2020

■特訓成果が積もり積もれば

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「皆さん、ここらで糖分取りたくないですか」
「ん?」

 今日は京川さん宅でUSDXの動画撮影を行っている。数時間が過ぎて、皆がそれなりに集中を切らし始めた。だから、糖分補給を口実に、話を切り出すならここだと思った。

「どうしたのレイ君、差し入れ?」
「はい。ケーキがあるのでみんなで食べましょう」
「いいね。それじゃあちょっと休憩。ティータイムにしようか。紅茶淹れなきゃね。バネはミルクティーで、他はみんなストレートでいい?」
「いいでーす」

 京川さんの部屋では紅茶以外の物が出て来ないけど、逆に言えば紅茶以外の物は好き勝手にしても構わないんだそうだ。それで収録が長引きそうな時は菅野がよくカレーを持って来てくれたりするし、冷蔵庫も各々の飲み物などで埋まる。
 山口のサプライズ誕生会に向けてケーキ作りの特訓を始めたものの、作るだけ作って消費のことを全く考えていなかったのだ。部屋がケーキに埋まった後でこれらをどうしようと考え始めるっていうな。完全に後手。ただ、6人いれば何とかならないかと思って持って来たよな。

「とりあえず、これがケーキで」
「――って朝霞、何で切ってないんだ」
「1人1台あるんでよかったら」
「ええー……何ならこれを実写動画にするレベルじゃない?」
「俺はこれくらいなら普通に食う。樹理、包丁借りるぞ」
「いいよー。あっ拓馬、ついでだし俺のも切り分けてくれる?」

 USDXに参加して意外に思ったのが、塩見さんが甘いものを食べるということだ。塩見さんと言えば超が付くほどの偏食で、主食が卵か肉かという人だ。特別好き嫌いがあるワケでもないのに本当に偏った物しか食べないから、甘いものなんか食べないんじゃないかと勝手に思っていたんだ。
 塩見さんはやっぱりと言うか、ケーキを丁寧に切り分けて食べ方もソツがなく美しい。リン君はフォークで円のままのケーキをつついて食べている。切り分けるのが面倒なんだそうだ。この2人は今ここで4号ケーキを1ホールくらいなら全然イケると食べ進めている。一方。

「えー、マジで1人1台?」
「どうした菅野、お前そんな小食だったか?」
「俺甘いモンそんな好きじゃないっていうな」
「えっ、そうなのか」
「そーなのよ、実はな」
「そうと知らずに悪い」
「いや、全く食えないってワケじゃないし、腹は減ってるからちょっとは食うけど、1台はさすがに無理だぞ」
「食べてくれるだけで全然いいです」
「カン、このケーキ、甘さ控えめだからお前でも美味しくいただけると思うぞ」
「スガがそう言うんなら大丈夫そうかな。じゃちょっと食ってみるか」

 ちなみにこのケーキは山口の味覚に合わせた甘さで作ってるから、よくあるケーキよりは甘さを控えめにしたつもりではある。クリームと言うよりは、フルーツの味で楽しむケーキかな。フルーツは、アイツの好きなパイナップルがメインだ。
 恐る恐るといった様子で菅野がケーキを一口。ん、と反応したかと思えば、次の一口を食べてくれる。見た感じそこまで反応は悪くなさそうだ。そうだよ、そこまで甘くしてねーし。だから正直俺にはちょっと甘さが足りない。

「思ったよりあっさりしてて美味い」
「そうか、よかった」
「オレには甘さが足りんな」
「あー、リン君は甘い方が好きだもんね。ゴメン」
「つーか、1人1台のケーキなんかどうしたんだ。まさかスーパーのバイトでもこんなにケーキを持ち帰らされることもないだろ」
「あ、これは俺が作ったんですよ」
「作った? お前がか」
「は!? 朝霞の手作り!?」
「ほら、山口の誕生会でサプライズで出す用の。お前にハッピーバースデーの演奏頼んだだろ。そのタイミングでこう、ケーキをスッと」

 誕生会には俺が声を掛けられる範囲で山口関係の人を招待するつもりでいる。IFサッカー部で一緒に活動をしている菅野と菅野も参加者で、この2人には最終局面でハッピーバースデーの歌の伴奏をお願いしてあるんだ。

「あー、なるほどね。つまりこれは洋平好みのケーキだと。へー、洋平も甘いのそんな好きじゃねーのか」
「甘いの自体は好きだし普通に食うけど、そこまで頻繁に甘いものを食ってるイメージがない。パイナップルが好きなのは知ってるから、それを使って。で、練習作がこれだけ積み上がったので消費してもらおうと」
「へー、よくやるなお前も。俺だったらスガの誕生日にわざわざケーキ作ろうなんて思わねーもん」
「しかし、お前は料理が得意ではなかろう。ケーキなど、どうした」
「伏見に頼んで特訓中なんだよ」
「ほう。彼氏彼女らしいことではないかもしれんが、アイツにはこれでも十分だろう」

 そうリン君が言った瞬間だった。

「そーだったぁー! 朝霞お前! いつの間に彼女なんか作ってやがったこの野郎! 裏切り者!」
「裏切り?」
「クリエイターに女なんか要らねーだろーがちくしょう!」
「基本俺もその考え方だ。恋愛や中途半端な友情は妥協を生む原因になる」
「なら尚更裏切りじゃねーか! つまりこのケーキは、お前が彼女といちゃいちゃしてた時間の成果! あ~…! クッソォ!」
「お。チータが自棄食いしてる」
「はーい、そしたらレイ君と彼女の共同作業の塊をお腹に放り込んだら、続きやりますよー」
「京川さんの表現の仕方よ」


end.


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京川さんの表現の仕方よ。レイ君と彼女の共同作業の塊と言うとちょっと嫌な感じねw そしてヤケ食いのカンDである
洋平ちゃん好みの甘さ控えめケーキはカンDにも美味しくいただけたようだけど、リン様にはちょっと物足りなかった様子。
ケーキ食べる様子を眺めるだけでも塩見さんとリン様の違いがよくわかって楽しいですね。エコ得キャンペーン。

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