2020
■彩りは海のように満ちて
＋＋＋＋
「あっ、つばめ先輩！ 大変なんですよ！ 人が、人が」
「どーしたゲンゴロー、落ち着けって。人がどうしたって？」
「人が来てるんですっ！ 戸田班に入れて欲しいって、人が来てるんです！」
「はあ!?」
さて今日も部活だよっと。そんな風にミーティングルームの前に差し掛かると、ゲンゴローの慌てっぷりが尋常じゃない。アタシもどうしたどうしたとブースを覗くと、朝霞班当時のままクソ狭い戸田班のブースに見知らぬ野郎が座っている。
座った感じでも背は高そうだ。洋平くらいだから180ないくらいか。髪に緑のメッシュを入れてるのがパッと目を引く。しかしメッシュ入れてる奴に縁のある班だな。アタシの存在に気付くと、その男は立ち上がって会釈を入れる。
「班長さんですか。自分は谷本彩人っていいます。班に入れてもらいたくて来ました」
「……ってワケなんですよつばめ先輩～…！ 釣る前に来ちゃったんで心の準備が出来てなくて～！」
「こないだのツアーを踏まえて？」
「そうです」
「何でウチに行こうと思った？ 言っとくけど、ウチって普通の班とはちょっと違うよ」
「班見学ツアーで一通り見たんですけど、一番活動的にやれるかなと。あと、ラジオの活動もあるって聞いたんで」
「活動的ねえ。あと、ラジオは別にウチじゃなくても出来るから」
「他の班の先輩たちは何をするでもなく白河さんの説明を１年と一緒に聞いてる感じだったんですけど、この班はずっと練習してたじゃないですか。ビジョンが一番分かりやすかったのも魅力的でした。己の道を行くって感じもカッコよくて」
「ホント、物は言いようだな」
如何せん最近では談話室に籠もりっぱなしで他の班の情勢なんか全然わかんない。だから１年生が見学ツアーをやってたときの応対の仕方なんか知る由もなかったんだけど、何をするでもなく白河の話を聞いてニコニコしてたのか。そら班ごとの特徴なんか紹介されたところでわからんわな。
「どこか、他の班とは悩まなかったの？」
「ああ、バンドみたいな班とはちょっと迷いました」
「小林班ね。アンタも楽器やってんの？」
「ピアノが趣味です」
「じゃうってつけじゃん。何で行かなかった？」
「自分、バンドでやるって感じのスタイルでもないんです。あと、それよりこの班が魅力的でした」
「……なんですってつばめ先輩～…！」
「せっかく来てくれたし歓迎はするけど、何がしたいとかっていう、アンタ風に言うとビジョンはあるの？ この部活でのパートの事は聞いてる？」
「そうですね、強いて言えばステージの台本を考えたり演出をしたいと考えています」
「プロデューサー志望ね。ふむふむ」
人が増えるのは嬉しいし、やる気があるのはいいことだと思う。Ｐ志望ってことはマリンとの兼ね合いがあるけど、その辺は柔軟に考えて行こう。ウチはこのパートだからこの仕事しかしませんって班でもないからね。
とか何とかと彩人を歓迎していると、こっちを窺う別の影に気付く。マリンではなさそうだから、どうぞと一言。するとキイとドアが動いて、メガネでおさげの子がブースに入って来た。もしかしてもしかするか？
「あの、戸田班のブースはここですか？」
「そうだけど」
「班に入れてもらいたくて来ました。私は、荒川みちるっていいます」
「ひええ～っ、つばめ先輩ぃ～！」
「あらまあ。ようこそ戸田班へ。ちなみに、志望動機は？」
「こないだの見学で、戸田さんが手元も見ずにケーブルを巻いてたのがかっこいいなと思って。戸田さんにいろいろ教えてもらいたくて来ました」
「ってことはディレクター志望でいいのかな」
「はい、よろしくお願いします師匠！」
「師匠はやめれ」
何はともあれ３年生のパートを受け継いでくれる存在はありがたい。アタシの引退までにどこまで育てられるかだな。大人しそうな子だけど普段通りに接して引かれないかだけが心配だ。
「戸田班はここですか!? 私を入れるともれなくいいことがありますよ！」
「今度は誰ー？」
「早瀬海月です！ ステージの上こそ私の能力が光る場所！ ぜひとも入れてくーださいっ」
「頼み方よ」
「調子扱いてすみませんでした！ 班に入れてください！」
「ステージの上、ってことはアナウンサー志望ね。ちなみに、戸田班への志望動機は？」
「はい！ 水鈴ちゃんが星ヶ丘の放送部出身だって聞いて入ったんですけど、MCとしての経験をいっぱい積めそうな班はどこかなーと思って白河さんに聞いたら戸田班がいいよって言われて」
「白河の野郎……。まあ、来てくれたんなら受け入れましょう。しかしまあ、１日に３人も来るとは思わなかったわ」
「マリンが来たらビックリしちゃいますね」
「ブースの敷地拡張を訴える権利あるだろこれ」
「確かに６人だとちょっと狭いですね」
流刑地と呼ばれて迫害され続けて来た班に、まさか１年生が３人も来ると思わないだろ。しかも、島流しにされたとかじゃなくて自分から選んで来てるって。これも時代なのか？ アタシもいつまでも流刑だなんだって卑屈になってちゃダメってことかね。
「改めて、アタシが戸田班班長、ディレクターの戸田つばめ。で、こっちがミキサーのゲンゴロー」
「源吾郎です。よろしくねー」
「班の様子を知った上で来たってことは、ビシバシ行っていいってことだよね。手加減はしないよ」
「自分、それを求めて来てるんで」
「師匠についていきます」
「原石は磨かないとですからねッ！」
「よーし。あとみちる、師匠はやめれっつの。それじゃあ新生戸田班、さっそく練習行くよ！」
はーいと重なる返事の数が多い。感動だ。ちなみに、マリンが談話室に来て１年生が３人も来たのを見たらやっぱりビックリしてましたよね。これからこの６人で頑張って行こう。
end.
＋＋＋＋
戸田班が大分賑やかなことになっています。１年生が一気に３人も入って来たので、今年はこの３人のキャラを詰めて行きたいです。
ゲンゴローが大分わたわたしているのがかわいいですね。だけど、講習会で自分が釣らなきゃという圧からも開放された様子？
アナとＰがいないたった２人の班っていうのが弱点だった当初の戸田班ですが、すっかり大きくなって……
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「あっ、つばめ先輩！ 大変なんですよ！ 人が、人が」
「どーしたゲンゴロー、落ち着けって。人がどうしたって？」
「人が来てるんですっ！ 戸田班に入れて欲しいって、人が来てるんです！」
「はあ!?」
さて今日も部活だよっと。そんな風にミーティングルームの前に差し掛かると、ゲンゴローの慌てっぷりが尋常じゃない。アタシもどうしたどうしたとブースを覗くと、朝霞班当時のままクソ狭い戸田班のブースに見知らぬ野郎が座っている。
座った感じでも背は高そうだ。洋平くらいだから180ないくらいか。髪に緑のメッシュを入れてるのがパッと目を引く。しかしメッシュ入れてる奴に縁のある班だな。アタシの存在に気付くと、その男は立ち上がって会釈を入れる。
「班長さんですか。自分は谷本彩人っていいます。班に入れてもらいたくて来ました」
「……ってワケなんですよつばめ先輩～…！ 釣る前に来ちゃったんで心の準備が出来てなくて～！」
「こないだのツアーを踏まえて？」
「そうです」
「何でウチに行こうと思った？ 言っとくけど、ウチって普通の班とはちょっと違うよ」
「班見学ツアーで一通り見たんですけど、一番活動的にやれるかなと。あと、ラジオの活動もあるって聞いたんで」
「活動的ねえ。あと、ラジオは別にウチじゃなくても出来るから」
「他の班の先輩たちは何をするでもなく白河さんの説明を１年と一緒に聞いてる感じだったんですけど、この班はずっと練習してたじゃないですか。ビジョンが一番分かりやすかったのも魅力的でした。己の道を行くって感じもカッコよくて」
「ホント、物は言いようだな」
如何せん最近では談話室に籠もりっぱなしで他の班の情勢なんか全然わかんない。だから１年生が見学ツアーをやってたときの応対の仕方なんか知る由もなかったんだけど、何をするでもなく白河の話を聞いてニコニコしてたのか。そら班ごとの特徴なんか紹介されたところでわからんわな。
「どこか、他の班とは悩まなかったの？」
「ああ、バンドみたいな班とはちょっと迷いました」
「小林班ね。アンタも楽器やってんの？」
「ピアノが趣味です」
「じゃうってつけじゃん。何で行かなかった？」
「自分、バンドでやるって感じのスタイルでもないんです。あと、それよりこの班が魅力的でした」
「……なんですってつばめ先輩～…！」
「せっかく来てくれたし歓迎はするけど、何がしたいとかっていう、アンタ風に言うとビジョンはあるの？ この部活でのパートの事は聞いてる？」
「そうですね、強いて言えばステージの台本を考えたり演出をしたいと考えています」
「プロデューサー志望ね。ふむふむ」
人が増えるのは嬉しいし、やる気があるのはいいことだと思う。Ｐ志望ってことはマリンとの兼ね合いがあるけど、その辺は柔軟に考えて行こう。ウチはこのパートだからこの仕事しかしませんって班でもないからね。
とか何とかと彩人を歓迎していると、こっちを窺う別の影に気付く。マリンではなさそうだから、どうぞと一言。するとキイとドアが動いて、メガネでおさげの子がブースに入って来た。もしかしてもしかするか？
「あの、戸田班のブースはここですか？」
「そうだけど」
「班に入れてもらいたくて来ました。私は、荒川みちるっていいます」
「ひええ～っ、つばめ先輩ぃ～！」
「あらまあ。ようこそ戸田班へ。ちなみに、志望動機は？」
「こないだの見学で、戸田さんが手元も見ずにケーブルを巻いてたのがかっこいいなと思って。戸田さんにいろいろ教えてもらいたくて来ました」
「ってことはディレクター志望でいいのかな」
「はい、よろしくお願いします師匠！」
「師匠はやめれ」
何はともあれ３年生のパートを受け継いでくれる存在はありがたい。アタシの引退までにどこまで育てられるかだな。大人しそうな子だけど普段通りに接して引かれないかだけが心配だ。
「戸田班はここですか!? 私を入れるともれなくいいことがありますよ！」
「今度は誰ー？」
「早瀬海月です！ ステージの上こそ私の能力が光る場所！ ぜひとも入れてくーださいっ」
「頼み方よ」
「調子扱いてすみませんでした！ 班に入れてください！」
「ステージの上、ってことはアナウンサー志望ね。ちなみに、戸田班への志望動機は？」
「はい！ 水鈴ちゃんが星ヶ丘の放送部出身だって聞いて入ったんですけど、MCとしての経験をいっぱい積めそうな班はどこかなーと思って白河さんに聞いたら戸田班がいいよって言われて」
「白河の野郎……。まあ、来てくれたんなら受け入れましょう。しかしまあ、１日に３人も来るとは思わなかったわ」
「マリンが来たらビックリしちゃいますね」
「ブースの敷地拡張を訴える権利あるだろこれ」
「確かに６人だとちょっと狭いですね」
流刑地と呼ばれて迫害され続けて来た班に、まさか１年生が３人も来ると思わないだろ。しかも、島流しにされたとかじゃなくて自分から選んで来てるって。これも時代なのか？ アタシもいつまでも流刑だなんだって卑屈になってちゃダメってことかね。
「改めて、アタシが戸田班班長、ディレクターの戸田つばめ。で、こっちがミキサーのゲンゴロー」
「源吾郎です。よろしくねー」
「班の様子を知った上で来たってことは、ビシバシ行っていいってことだよね。手加減はしないよ」
「自分、それを求めて来てるんで」
「師匠についていきます」
「原石は磨かないとですからねッ！」
「よーし。あとみちる、師匠はやめれっつの。それじゃあ新生戸田班、さっそく練習行くよ！」
はーいと重なる返事の数が多い。感動だ。ちなみに、マリンが談話室に来て１年生が３人も来たのを見たらやっぱりビックリしてましたよね。これからこの６人で頑張って行こう。
end.
＋＋＋＋
戸田班が大分賑やかなことになっています。１年生が一気に３人も入って来たので、今年はこの３人のキャラを詰めて行きたいです。
ゲンゴローが大分わたわたしているのがかわいいですね。だけど、講習会で自分が釣らなきゃという圧からも開放された様子？
アナとＰがいないたった２人の班っていうのが弱点だった当初の戸田班ですが、すっかり大きくなって……
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