2020

■閉幕後のアンコール

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「あっ、野坂先輩。わざわざありがとうございます」
「いえいえ。お邪魔します」

 今日は初心者講習会に向けた講師の先輩たちとの話し合いが行われる。今日話すことは見本番組についてが主。一応対策委員代表として俺とエイジが参加する。対策委員全員と講師の先輩たちとの打ち合わせはまた後日開かれることになっている。
 果林先輩には、エイジが再度依頼してくれて無事にアナウンサー講師として了承を得られた。L先輩にもミキサー講師をお願いしたら快く受けてもらえてホッとした。で、講師も今日いる対策委員も緑ヶ丘だから、野坂先輩が出向いてくれるという話になったんだ。

「あっ、野坂来たね」
「おーす」
「よう。つか、まさかお前がミキサー講師とは」
「それは俺が一番ビビってる。俺の予想では果林Kちゃん野坂かなーと思ってたから」
「まあ、それは大きく変わった機材事情ですね」
「じゃ、講師の先輩らもみんな揃ったんで、打ち合わせを始めさせてもらうっす」

 改めて詰めた講習で触れて欲しい内容と、見本番組に使える時間は15分であると先輩たちに伝えた。1年生の子が初めて出るインターフェイスの行事で、初めて触れるインターフェイスの学生ラジオ。インターフェイスでやる基本中の基本のラジオを見せて欲しいとお願いする。
 基本中の基本の構成は、野坂先輩の得意分野だ。野坂先輩と言えば、1秒単位で計算される緻密な番組計画。キューシートの細かさはインターフェイス随一だ。しかも、それを寸分の狂いもなく進め、アクシデントが発生してもそれを取り返す技術が凄い。

「よくある基本の構成の番組を、果林先輩とマーシーさんで見せてもらいたいっす」
「15分番組で基本の構成。了解」
「それで、今年はアナミキ講習が終わった後に、もう1度15分番組を見せたいんす」
「ほう」
「講習会で聞いたことを踏まえた上で番組を聞いてもらって、また復習してもらうと言うか」
「だったらその復習番組は最初の番組と全く同じ構成にした方がいいね。変えたら自分の見方がどれだけ変わったかもわかんないし」
「成長の度合いがわかると確かに楽しいもんな。同じ内容の番組を2回、了解」
「あーっとすんません! それでですね、終わりの番組はL先輩に、パソコンを使った出力を交えてやってもらいたいんすよ。言わば、未来の番組ってヤツっす」
「野坂の番組と全く同じことを、MDじゃなくてパソコンを使ってやるっつーことな」
「そうですね。接続はミキサー講習の後なのでそのように完成してる体です」
「なるほど。そしたら俺は従来通りMD音源を使う感じか」
「そうですね。そのようにお願いしたいです」

 3年生の先輩3人が寄り合って15分番組の構成を考えるというのもなかなかない光景だ。普段ならわざわざ3人がかりでやる規模の番組でもないからだ。だけど、俺たちが提示した講習内容を擦り合わせて話し合っている光景はありがたくもあり、勉強にもなる。
 それでいて、1年生たちを掴む必要もあるから楽しくなければと果林先輩は言うんだ。楽しくて、講習内容も詰まっていて、難し過ぎない15分番組。こう聞くと、逆に凄く難しいんじゃないかと思う。短い時間に要素をギュッと詰めなきゃいけないんだから。

「つか緑ヶ丘の機材が近代的過ぎて」
「でも向島は一番インターフェイスの環境に近いんだろ」
「いや、裏を返せばただただ古いってだけだからな。はえー、ミキサーにUSBポートがあるとか。そもそもウチのはチャンネルスイッチすらないしな」
「次佐藤ゼミからミキサーが降りてきたらインターフェイスのと取り換えてもいいんじゃないかって話はしてるよな」
「そうか……緑ヶ丘はタダで機材が来る環境だったな……」

 ミキサー席に座った野坂先輩は、慣れないMBCCの機材環境を舐めるように見回している。向島さんやインターフェイスのそれと比較をして、ウチの機材の何がどうなのかということには興味津々なようだ。

「これが緑ヶ丘のパソコン? 噂のミュージックライブラリだっけか」
「まだ作業は途中ですけど、少しずつ進めてます」
「あ、タカティがやってんの?」
「一応機材管理担当なので」
「ちょっと触って見ていい?」
「どうぞ」

 大学によって活動様式も違うから機材事情も変わって来るのはわかるけど、野坂先輩がここまで楽しそうに機材を見ているというのがなかなか新鮮な光景だ。俺のイメージでは、冷静沈着で感情の起伏の少ない淡々とした人だと思ってたから。

「――って、新しい物に触りたいのもわかるけど、アンタがやるのはこれまで通りの番組だってコトは忘れないでよね」
「だーいじょうぶだって、ちょっとだけ遊ばせて。おー、楽しー」
「そんなに?」
「つかさ、俺今実戦から遠ざかってるから番組やる上では実戦練習もしたいところで」
「え、実戦から遠ざかってるって、そこまで?」
「昼放送がやれてないし、そもそもアナがヒロしかいない時点で察してくれ。自分1人でミキサー触って遊んでたところで高が知れてるだろ」
「まあねえ。そしたら、アンタさえ良ければだけどウチで打ち合わせ兼練習する? 向島やインターフェイスの機材環境とは違うけど。いいよねL」
「ああ。ウチで良ければいつでも来てくれ。すぐ開けるし」
「マジか……願ったり叶ったり。マジで助かります」

 また後日、対策委員全員との打ち合わせもお願いしますとエイジの挨拶で一応この場は締まったけど、野坂先輩はまだL先輩と機材の話をしてるし果林先輩はマイクスタンドを立て始めた。俺も何となくこの場から動けなかった。先輩たちの話し合いを見ていたかったんだ。


end.


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初心者講習会の講師が緑ヶ丘大学に集合しました。と言うかタカちゃんから見たノサカの印象よ。そうか、感情の起伏が少ない人か。
インターフェイスにおける機材改革は、MBCCのそれで実験してからという感じで進んでいるのでここがまさに最先端。ミキサーには楽しい環境か。
そしてそろそろ2ヶ月が経とうとしているけどMMPには相変わらず1年生が入っていません。……大丈夫か?

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