2020

■先輩をどうぞよろしく

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 1限から4限までの授業をこなしてサークル室に行くと、見たことないような人がミキサー席に座っていた。短髪でパーカー着た可愛い感じの顔の人。3年生5人はもう顔と名前が一致するし、2年生はまだ4人しか見たことないけど2年生っぽい雰囲気でもない。
 その人は機材周りの環境を確認しながらL先輩と、もう1人、黒いパーカーを着たイケメンと一緒に話し込んでいる。はっ、もしや新しい同期!? 人が増えるのは4月とか、新歓の季節だけじゃないって聞いたことがある。そうとなればさっそく友達にならなければ!

「おざーっす!」
「おはようシノ」
「L先輩また人増えたんすか!? あっ、俺は社学メディ文の篠木智也、ササキだけどササキのササは篠原とかの篠って漢字だからシノって呼ばれてて、俺もミキサーだから簡単なことなら聞いてくれればいーし! よろしくな!」
「……シノ、お前やったな」
「はい?」

 俺が新しい同期(?)2人に一方的に捲し立てて自己紹介をしたのを見て、L先輩が苦い顔で頭を抱えている。でっかい溜め息つきで。この短い件で俺は一体何をやらかしたっていうんだ!

「あっはっは、いーじゃん元気な子で」
「いや、元気なだけじゃ済まないっす。スイマセンカズ先輩、よーく言って聞かせますし」
「先輩!? 3年生の先輩の先輩ってことは!?」
「俺はMBCCの前機材部長、4年の伊東一徳。みんなはカズって呼んでくれてるし、シノもよろしく」
「なぁー!? 前機材部長!? ホンットすんませんっしたぁ!」
「ちなみにこっちの黒いのは対策委員の前議長で、向島の野坂な。一応こっちも3年だし」
「ひえーっ!? 何でそんな人がこんなトコにいるんすか! あの、すんませんっした」
「まあ、しゃーないしゃーない」
「シノ、カズ先輩と野坂は許してくれたけど、今後は気を付けろな。そーゆーのに厳格な人もいるから。いいな」
「はーい」

 タメだと思って2ヶ月先輩風を吹かせてイキった相手が権威だったっていうな! ひー、これはしばらくネタにされるヤツじゃねーか! はずかし! 無知ってこういうことをいうのかと学習した! みんながみんなササと知り合った時のノリで行っちゃダメなんだな!

「おはようございます。あっ、伊東さん。遊びに来てくれたんですか? そちらは向島の野坂さんでしたっけ。ご無沙汰してます」
「ササお前、野坂と面識あったのか」
「ファンタジックフェスタのときに高木先輩から紹介してもらって、シノと一緒に挨拶だけ」
「そのレベルで覚えてるってすげえな。カズ先輩とも面識あるみたいだし」
「伊東さんはバイト先の先輩でもあって。サークルにも遊びに来てくださいってお願いしてたんです」
「ああ、そういうことか」
「そーそー。リクがさ、お菓子作って遊びに来いって言うからさ、久々にめっちゃクッキー焼いたよね。そういやL、今日果林は?」
「そのうち来ませんかね」

 いつも思うけどササの記憶力ってどうなってんだ? 俺なんてファンフェスで挨拶したって言われても全然思い出せねーのに。あと権威の先輩とサークルの外で既に面識あるってどーなってんだ。これはもしや豊葦在住っていう地の利なのか?
 カズ先輩がデカいトートバッグから取り出したのは、クッキーが入った袋。え、つかすげー量のクッキー。話を聞くと、どうやらこの先輩はお菓子作りが趣味らしく、現役の時はお菓子やパンを焼いて持って来ていたそうだ。

「と言うか、野坂さんはどうして向島から緑ヶ丘に」
「初心者講習会の関係で、果林とLと打ち合わせ兼練習をさせてもらいに。恥ずかしながらウチはアナがほぼいないから実戦練習が全然出来なくて」
「そうなんですか」
「せっかく伊東先輩もいらっしゃるということで、講習内容に関してもいろいろ相談をさせていただければと」
「いやいや、俺なんてそんな。なっちさんに聞いた方がいいんじゃない?」
「菜月先輩にも先日相談をさせていただいて、アナウンサー視点でも見ていただきまして」
「ならいーじゃん」

 カズ先輩がくれたクッキーを食いながら、先輩たちの様子を眺めている。先輩たちはパソコンとミキサーの接続がどうなっているのかに興味があるみたくて、それを重点的に見ているようだ。俺からすればそういうモンだけど、先輩や他校の人には珍しいらしい。
 ただ、MBCCのミキサーの中でも機材としてのパソコン関係のことはL先輩と高木先輩が頭一つ抜けてるっぽくて、次はこれを使って何が出来るのかという話は大体この2人の間で進んでいるらしい。俺とか、普通のミキサーはこういう機能が実装されましたという報告を受けるだけ。

「L先輩」
「ん?」
「こーゆーコト聞くのもアレなんすけど、この先輩たちってミキサーめちゃくちゃ上手いんすよね?」
「上手いな」
「カズ先輩! ミキサー席に座って座って! 1年生に実演見せましょう!?」
「えっ!?」
「だぁーからシノ、お前はなあ…!」
「まあまあL、向上心があるのはいいことだしあんま怒んないでやれな」
「いや……カズ先輩はいいかもっすけど、仮に高崎先輩にそれをやったらどうなると思います?」
「あー……うん。まあ、ほどほどにな」

 せっかく滅多に会えない上手い人がいるんなら、いろいろ教えてもらった方がお得だって思うんだよな。まあ、先輩に対するアプローチの仕方はもうちょっと考えろってL先輩からは怒られたけど。それは、確かに! 今日はいろいろ学習したぜ!


end.


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いち氏がクッキーを作ってMBCCサークル室に遊びに来たよ! そーいやササとそんなことを言ってましたね。
シノがちょっとそそっかしい感じでやらかしてしまいました。まだいち氏とノサカで良かったな……高崎だったらどうなってたか
でもいち氏はやっぱり果林がいることを前提にクッキーを作って来てるのね。一番喜んでくれそうだものね。

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