2020

■次を生み出すステップ

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「あのっ、高崎先輩っ!」
「あ?」
「お、美味しいケーキを食べに行きませんかっ!」

 L先輩に頼んで高崎先輩と会えそうな場所を教えてもらった。待ち伏せしてやることは、ケーキのお誘い。これには話すとちょっと長くなる経緯がある。一言で言えば、ロールケーキのお礼かお詫びか。でも、次に進むためのステップ。
 こないだ学内のコンビニで最後の1つだったロールケーキを高崎先輩に譲ってもらっちゃったんだよね。しかも、会計を済ませた物を。後から振り返ると、あたしは相当なムチャかワガママを言ってたし、謝るだけ謝っとかないとなーと思って。

「えっと、豊葦市駅のすぐ側にある黒猫の小路っていうお店なんですけど、そこのケーキが美味しいって聞いて」
「メロンケーキが評判のな。高いけど、その分デカくて美味い」
「知ってたんですか!?」
「俺はこの辺にある大体のカフェには行ってるからな。で? どういう風の吹き回しだ」
「こないだコンビニでロールケーキを譲ってもらっちゃったじゃないですか。それで、えっと」
「あー、聞いといて難だけど細かいことはいい。ついて来い」
「えっ?」
「何すっとぼけた顔してんだ、市駅に行くんだろ。付いて来ねえなら置いてくぞ」
「あっ、すみませんっ!」

 付いて来いと言われて慌てて先輩の後に付いて行くけど、その方向はバス停や駅とは逆方向。サークル棟に向かって歩いてる気がする。サークル棟より奥には行ったことが無いから、何があるんだろうってそわそわしちゃう。
 サークル棟の裏に広がっていたのはだだっ広い駐車場。その一角にはバイクがたくさん並んだ屋根付きの駐輪場。俗に裏駐って呼ばれる裏駐車場なんだって。高崎先輩は白いビッグスクーターに跨り、ヘルメットをかぶった。そして、あたしにも丸いものが放り渡される。

「ほら」
「えっ」
「それかぶって後ろに乗れ」
「ちょまっ、えっ!? 電車で行くんじゃないんですか!? って言うかあたし、バイクなんて乗ったことなくて」
「うるせえ。俺は電車が嫌いなんだよ。俺に捕まって大人しくしとけ。暴れるなよ」

 初めてのタンデムは緊張する。落ちないようにしっかりと先輩に捕まって。力を入れすぎても危ないから、リラックスしつつ。ヘルメットにはインカムが付いていて、それを介して先輩と会話が出来るんだって。

「あの、高崎先輩。付き合ってもらってありがとうございます」
「まあ、俺は甘いモンが好きだからな」
「その甘いものが好きな高崎先輩からロールケーキを取っちゃったじゃないですか。それが申し訳なくて」
「それくらいのことを引き摺ってんな。で? 何で俺をケーキ食いに誘おうと思ったんだ。罪滅ぼしのつもりか」
「えっと、サキってわかりますか? あたしの同期でミキサーの、大人しめの男の子なんですけど」
「あー、メガネのアイツか? 見に行ったときも話してねえからあんま印象にねえけど」
「そうです。あたしサキとすがやんにこないだのことをどーしよーどーしよーってずっと言ってたんですけど、サキがラジオで聞いたんですって。あたしと似たような境遇の人のお悩み相談だったらしいんですけど、そのパーソナリティーさんが「これからその相手といい関係を築きたいなら、ただ謝るよりも自分の強みを生かして次に繋がる行動を起こした方がいい」って言ってたそうなんです。あたしの強みだったら、美味しいスイーツのことだと思ったんで。罪滅ぼしって言うよりは、新たな関係の第一歩です」

 ラジオで聞いた話をあたしにしてくれたサキは、こうも言ってた。ロールケーキのことくらいでずっと根に持つような器の小さい人だったら高崎先輩が伝説の人として語られることもないって。すがやんも、あの時も別に怒ってる感じでもなかったしいーんじゃねって。
 高崎先輩の顔を見てないからあんまり緊張せずに話せてる気がする。せっかく知り合えたんだし、こんなことでもやもやしてるだけじゃなくてもっといろんなことを話したり、教えてもらったりしたい。ラジオのこととか、この辺のカフェのこととか、いろいろ。

「くるみ、そのサキとかいう奴、西海在住か?」
「あ、はい。多分そうだったと思います。それが何か?」
「いや、何でもねえ。まあでも、次また美味いモン食いに行こうって言うんなら、この辺じゃなくて違う土地を開拓させてくれ」
「はいっ! ……えっ、次があるんですか!?」
「俺が知るかよ。ったく」

 それからは、あたしが一方的にずーっと話していたと思う。MBCCのこと、こないだの講習会のこと、それから、美味しい食べ物のことなんかを。高崎先輩は時折返事をくれるけど、基本的には前を見て黙って運転してるだけ。

「さ、そろそろ着くぞ」
「やったー、ありがとうございまーす」
「つっても、ここからちょっと歩かなきゃいけねえけどな」
「美味しい物に辿り着くためならちょっとくらい歩きますっ! って言うか、食べる前と後には消費しなきゃですからねっ!」
「1年は元気なこった」
「4年生だからって老けてる場合じゃないですよ!」
「あ? お前誰が老けてるって?」
「むう」

 クイッと顎を持ち上げられ、そのままほっぺを鷲掴むようにむにむにと。今回は5むにくらいで解放されたけど、ほっぺに先輩の手の感触がしっかり残ってるや。

「こっ、こんな形で顎クイを経験したくなかったですっ!」
「少女漫画の読み過ぎだ。ほら、さっさと歩け」
「先輩がチビの歩幅に合わせてくださいよー! もー!」


end.


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高崎とくるちゃんがただただかわいいヤツ。何やかんや高崎はこうやって懐かれるのは嫌いじゃない。果林とかL然りでね
2年生からすれば高崎にこうやってガンガン行くなんてすげー度胸だって感じなんだろうけど、逆に1年と4年だからこその距離感だからかしら。
黒猫の小路というお店はMMPのお話でちょこちょこ出て来るのですが、豊葦の中心らへんにあるので緑ヶ丘の話でも出て来るのね

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