2020

■歴史を紐解く歴史群

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 サークル室に入ると、今日もサキが隅っこの方でノートを読んでいるのが目に入る。サキが読んでいるノートは過去の雑記帳だったり書記ノートだったり、番組の反省を書くミキノートだったりと様々だけど、MBCCの文献を読み漁るのがここでの趣味になっているようだった。
 今日もすがやんとくるみがサキの横で元気いっぱいだけど、その横でよくもまあここまで静かにノートを読んでいるなって。俺も似たような物だから人のことはどうこう言えないんだけど、サークルは楽しいかな、大丈夫かなってちょっと心配になってくる。

「高木先輩」
「わっ。びっくりした。どうしたのサキ」
「もうちょっと古いノートってありますか」
「サキ、ずっとノート読んでるけど、楽しい?」
「はい。こういう過去ログを遡るのが好きなんです」
「過去ログね」
「ミキノートには使われた曲が書いてあって、こういう反省で、どういう番組だったのかなって想像するのも楽しいですし。雑記帳も歴史を感じます」

 サキはサキでノートを読むことに楽しみを見出しているようだった。残された記録からどういう番組だったのかなって想像したりするのはある意味考古学とか史学とかに通じるところがあるのかな。MBCC史。思えば俺はここまで遡ろうとしたことはない。
 俺の歴史の遡り方と言えば、今やっているMDストックのミュージックライブラリ化かなって。これをパソコンに落としていく作業はその時の音楽を振り返るという意味で昔に遡っている。だけどそれはMBCCというサークルの歴史ではないんだよね。

「ちょっと待ってね。ササ、ちょっといい?」
「はい」
「ごめん、この棚の上に黄色いカゴがあると思うんだけど、それを下ろしてくれない? 俺じゃちょっと届かなくてさ」
「わかりました。よっ、と。これかな? はい、どうぞ」
「ありがとう。昔のノートとかはここに片付けたはずなんだよね。ああ、あったあった。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。ササもありがとう」
「戻す時はまた言ってください」

 サキにさらに古いミキノートや雑記帳を渡すと、また隅っこの指定席に戻ってそれを読み始めた。本当に面白いのかなあ。俺も適当な1冊を開いてみると、10年前の日付が記録されていて、そんなに昔のものまで残ってるんだって逆に感心しちゃって。処分しようにも出来ない物なのかな、ある意味。

「サキ、またノート読んでるー! 楽しい?」
「歴史があって楽しいよ。くるみはわかんないけど、すがやんは好きでしょこういう作業、史学系だし」
「うへー。ちげーよサキ、俺がやってるのは史学じゃなくて考古学とか文化財学。文献調査よりも現物を掘り起こしたい派だからさー! 高木せんぱーい、ノートじゃなくてこの時代の番組ないっすかー!?」
「えっ、番組!? ちょっと待ってよー…? あー、このカゴじゃないっけ。番組まで遡ると思わなかったもんなあ。ササ、何度もごめん!」
「今度はどれですか?」
「あっちの緑の箱」
「ああ、これですね。うわっ、重っ」
「ありがとう」
「戻すときはまた言ってください」

 過去の番組まではまだファイル化に着手出来てないから、大量のMDの中からお目当ての物を探り当てて行く。音楽のライブラリ化、それから番組のアーカイブ化はどんどん進めて行かないと、こうやって探す時に大変だよなあ。
 10年前のノートがあるということは、10年前の番組も普通に残っていて。きっと今まで掘り起こされることもそうそうなかっただろうけど、奥底で眠っていたそれを今この時代に叩き起こしていく。アーカイブ化するときに全部聞くことになるんだろうけど、なかなか終わらなさそうだなあ。途方もない。

「サキ、今読んでるのこの番組の反省だろ?」
「そうだね」
「MD見つけたからさっそく聞こうぜ!」
「やったー! ナイスすがやん! 発掘の天才! レッツ、スタート~!」

 すがやんとくるみが半ば無理矢理サキを隅っこからミキサー席の前まで引っ張って、掘り当てた番組を再生する。ミキノートを抱えたサキは固まった顔をしてるけど、2人の勢いに押されてミキサー席の椅子にちょこんと座った。
 抱えたノートを改めて広げ、それをサキの上からすがやんとくるみが覗き込んでいる。ミキサーの反省ってよくわかんないなとアナウンサーのすがやんが首を傾げているし、くるみはところどころで挟まれている曲に注目している。知っていれば一緒に歌ったり。
 ノートに書かれた箇所を音と照らし合わせて、これはここのことを言ってるんだよとサキはすがやんに教えている。すがやんに言っているはずなのに、反応してるのはくるみなのがパートの違いなのかな。もう1回聞かせてと巻き戻して該当箇所をリピートしたり。
 俺は自分が好きな技法を練習したり組み合わせたりして新しい音のつなぎ方を研究するのが好きだけど、今の1年生がやってるみたく、過去の番組やノートを引っ張り出して来て分析するのもこれはこれで大事なことなのかなと思う。ただ、いちいち引っ張り出して来るのは手間だ。もっと手軽にやるためにはデジタル化か、やっぱり。

「サキ、楽しい?」
「はい、とても」
「それならよかった」


end.


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サキ君フィーチャー回。大人しめの子であるということはちょこちょこ言われてましたが、楽しいには楽しいみたいですね
TKGが先輩してるのもなかなか感慨深いですが、すがサキくるの3人がきゃっきゃしてるのもまたかわいい。
すがサキくるがきゃっきゃしてるので、ササシノレナもきゃいきゃいして欲しいんだよなあ。いつかやらなきゃ

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