2018(02)
■あの頃僕らはワルかった
++++
「いよーうクソガキー! 来やがったかー!」
「うるせえクソが。誰も好き好んでは来てねえ」
路地裏のライブハウス、そこに立ち入るなり俺に絡んで来やがったのはバイト先の同僚、長谷川正道。コイツの本業(?)は一応音楽で、スラップソウルというバンドのギタリストだ。一応メジャーを目指しているらしい。
ただ、なかなか知名度やら集客率が上がらないのか、はたまた長谷川の分のノルマが捌けないのかライブのチケットを買えと俺を脅して来やがるのだ。そんな事情で買わされたチケットを握り、至る今。
「おっ、ユーヤ。来たのか」
「あ、拓馬さんお疲れさんっす」
「クソガキテメー! 俺とオミに対する態度が違いすぎるだろ!」
「お前は日頃の言動がクソなんだろうが」
「あァ!? うるせーぞ元ヤンが、ぶっ飛ばすぞ!」
「てめェ誰が元ヤンだ、俺はヤンキーだった覚えはねえぞ」
「強いて誰が元ヤンかっつったら俺だな」
「そうだぞ長谷川、本物を前にしてそのネタやんのか」
「いや、ガチモンには敵いませんてー、オミ様に本気出されたら俺くらい星港港に沈められますしぃー」
シルバーアッシュのベリーショートヘアにグレーのカラコン、そして俺以上にじゃらじゃらと飾り付けられたピアス。背も180くらいはあろうかというこの人がスラップソウルのベースボーカル、塩見拓馬さん。
ちなみに俺と拓馬さんとは遠い昔から互いのことは何となく知っていた、という間柄だ。こんな風に知り合いと呼べるようになったのは最近だけど、拓馬さんが星港のヘッドだった時期と、俺が荒れていた時期は合致している。
とは言え拓馬さんはゾロゾロと群れていたワケではなく、単騎での強さから数あるチームのヘッドたちが自然と下にやってきていたそうだ。で、自然と星港界隈を束ねていた、と。今でもそういう連中の間では伝説らしい。
「しかしまあ、ユーヤも丸くなったなあ」
「拓馬さん会う度それ言うじゃないすか」
「世の中すべてを憎んでるみたいな目ぇしてギラギラしてたガキがよくもまあここまで落ち着いたかと」
「ホント勘弁してくださいよ。そう言う拓馬さんだって今は普通に会社員やってるじゃないすか」
「ごくごく普通の会社員だな」
「拓馬さんだって十分当時より丸いじゃないすか」
自分の一番荒れていた頃を知っている人にそれを触れられて比較されるのは、まるで親戚に「しばらく見ないうちにおっきくなって」と言われるような気まずさもある。話によれば俺は拓馬さんに気にかけられてたらしいし。
「えー、自分の仕事終わったからっつって就業時間内にさっさと帰る奴が真っ当な社会人とは思えないんですけどぉー」
「あ? 早退はちゃんと有給申請してっし有給は労働者の権利だろうが。ちょこちょこ使わねえと消える一方だろうがよ。言っとくけどな、そういうのは全社的に暇な時期しかやってねえからな」
「オミの言ってることが普通すぎて草も生えない」
「ユーヤ、就職先はちゃんと考えて決めろよ」
「うす。まあ、こーゆーのがいないのが理想っすね」
「ああ、確かに」
「あンだクソガキコラぁ! 誰がこーゆーのだ!」
「てめェだろクソが」
この長谷川がバイト先ではとにかくぶっ飛ばしたくなること数知れず。俺がキープしといた車の鍵だって勝手に横取りしていくわ、イベントごとにコスプレを強要するわ、その他諸々。年長者を敬えと言われても敬う要素が全くもってゼロでしかねえ。
それに対して拓馬さんは物事に対して筋はちゃんと通すし、年が上とか下とか関係なくちゃんと話を聞いてくれる。握った弱みでとことん人を脅し倒すこのクズ野郎とは大違いだ。いつまでもサウナでの話持ち出してきやがって。
「あ、そうだユーヤ、これ終わったら焼き肉行くけどお前も来るよな?」
「マジすか、いいっすね。でも今日あんま持ち合わせてないんすよね」
「ああ、俺が出すからお前は心配すんな」
「いや、でも焼き肉って結構するじゃないすか、さすがに」
「ボーナスが出たんだよ。それによ、この長谷川とかいうしょっぼいヤツはよー、俺が飯行くぞって言うと逃げるんだよなー」
「あー、それはクソっすね、せっかく拓馬さんが誘ってくれてるのに」
「バカヤローオミお前人に量食うの強要しやがって! 一歩間違えば殺人だからな! 胃袋破裂して死ぬぞ!? 殺人罪で逮捕されろバーカ! つかユーヤお前何でオミと同レベルで食えんだよ意味わかんねーよ」
「長谷川、逃げたら希望通り星港港に沈めるぞ」
「い、行かせていただきますぅ~……」
そうこうしている間に開演時刻が近付いていた。人の入りは満員御礼というほどでもないけどまあ入ったという感じか。俺はステージ全体が見渡せる後方に陣取り、一歩引いてこの空間を眺めていた。これもまたスラップソウルの音楽のテーマである日常の風景だ。……と言うか拓馬さんのナリと素性と歌詞のギャップがな、うん、何も言うまい。沈められたくはねえし。
end.
++++
高崎が長谷川マサちゃんに脅されてライブハウスに遊びに行ったよ! 青山さんとかはいないのかな
倉庫で働く会社員の塩見さん、そしてSDXソルさんのもう一つの顔はスラップソウルのベースボーカルだよ! 伝説の元ヤンである。
どうやら塩見さんは結構ご飯をよく食べる人のようです。そういや高崎の他にもいたなあ、塩見さん界隈でいっぱい食べる子
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「いよーうクソガキー! 来やがったかー!」
「うるせえクソが。誰も好き好んでは来てねえ」
路地裏のライブハウス、そこに立ち入るなり俺に絡んで来やがったのはバイト先の同僚、長谷川正道。コイツの本業(?)は一応音楽で、スラップソウルというバンドのギタリストだ。一応メジャーを目指しているらしい。
ただ、なかなか知名度やら集客率が上がらないのか、はたまた長谷川の分のノルマが捌けないのかライブのチケットを買えと俺を脅して来やがるのだ。そんな事情で買わされたチケットを握り、至る今。
「おっ、ユーヤ。来たのか」
「あ、拓馬さんお疲れさんっす」
「クソガキテメー! 俺とオミに対する態度が違いすぎるだろ!」
「お前は日頃の言動がクソなんだろうが」
「あァ!? うるせーぞ元ヤンが、ぶっ飛ばすぞ!」
「てめェ誰が元ヤンだ、俺はヤンキーだった覚えはねえぞ」
「強いて誰が元ヤンかっつったら俺だな」
「そうだぞ長谷川、本物を前にしてそのネタやんのか」
「いや、ガチモンには敵いませんてー、オミ様に本気出されたら俺くらい星港港に沈められますしぃー」
シルバーアッシュのベリーショートヘアにグレーのカラコン、そして俺以上にじゃらじゃらと飾り付けられたピアス。背も180くらいはあろうかというこの人がスラップソウルのベースボーカル、塩見拓馬さん。
ちなみに俺と拓馬さんとは遠い昔から互いのことは何となく知っていた、という間柄だ。こんな風に知り合いと呼べるようになったのは最近だけど、拓馬さんが星港のヘッドだった時期と、俺が荒れていた時期は合致している。
とは言え拓馬さんはゾロゾロと群れていたワケではなく、単騎での強さから数あるチームのヘッドたちが自然と下にやってきていたそうだ。で、自然と星港界隈を束ねていた、と。今でもそういう連中の間では伝説らしい。
「しかしまあ、ユーヤも丸くなったなあ」
「拓馬さん会う度それ言うじゃないすか」
「世の中すべてを憎んでるみたいな目ぇしてギラギラしてたガキがよくもまあここまで落ち着いたかと」
「ホント勘弁してくださいよ。そう言う拓馬さんだって今は普通に会社員やってるじゃないすか」
「ごくごく普通の会社員だな」
「拓馬さんだって十分当時より丸いじゃないすか」
自分の一番荒れていた頃を知っている人にそれを触れられて比較されるのは、まるで親戚に「しばらく見ないうちにおっきくなって」と言われるような気まずさもある。話によれば俺は拓馬さんに気にかけられてたらしいし。
「えー、自分の仕事終わったからっつって就業時間内にさっさと帰る奴が真っ当な社会人とは思えないんですけどぉー」
「あ? 早退はちゃんと有給申請してっし有給は労働者の権利だろうが。ちょこちょこ使わねえと消える一方だろうがよ。言っとくけどな、そういうのは全社的に暇な時期しかやってねえからな」
「オミの言ってることが普通すぎて草も生えない」
「ユーヤ、就職先はちゃんと考えて決めろよ」
「うす。まあ、こーゆーのがいないのが理想っすね」
「ああ、確かに」
「あンだクソガキコラぁ! 誰がこーゆーのだ!」
「てめェだろクソが」
この長谷川がバイト先ではとにかくぶっ飛ばしたくなること数知れず。俺がキープしといた車の鍵だって勝手に横取りしていくわ、イベントごとにコスプレを強要するわ、その他諸々。年長者を敬えと言われても敬う要素が全くもってゼロでしかねえ。
それに対して拓馬さんは物事に対して筋はちゃんと通すし、年が上とか下とか関係なくちゃんと話を聞いてくれる。握った弱みでとことん人を脅し倒すこのクズ野郎とは大違いだ。いつまでもサウナでの話持ち出してきやがって。
「あ、そうだユーヤ、これ終わったら焼き肉行くけどお前も来るよな?」
「マジすか、いいっすね。でも今日あんま持ち合わせてないんすよね」
「ああ、俺が出すからお前は心配すんな」
「いや、でも焼き肉って結構するじゃないすか、さすがに」
「ボーナスが出たんだよ。それによ、この長谷川とかいうしょっぼいヤツはよー、俺が飯行くぞって言うと逃げるんだよなー」
「あー、それはクソっすね、せっかく拓馬さんが誘ってくれてるのに」
「バカヤローオミお前人に量食うの強要しやがって! 一歩間違えば殺人だからな! 胃袋破裂して死ぬぞ!? 殺人罪で逮捕されろバーカ! つかユーヤお前何でオミと同レベルで食えんだよ意味わかんねーよ」
「長谷川、逃げたら希望通り星港港に沈めるぞ」
「い、行かせていただきますぅ~……」
そうこうしている間に開演時刻が近付いていた。人の入りは満員御礼というほどでもないけどまあ入ったという感じか。俺はステージ全体が見渡せる後方に陣取り、一歩引いてこの空間を眺めていた。これもまたスラップソウルの音楽のテーマである日常の風景だ。……と言うか拓馬さんのナリと素性と歌詞のギャップがな、うん、何も言うまい。沈められたくはねえし。
end.
++++
高崎が長谷川マサちゃんに脅されてライブハウスに遊びに行ったよ! 青山さんとかはいないのかな
倉庫で働く会社員の塩見さん、そしてSDXソルさんのもう一つの顔はスラップソウルのベースボーカルだよ! 伝説の元ヤンである。
どうやら塩見さんは結構ご飯をよく食べる人のようです。そういや高崎の他にもいたなあ、塩見さん界隈でいっぱい食べる子
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