ライフ・イズ・ビューティフル

 相変わらず部屋と台所を行き来する洋平を、お前はちょっと座ってろと朝霞が制する。そうバタバタされると落ち着いて話も出来やしないと溜め息を共に。飲みの席で落ち着いていられないのは洋平の職業病なのかもしれない。飲み専なんてきっとこれから先も無理だと思う。

「しょうがないよね、フード足りてるかなとか、朝霞クンそろそろ次行くかなとかって目が行っちゃう」
「次はビールじゃないのも飲みたい。梅酒のお湯割りにするか」
「それじゃあ」
「あーっと、自分でやる、自分でやるからお前は立つな、動くな。宇部、お前はどうする」
「それじゃあ、同じものをいただこうかしら。あなたの物より気持ち熱めでお願いするわ」
「わかった」

 仕事を盗られてわかりやすくご機嫌斜めな洋平は、ただ淡々と枝豆だけをつまんでいる。さっきまで空だった器には、山のように積み上がる枝豆の皮。冷凍庫にはまだ冷凍枝豆があるらしいけど、今ある物はそろそろ食べ尽くされようとしていた。

「洋平」
「なに?」
「あなた、将来はどうするの?」
「どういう業界に行くか、みたいなコト?」
「そうね」
「メグちゃん、知ってるでしょ?」
「ええ」

 前々から洋平の語る将来の目標は、自分の店を持つこと。居酒屋という場所にとても惹かれるのだそうだ。いろいろな大人の人生の縮図が見られる場所だという話は何度も聞いている。出会いや別れ、過去や未来。その他にも、人生の節目に立ち会うこともある。そんな場所を、自分で構えてみたいのだと。

「将来的に飲食店を構えるとして、大学卒業後の就職はどうするの?」
「大将とも話してるんだけど、一度外食産業とか、そういう業界のことを店の外に出て実際に見て、体験して、知識として上積みする必要があるよねって。そっち方面でしばらく働こうかって」
「そう。いずれはのれん分けかしら」
「そうなればいいなとは思ってる」

 虎視眈々とか、用意周到という言葉が将来のことを考えている洋平には似合う。いつだって他の同級生より少し先を見て、考えているという印象を受ける。それでいて、勉強やサークル、その他のプライベートも充実させている。バイト……言い換えると“修行”だけの生活を送っているわけでもない。
 自称・ステージスターとしての洋平しか知らないと意外に思えるけれど、山口洋平というのはおふざけの欠片も余計な物の入り込む隙間もない人だと思っている。意外とお堅くて、意外とちゃんとしている。そう悟らせないための顔も、完璧に崩さない。
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