2020(03)

■秘めた武器の顕在化

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「高木先輩! ちょっと聞きたいんすけどいーすか!」
「うん、いいよ。何かな」

 サークルに少し遅れて来たササとシノが、何やらプリントを手に俺に話しかけて来た。この2人が今日のサークルに遅れて来たのは何を隠そうゼミの説明会があったから。2人とも佐藤ゼミに行きたいし、入ると強く思っているから一点集中で他の日程の説明を受けていないとか。

「佐藤ゼミの説明受けて来たんすよ。そんで、個人面談を受けに来いって話だったんす」
「その面談の対策をしたいというのが率直な話ですね」
「まあ、そうだよね。こないだゼミでもそろそろ面談が始まるからねっていう話はあったよ。ちなみに、説明会ではどういう話をされた?」
「何だっけササ」
「ラジオが目立つけど、ああいう体験型の授業以外にもきちんと座学はやってるし、レポートもしっかり書くから覚悟はしておくようにとは。それから、サブカル系の趣味がある人が歓迎されそうな雰囲気でしたけど、サブカルに限らずこれは強いぞって分野があればアピールするようにって」
「成績についての言及は?」
「あったっす~……ど~したらいいっすか~…!」

 傾向と対策に関してはこれまで通りで多分問題ないし、成績についての話で追い詰められているシノだけどミキサーという優位性がある。実際選考に向けてどうにかしてあげなきゃいけないのはシノじゃなくてササだ。それらしい趣味があるという話も聞かないし。
 これで密かにサブカル関係の趣味があったなら、趣味がいいついでにMBCCのアナウンサーだったっていう感じになるんだと思う。だけどササの趣味は読書だし。レナや彩人に聞いてもササに特殊な嗜好があるという感じではなかったんだよね。

「こないだのゼミで先生が言ってたことを率直に言うけど、油断も、諦めもしないでね」
「はい」
「シノは、よっぽど面談でやらかさない限り9割以上の確率で採用されると思う」
「マジすか! えっ、やっぱ俺がミキサーだからっすか!?」
「そうだね。成績はちょっと不安だけど先生の授業はSだったし、ミキサーとしての今の実力と、機材に対する向上心が強いとは伝えておいたよ」
「あざっす! ヘマしないように頑張ります!」
「問題はササだね。やっぱり、いくらMBCCでもアナウンサーとミキサーじゃ扱いに差があるのが現実みたくって。俺の知る限りササはサブカル関係の趣味があるとも聞かないし、何かに突出して詳しいってことも知らなかったから、成績がいいですよとしか言ってあげられなくて」
「いえ、それは自分でもわかってたので。面談で取り返します」
「ただ、ササが俺に話してくれてることを踏まえた上で言えば、ササはこの社会に生きる多数派の人とは少し違う目線で物事を捉えることが出来てるはず。一発逆転を狙うなら、その視点と頭の良さを武器にすることじゃないかなって」
「……やってみます。ありがとうございます」

 ササが社会に生きる大多数の人と違うところは、やっぱり恋愛の仕方にある。複数間恋愛というヤツで、その対象となる性は問わないというもの。それ故に生き辛さを感じたこともあると思う。それを公にしろと言うワケじゃなくて、その経験で培った物事の見方や捉え方を社会学的に生かすことが出来ればと。

「でも、アナウンサーの子はイケメンですよって言ったら連れて来てみてって言われたし、興味を持たれてないワケではないとは」
「え…? 顔で…?」
「ほら言っただろササ! お前が使うのは顔面だって!」
「そう言えば、先生って基本アナウンサーにあんまり興味ないような感じなんだけど、高崎先輩はかなりお気に入りなんだよね。男前で頭も声も良いから番組をやっても華があって~って」
「……これは、俺はセルフプロデュース力を問われているという感じですか?」
「うーん、多分そうなるかな。面談の日に向けて髪艶とか肌の調子は整えて行った方がいいかもね。表情を研究したり」
「髪艶のことだったらレナに聞けば良くね? あんな真っ黒でつやっつやなロングヘアを維持してんだ、絶対何かしらの秘密があるって」
「確かに玲那の髪は綺麗だし、聞いてみるか」
「ごめんね、大したアドバイスも出来なくて。あと俺にしてあげられるのは簡単に推してあげることくらいで」
「いえ、俺の弱みと使うべきものがわかって良かったです」
「俺も面談でヘマしないように頑張るっす!」

 2人とも入学したばっかりのときから佐藤ゼミに入って一緒に昼のラジオをやるんだって言い続けてるから、是非とも最初の関門である選考を何とかパスして欲しい。ここで大事になって来るのは2人一緒にパスすること。2人にとっては、どっちか片方だけじゃダメなんだよね。

「あの、ササ」
「はい」
「確かササって伊東先輩とバイト先で会うよね?」
「そうですね」
「髪艶とか肌のコンディションに関しては、伊東先輩に聞いてもヒントがもらえるかも」
「え、伊東さんですか? ありがとうございます、次一緒になったら聞いてみます」


end.


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やっぱりササとシノはミキサーのシノの方が有利ではあるんだけど、ササにも一発逆転が出来ないワケじゃないみたいですね。
女装ミスコンの時はみーっちり慧梨夏の美肌メニューとかを受けてたからね! 高崎に売られたいち氏の苦い思い出である。
タカちゃんが何やかんや1年生に懐かれてますね。面倒見も結構いいような感じで。ちゃんと先輩してるじゃないか。

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