2018(02)
■汗かき氷かき待つ秋まだ先
++++
「夏に負けるな! GREENsかき氷大会ー!」
「どんどんどんぱふー」
慧梨夏サンの景気のいい掛け声で始まったGREENsかき氷大会だ。趣旨はわかりやすい。ここのところ死ぬほど暑いしそんな中でバスケなんかやったら死ぬ。たまにはこういうのもいいよね、ということだ。
ただ、毎度毎度こういう大会をやるのがコムギハイツの駐車場っていうのがな! うちじゃん!? で、当然のようにうちの冷蔵庫が材料の備蓄庫みたいな扱いになってるじゃん!? まあ、物が少ないから入っちまうんだけど。
駐車場の空きスペースには海で使うようなパラソル付きのテーブルが設置された。その下には手動のかき氷器と、うちから引っ張ってきた電気で動く電動のかき氷器がスタンバイしている。
「美弥子サン、今回きょろちゃんだけじゃ追いつかないし、電動解禁しますねー」
「いいよいいよ、どんどんやっちゃって」
「っていうことなんで、どんどんやっていきます!」
「慧梨夏サン慧梨夏サン、きょろちゃんて何ですか!」
「きょろちゃんていうのはそのオレンジのかき氷器だよ」
「ほほーう! これがきょろちゃん! クマですか、サルですか!」
「どっちだろうねえ。クマかな?」
さっそくかき氷器に氷がセットされ、慧梨夏サンがみんなに器を配っている。シロップは机の上に置いてあって、各々が好きにやってくれというシステムだ。三浦はさっそくブルーハワイのシロップを器に入れている。
「鵠っち、ちょっといーい?」
「え、何すか」
「きょろちゃんの方やってくれる? うち電動の方の係するし」
「えーと、きょろちゃんの方をやる、とは」
「そりゃあ、氷を削るってことだよ」
そりゃそうじゃんな! 手動のかき氷器は誰かがハンドルを回さないと氷が削られない。そりゃ当然だ。だけど、まさかその係が自分に回ってくるとは思ってなかったじゃんな! いや、でも下っ端だから回ってくるか!
そんなようなことで腹を括り、俺はきょろちゃんの係に回ることに。幸い俺の器にはまだシロップすらセットしてなかったし、みんなが食ってるときに落ち着いて用意することにしよう。メロン食いたかったけど、どんときやがれ。
「鵠沼クーン、削ってくーださい」
「いや、つか三浦お前電動の方もまだそんな列ついてないじゃん?」
「三浦はきょろちゃんが動いてるのが見たいの!」
「はいはい、やりゃいいんだろ」
きょろちゃんの頭を左手で支え、右手はハンドルを握る。そしてひたすら回して回して削って削って。ジャッジャッジャッと氷を削る音しか俺には聞こえてこないけど、三浦がきゃっきゃと騒いでいるからきょろちゃんに何らかの変化があったのだろう。
「ねえ鵠沼クン! きょろちゃんがきょろきょろしてる!」
「それはよかったな」
「聞いてないでしょ!」
「聞く余裕がねーんだよ。削るのやめるぞ」
「それはダメです」
隣の電動かき氷器の方では、あっと言う間に削った氷で器がいっぱいになっている。って言うか電動のがあるなら別に手動のきょろちゃんを持ってくる必要はな……いや、言ったら怒られるなこれ。慧梨夏サン流のイベントの美学みたいなモンだろうし。
俺が一人分を削っている間に隣では何人もかき氷を受け取っていた。コムギハイツ脇の竹林から伸びる影の下に座ってかき氷を食ってるのを見ていると、単純に羨ましさしかない。なんだって俺は一人だけめっちゃ汗をかきながらこんな重労働を。
「汗かき氷かき待つ秋まだ先」
「お~、さっちゃん上手。言葉のリズム? テンポ?」
「慧梨夏サン、三浦のダジャレ癖を誉めるとか暑さでやられてる証拠っすよ」
「鵠沼クンはーやーくー! 三浦にも早くー」
「お前そんなこと言うなら自分で削れよ」
「ごーめーんー!」
三浦がうるさいからさっさと削ってしまうことに。俺も早く人のじゃなくて自分のかき氷を電動の方で削って日陰か玄関先でゆったり食べたいじゃんな。まだパラソルがあるからいいけど、これで炎天下の中だったら倒れてたな。
慧梨夏サンは一応幹事だからか、自分のかき氷を作るのを待ってくれているらしかった。全員に最初の1杯が回るまでは見守る、というようなことらしい。ただ勢いだけでやってるんじゃなかったんだなこの人。
「やっと終わったー…!」
「おお~、かき氷! 鵠沼クンありがとうオリゴ糖! 仕上げにブルーハワイを、ちゅ~っ! 舌が青くなったら三浦のことは宇宙人って呼んでくれていいよ!」
「ノリが十分異星人じゃんな」
「お疲れ。鵠っちも自分の作ったらいいよ」
「そーします。――ってちょっと待ってください慧梨夏サン、メロンシロップってもうこんだけすか!?」
「シロップはあるだけだね」
なんてこった。俺がきょろちゃんと格闘してる間にメロンシロップが微々たる量になっちまっていた。えっ、何でメロンだけこんな極端な減り方してるんだ? 他のはそこまででもないのに。
「他の味で妥協できないなら、今の時期ならコンビニにもあると思うし」
「買って来いっつーことっすか」
ここまで頑張ったのに、いざ自分の氷を妥協するワケにはいかないじゃん? さっそく原付に跨がりコンビニに行く用意を。
「それじゃあ行ってきます」
「あっ、鵠っち追加の氷もおねがーい」
end.
++++
ここのところすごく暑いので、かき氷が食べたくなるよね、というお話でした。GREENsかき氷大会です。
ただ、毎度毎度鵠さんはGREENsの行事ではなんかツイてないというかそんな役回りが多め。佐藤ゼミじゃないから疫病神と言われないけど十分そのレベル。
三浦さっちゃんのダジャレ癖は考えるのが何気にしんどい。ダジャレにしても韻を踏むにしても頭を柔らかくしないとなあ。
.
++++
「夏に負けるな! GREENsかき氷大会ー!」
「どんどんどんぱふー」
慧梨夏サンの景気のいい掛け声で始まったGREENsかき氷大会だ。趣旨はわかりやすい。ここのところ死ぬほど暑いしそんな中でバスケなんかやったら死ぬ。たまにはこういうのもいいよね、ということだ。
ただ、毎度毎度こういう大会をやるのがコムギハイツの駐車場っていうのがな! うちじゃん!? で、当然のようにうちの冷蔵庫が材料の備蓄庫みたいな扱いになってるじゃん!? まあ、物が少ないから入っちまうんだけど。
駐車場の空きスペースには海で使うようなパラソル付きのテーブルが設置された。その下には手動のかき氷器と、うちから引っ張ってきた電気で動く電動のかき氷器がスタンバイしている。
「美弥子サン、今回きょろちゃんだけじゃ追いつかないし、電動解禁しますねー」
「いいよいいよ、どんどんやっちゃって」
「っていうことなんで、どんどんやっていきます!」
「慧梨夏サン慧梨夏サン、きょろちゃんて何ですか!」
「きょろちゃんていうのはそのオレンジのかき氷器だよ」
「ほほーう! これがきょろちゃん! クマですか、サルですか!」
「どっちだろうねえ。クマかな?」
さっそくかき氷器に氷がセットされ、慧梨夏サンがみんなに器を配っている。シロップは机の上に置いてあって、各々が好きにやってくれというシステムだ。三浦はさっそくブルーハワイのシロップを器に入れている。
「鵠っち、ちょっといーい?」
「え、何すか」
「きょろちゃんの方やってくれる? うち電動の方の係するし」
「えーと、きょろちゃんの方をやる、とは」
「そりゃあ、氷を削るってことだよ」
そりゃそうじゃんな! 手動のかき氷器は誰かがハンドルを回さないと氷が削られない。そりゃ当然だ。だけど、まさかその係が自分に回ってくるとは思ってなかったじゃんな! いや、でも下っ端だから回ってくるか!
そんなようなことで腹を括り、俺はきょろちゃんの係に回ることに。幸い俺の器にはまだシロップすらセットしてなかったし、みんなが食ってるときに落ち着いて用意することにしよう。メロン食いたかったけど、どんときやがれ。
「鵠沼クーン、削ってくーださい」
「いや、つか三浦お前電動の方もまだそんな列ついてないじゃん?」
「三浦はきょろちゃんが動いてるのが見たいの!」
「はいはい、やりゃいいんだろ」
きょろちゃんの頭を左手で支え、右手はハンドルを握る。そしてひたすら回して回して削って削って。ジャッジャッジャッと氷を削る音しか俺には聞こえてこないけど、三浦がきゃっきゃと騒いでいるからきょろちゃんに何らかの変化があったのだろう。
「ねえ鵠沼クン! きょろちゃんがきょろきょろしてる!」
「それはよかったな」
「聞いてないでしょ!」
「聞く余裕がねーんだよ。削るのやめるぞ」
「それはダメです」
隣の電動かき氷器の方では、あっと言う間に削った氷で器がいっぱいになっている。って言うか電動のがあるなら別に手動のきょろちゃんを持ってくる必要はな……いや、言ったら怒られるなこれ。慧梨夏サン流のイベントの美学みたいなモンだろうし。
俺が一人分を削っている間に隣では何人もかき氷を受け取っていた。コムギハイツ脇の竹林から伸びる影の下に座ってかき氷を食ってるのを見ていると、単純に羨ましさしかない。なんだって俺は一人だけめっちゃ汗をかきながらこんな重労働を。
「汗かき氷かき待つ秋まだ先」
「お~、さっちゃん上手。言葉のリズム? テンポ?」
「慧梨夏サン、三浦のダジャレ癖を誉めるとか暑さでやられてる証拠っすよ」
「鵠沼クンはーやーくー! 三浦にも早くー」
「お前そんなこと言うなら自分で削れよ」
「ごーめーんー!」
三浦がうるさいからさっさと削ってしまうことに。俺も早く人のじゃなくて自分のかき氷を電動の方で削って日陰か玄関先でゆったり食べたいじゃんな。まだパラソルがあるからいいけど、これで炎天下の中だったら倒れてたな。
慧梨夏サンは一応幹事だからか、自分のかき氷を作るのを待ってくれているらしかった。全員に最初の1杯が回るまでは見守る、というようなことらしい。ただ勢いだけでやってるんじゃなかったんだなこの人。
「やっと終わったー…!」
「おお~、かき氷! 鵠沼クンありがとうオリゴ糖! 仕上げにブルーハワイを、ちゅ~っ! 舌が青くなったら三浦のことは宇宙人って呼んでくれていいよ!」
「ノリが十分異星人じゃんな」
「お疲れ。鵠っちも自分の作ったらいいよ」
「そーします。――ってちょっと待ってください慧梨夏サン、メロンシロップってもうこんだけすか!?」
「シロップはあるだけだね」
なんてこった。俺がきょろちゃんと格闘してる間にメロンシロップが微々たる量になっちまっていた。えっ、何でメロンだけこんな極端な減り方してるんだ? 他のはそこまででもないのに。
「他の味で妥協できないなら、今の時期ならコンビニにもあると思うし」
「買って来いっつーことっすか」
ここまで頑張ったのに、いざ自分の氷を妥協するワケにはいかないじゃん? さっそく原付に跨がりコンビニに行く用意を。
「それじゃあ行ってきます」
「あっ、鵠っち追加の氷もおねがーい」
end.
++++
ここのところすごく暑いので、かき氷が食べたくなるよね、というお話でした。GREENsかき氷大会です。
ただ、毎度毎度鵠さんはGREENsの行事ではなんかツイてないというかそんな役回りが多め。佐藤ゼミじゃないから疫病神と言われないけど十分そのレベル。
三浦さっちゃんのダジャレ癖は考えるのが何気にしんどい。ダジャレにしても韻を踏むにしても頭を柔らかくしないとなあ。
.