す。別に定例会に各校1人しか出しちゃいけないって決まりはないからな。渉外のすがやんと、エンジニアのサキでワンセット。番組や音源のアーカイブ、ライブラリ化やその検索システムなんかはゆっくり時間をかけてきちんとやってほしい」
「確かに、ウチで試験的にやってることをインターフェイスでちゃんと実装出来そうなのはサキですもんね。俺はいいと思います。すがサキでワンセット案」
「果林、エージ、どうだ?」
「いいんじゃない? シノには機材管理が何たるかをタカちゃんが指導するんでしょ?」
「まあそうなりますね」
「それはそれでいいとは思うんすけど、そしたら対策委員はどーなるんすか?」

 そう、それが何気に問題だ。対策委員を緑ヶ丘から2人出せる年は、大体アナウンサーとミキサーをセットにして出している。俺とエイジもそうだし、去年の果林先輩と五島先輩もそうだった。高崎先輩の代は1人だったけど。
 正直に言えば俺はシノとくるみを出したいと思っている。ただ、青敬さんもミキの当麻と北星を出して来るから、パートのバランスが悪くならないかということも不安要素だ。じゃあササとレナから出せばいいじゃないかということでもない。

「タカちゃんから聞いて意外だなって思ったのが、ササがこういう活動には向かないっていう話だったんだよね」
「ササがダメだってワケじゃないんです。みんな知っての通り凄く頭はいいですし、ああ見えて熱いですし。ただちょっと、外に出すには不安なんです。実直過ぎて空回ることも少なくないので」
「じゃあシノとセットにするべ?」
「エージちょい待ち。仮にどっちも佐藤ゼミに入ったら、2人同時に対策委員なのはちょっとリスキーだわ」
「それは確かにそうですね。何気に課外の予定も物凄く入ってきますからね」
「じゃあ、ササの線は消そう。ササには緑大の中で頑張ってもらうことにして、どうする? 俺と果林はくるみには外での活動で経験を積んでもらいたいとは話してたんだけど」
「俺もくるみは出したいと思ってました。元々すがくるの線で考えてたので」
「右に同じっす。で、くるみの相方……シノかレナで?」

 シノかレナで対策委員に出すとするなら。俺は最初からシノの線で考えてるけど、エイジと先輩たちがうーんと考えるのを見て、やっぱり難しいよなあって思う。

「いや~……正直俺はシノだと思うけどなー……でも対策委員にミキミキで出すか?」
「合宿での様子を見てても、シノでしょ。ねえ班長」
「そうっすね。番組もきちんと練習してましたし、打ち合わせの時も他の1年たちを引っ張ってて結構やるなって思ったっす。謎にリーダーシップがあるんすよね」
「ねえL」
「ん?」
「タカちゃん曰く、シノは上手く育てれば高ピー先輩までは行かないにしても、ああいう存在感のある男に成長するんじゃないかって話ですよ」
「マジか。高木お前、デカく見たな」
「でも、シノのエネルギーは凄いと思いますよ。ここ数年いないタイプだとは」
「よし! 対策委員はシノとくるみで行こう!」
「ま、言って向島からは無条件でアナのカノンが出て来るっていう。緑大と向島のバランスは取れてるべ」
「言い訳もバッチリだ。それで行こう」

 ササとレナには書記など、地味に残っていたMBCC内の役職に就いてもらうことになり、来期の人事も無事に決定。……でも、1年生のことに一生懸命で忘れてたけど、俺が機材部長か。そうか、機材部長か。俺は先輩たちのようにやれるのかな。


end.


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MBCCの人事はやっぱり結構な話し合いを経て決められるようです。難しいのは選択肢の多い1年生。
定例会に1つの大学から2人出すというのも今までにはなかったことで、定例会議長もいろいろなことを考えていたようです。
そう言えば、夏合宿でシノの面倒を見ていたのはエイジでしたね。1人にすると心配だからって理由で預けられたんでした。

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