2020

■魅惑の香りと調味料

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「うっわー……2年生天才過ぎない?」
「あれはアカン。つか俺ら去年もメシ欲しいっつっとって今年すっかり忘れとるってどーゆーコト」
「ほら、今年はお酒に浮かれちゃったから。米のことなんか忘れてたよね」

 大学から徒歩15分くらいのところにあるアスレチック施設にあるバーベキュー場で佐藤ゼミは毎年バーベキューをやっている。隔週水曜日の4、5限に行われる「合同ゼミ」という課外授業枠を使って行われる交流企画。
 で、お肉を焼いて、乾杯をして。3年生の網はアタシが食べることを前提に安く大量の食材を用意してたんだけど、それでもまだまだお腹の要領には余裕がある。そんなときに飛び込んで来た2年生の光景ですよ。
 何と2年生は鉄板の半分を網と入れ替えておにぎりを焼き始めた。ネギ味噌としょうゆの香ばしい香りがふわ~っと漂って来て、これぞ飯テロっていう飯テロ。アタシと小田ちゃん、それから店長はそれをいいなーって眺めてる。

「って言うか2年生現段階で結構食材余らせてるっぽいし、アタシ2年生の網にお邪魔しちゃダメかな?」
「千葉ちゃんが行くと荒れるでよっぽど泣きついて来ん限りはやめとこ」
「おにぎりが食べたいなら条件をつけたらいいんじゃない? こっちの特殊食材と交換って感じで」
「こっちの特殊食材……あーダメ! タカちゃんならお酒で余裕で落とせるじゃんって思ったけど2年生お酒禁止だった!」

 3年生の、そしてアタシが個人で仕込んで来た特殊食材は何かあったかなと考えたときに、おやつとジップロックに浸けて来たアレの存在を思い出す。ゼミのバーベキューでは不足しがちな甘いもの枠なんだけど、あれを出さなきゃいけないか。

「ちょっと交渉してくる」
「いってら」

 マシュマロとジップロック袋を持って2年生の網へ。それを囲むタカちゃんに声をかける。まあやっぱり見知った後輩が話しかけやすいですよね。アタシのお腹の容量もわかってくれてるから話が通じやすいと言うか。

「タカちゃん食べてる?」
「あ、果林先輩お疲れ様です。まあまあ食べてますね」
「それはよかった」
「果林先輩は足りてますか?」
「残念ながら足りてない。で、何か2年生が美味しそうなことしてるからついふらふらと誘われてね」
「もしかして主食を欲しましたか」
「そう、欲した。2年生天才でしょ。タダでとは言わないから焼きおにぎりをいただけないかなー、なーんて」

 タカちゃんと一緒に網を囲んでるのはおにぎりを監督してる子と、2年の部幹事の鵠さん。まあこの辺りなら話は通じるかな。

「――ってことらしいんだけど鵠さん、大丈夫そうかな」
「あー、大丈夫なんじゃん? 炊いた分の飯は食っちまわないと。そういうことだから米福、おにぎりは作るだけ作っちまって焼いてもらっていいか?」
「まだ結構あるけどやっちゃって大丈夫?」
「アタシが食べるから平気平気。あと一部の3年ご飯食べたいーって飢えてるから。やっちゃって」

 アタシが食べるよっていう宣言に、おにぎりを監督してる子はマジでって顔をしてる。まあそうか。知らなかったら信じられないよね。だけどタカちゃんがアタシにはこれくらいウォーミングアップにもならないから大丈夫だよって補足してくれてる。

「それで千葉ちゃん、タダでとは言わないって、何をくれるつもりだったんすか」
「マシュマロディップとフレンチトースト。網の上でやると美味しい甘いものよ」
「あー、確かに甘味の発想はなかった」
「買い出しの女子からのメモにもなかったもんね」
「これをこうやって」

 銀の紙皿の上にマシュマロをこれでもかと敷き詰める。するととろ~っと溶け始めてクラッカーとか、フルーツとかをディップして食べると美味しいんですよねー。そのまま食べてももちろんオッケー。フレンチトーストも、別の皿の上にバターを敷いて焼いていく。するとタカちゃんが殺人的なことを呟いた。

「ネギ味噌バター醤油焼きおにぎり」
「高木お前天才か!?」
「それぞれが喧嘩しない味付けを検証する価値はある」
「――ということなので果林先輩、バターを分けてもらっていいですか?」
「おにぎり1個と交換で」

 おにぎり監督の米福クンっていう子がネギ味噌バター醤油焼きおにぎりを開発し始めた。話を聞けば、この子はお米同好会の子らしい。これはごはんですわ。鍋でご飯を炊くくらい造作ないワケですよねー。それに比べて学習しない3年生よ。

「味噌をちょっと弱めにしてみました。とりあえず高木君と先輩、どうぞ」
「わっ、ありがと。いただきまーす」
「いただきます。……ん」
「うん! いいねえ!」
「アリですね」

 調味料が結構たくさんついてる割に、お米の味がまだ負けてないっていうのが凄いよね。うん、ごはんおいしい。何個でも行けちゃうよね。なんなら焼く前の白いおむすびも食べたいくらいだし。

「おーい千葉ちゃぁーん! 何自分だけ抜け駆けしとんやー!」
「ヤバっ、店長が怒ってる」
「まあ、おにぎりはまだありますし2年生はお腹に余裕がないっぽいんで、来てもらったらいいんじゃないですか」
「ありがとタカちゃん。でもあの子ら体積大きいから押し寄せたら大変なことになるし出来たおにぎりをもらって帰るね。はぁーい! 今帰りますよー!」


end.


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バーベキューの現場にご飯が持ち込まれると、やっぱり3年生が黙っていませんでしたね。
というワケでご飯を何とかして分けてもらえないかなと考えた果林ですが、交換する物を持って行くのはなかなかレアな光景。
果林が用意していた甘いものもきっと美味しいしみんななかなか発想に至らなさそうなところ。ましまろおいしそう

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