2018(02)
■だって誕生日は存在するから
++++
午後9時、ピンポンと短いインターホンが1回鳴って、一瞬の間の後にドンドンドンとドアを叩く音がする。これだけで誰が来たのかわかる。俺は急いで玄関に立ち、今この瞬間も叩かれているドアを開く。
「遅せえぞこの野郎、インターホン鳴らしたらすぐ開けろ」
「先輩がせっかちなんすよ」
「あ?」
「何でもないっす」
「邪魔するぞ。あ、冷蔵庫借りるからな」
「どうぞ」
やってきたのは案の定高崎先輩だ。高崎先輩はこの部屋の真下に住んでいる。気が向いたときにふらっとこの部屋にやってきては飯を食ったり酒を飲んだりするのが日常になっていた。俺が暇ならお前も暇だろという謎理論だけど、強ち間違いではなかったりもする。
「これ、食うだろ」
「わ。あざっす、食います。あ、バイト上がりすか? お疲れさまっす」
「テスト期間だろうと通常運転だからな」
そう言って先輩が差し出してくれたのは、Sサイズのピザの箱。中身はクワトロベーコン。高崎先輩が好きなヤツだ。高崎先輩はピザ屋で配達のバイトをしていて、たまに社割でSサイズのピザを焼いて持ち帰ってくる。それを自分の夕飯にしたり、こうやって俺にも分けてくれたりする。
「さすがっすね。俺はテスト期間シフト入れてないっすよ」
「まあ、時間帯が違うからな。深夜メインならさすがにな。俺は日中だし何の問題もねえけど」
「でも、暑すぎてしんどくないすか」
「最近はマジで殺人級だな。車の争奪戦には負けるしよ」
「原付っすもんねー……しんどいっす」
「飲まなきゃやってらんねえだろ。あ、こいつで何か作ってくれ」
指定されたのは、先輩が持ち込んだらしいカシスリキュールの瓶だ。うちにもまだ俺が飲んでいる分の残りがあるから、先輩がくれた瓶はそれがなくなったら開けることに。ただ、確かに高崎先輩は甘いのが好きな人ではあるけど、1発目は大体ビールだし、変わったことがあるもんだなと。
「珍しいっすね、高崎先輩がカシスなんて。ビールじゃないんすね」
「まあ、たまにはな」
「どうします? さっぱりと、ソーダとかにしときます?」
「ああ、そうしてくれ」
冷蔵庫の中から炭酸水を取り出し、氷とリキュールを入れたグラスの中に注いでいく。それを軽く混ぜて、さっぱりめに今日の1杯目だ。お疲れさまっす、乾杯とグラスを合わせて、一気にそれを喉に流し込む。さすがに飲み方はビールのそれと同じだ。
「……あー…! うめえ。やっぱ夏はソーダだな」
「そうっすよね」
「よし、ピザだ。お前も食えよ」
「いただきます」
ベーコンとチーズのピザが美味い。ベーコンの香ばしさと塩味がすごく効いている。先輩曰く、自分で自分のために作るときは、ベーコンを通常のレシピにはない行程で調理しているんだとか。多分、別にちょっと焼いてるんだろうな。
さっき炭酸水を取るのに冷蔵庫を開けたら、俺の入れた覚えのないベーコンが入っていた。きっと高崎先輩の私物だろう。高崎先輩は「信じるとするならカリカリのベーコンを崇める宗教だ」と言っている。今日もこれからここでベーコンをカリカリにするのだろう。
「あ、そう言えば先輩、明日テストって。飲んで大丈夫なんすか」
「ちょっと飲んだくらいで支障なんざ出るかよ」
「まあ、そうっすよね」
「魔の木曜日は無事に終わったんだ。もう勝ったも同然だ。まあ、お前が支障出るっつーんならさっさと帰ることも考えてやってもいいぞ」
「いや、俺も木曜は基本バイトなんで全然余裕っす」
「なら俺が倒れるまで飲むぞ。無制限飲みだ」
「いいっすよ」
今が9時過ぎだから、まあ……精々あと3時間ってトコだろうか。高崎先輩の場合、酔い潰れると言うよりは睡魔に負けてお開きのパターンが主だし。だけど、酒量に関して言えば確かに無制限飲みと言える。冷蔵庫の中はすごいことになっていたから。
高崎先輩は部屋の隅に構築された簡易バーコーナーのカゴをのぞき込みながら、次はどの瓶にしようかなとリキュールの品定めをしている。本当は床にそのまま瓶を置いてたけど、強い地震が来たら危ないなと思って最近酒瓶たちをカゴにまとめたんだ。
数々の酒瓶をカゴに入れるメリットは、カゴを動かせばその場所の床が掃除しやすいこと。デメリットはカゴの中に埃が溜まるから、一回一回瓶を全部出してカゴを拭かなきゃいけないこと。
「でも、いくら支障がないっつってもテスト期間中に無制限飲みっつーのも変な感じっすね。しかも2人で」
「派手にやるだけが無制限じゃねえんだよ」
「そっすね」
何てことないいつもの日常だけど、無制限飲みという名前が付くとちょっとした行事感がする。高崎先輩が倒れるまでの間、俺はしこたまチーズとベーコンを食べさせられ、カクテルを作り続けることになるのだろう。でもまあ、これはこれで。
「あ、チーズ食うだろ。いろいろ買ってきてんだ」
「何か気遣ってもらっちゃってスイマセン」
「うるせえ、自惚れるな。お前がちっとも食わねえのを見てると俺の精神衛生にも良くねえんだ。わかったらチーズ食え」
「あざっす」
end.
++++
L誕は緑ヶ丘大学のテスト期間に大体カブってくるのでMBCCとしての無制限飲みは開催されません。
高崎に「せっかち」とか言えるのもLだからだろうなあ。他の人がそんなこと言おうものなら、と言うか恐ろしくて言えないヤツ
何かLは多分チーズが好きなんじゃないかなと最近思い始めました。前に直クンともチーズのお店に行ってたもんね
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午後9時、ピンポンと短いインターホンが1回鳴って、一瞬の間の後にドンドンドンとドアを叩く音がする。これだけで誰が来たのかわかる。俺は急いで玄関に立ち、今この瞬間も叩かれているドアを開く。
「遅せえぞこの野郎、インターホン鳴らしたらすぐ開けろ」
「先輩がせっかちなんすよ」
「あ?」
「何でもないっす」
「邪魔するぞ。あ、冷蔵庫借りるからな」
「どうぞ」
やってきたのは案の定高崎先輩だ。高崎先輩はこの部屋の真下に住んでいる。気が向いたときにふらっとこの部屋にやってきては飯を食ったり酒を飲んだりするのが日常になっていた。俺が暇ならお前も暇だろという謎理論だけど、強ち間違いではなかったりもする。
「これ、食うだろ」
「わ。あざっす、食います。あ、バイト上がりすか? お疲れさまっす」
「テスト期間だろうと通常運転だからな」
そう言って先輩が差し出してくれたのは、Sサイズのピザの箱。中身はクワトロベーコン。高崎先輩が好きなヤツだ。高崎先輩はピザ屋で配達のバイトをしていて、たまに社割でSサイズのピザを焼いて持ち帰ってくる。それを自分の夕飯にしたり、こうやって俺にも分けてくれたりする。
「さすがっすね。俺はテスト期間シフト入れてないっすよ」
「まあ、時間帯が違うからな。深夜メインならさすがにな。俺は日中だし何の問題もねえけど」
「でも、暑すぎてしんどくないすか」
「最近はマジで殺人級だな。車の争奪戦には負けるしよ」
「原付っすもんねー……しんどいっす」
「飲まなきゃやってらんねえだろ。あ、こいつで何か作ってくれ」
指定されたのは、先輩が持ち込んだらしいカシスリキュールの瓶だ。うちにもまだ俺が飲んでいる分の残りがあるから、先輩がくれた瓶はそれがなくなったら開けることに。ただ、確かに高崎先輩は甘いのが好きな人ではあるけど、1発目は大体ビールだし、変わったことがあるもんだなと。
「珍しいっすね、高崎先輩がカシスなんて。ビールじゃないんすね」
「まあ、たまにはな」
「どうします? さっぱりと、ソーダとかにしときます?」
「ああ、そうしてくれ」
冷蔵庫の中から炭酸水を取り出し、氷とリキュールを入れたグラスの中に注いでいく。それを軽く混ぜて、さっぱりめに今日の1杯目だ。お疲れさまっす、乾杯とグラスを合わせて、一気にそれを喉に流し込む。さすがに飲み方はビールのそれと同じだ。
「……あー…! うめえ。やっぱ夏はソーダだな」
「そうっすよね」
「よし、ピザだ。お前も食えよ」
「いただきます」
ベーコンとチーズのピザが美味い。ベーコンの香ばしさと塩味がすごく効いている。先輩曰く、自分で自分のために作るときは、ベーコンを通常のレシピにはない行程で調理しているんだとか。多分、別にちょっと焼いてるんだろうな。
さっき炭酸水を取るのに冷蔵庫を開けたら、俺の入れた覚えのないベーコンが入っていた。きっと高崎先輩の私物だろう。高崎先輩は「信じるとするならカリカリのベーコンを崇める宗教だ」と言っている。今日もこれからここでベーコンをカリカリにするのだろう。
「あ、そう言えば先輩、明日テストって。飲んで大丈夫なんすか」
「ちょっと飲んだくらいで支障なんざ出るかよ」
「まあ、そうっすよね」
「魔の木曜日は無事に終わったんだ。もう勝ったも同然だ。まあ、お前が支障出るっつーんならさっさと帰ることも考えてやってもいいぞ」
「いや、俺も木曜は基本バイトなんで全然余裕っす」
「なら俺が倒れるまで飲むぞ。無制限飲みだ」
「いいっすよ」
今が9時過ぎだから、まあ……精々あと3時間ってトコだろうか。高崎先輩の場合、酔い潰れると言うよりは睡魔に負けてお開きのパターンが主だし。だけど、酒量に関して言えば確かに無制限飲みと言える。冷蔵庫の中はすごいことになっていたから。
高崎先輩は部屋の隅に構築された簡易バーコーナーのカゴをのぞき込みながら、次はどの瓶にしようかなとリキュールの品定めをしている。本当は床にそのまま瓶を置いてたけど、強い地震が来たら危ないなと思って最近酒瓶たちをカゴにまとめたんだ。
数々の酒瓶をカゴに入れるメリットは、カゴを動かせばその場所の床が掃除しやすいこと。デメリットはカゴの中に埃が溜まるから、一回一回瓶を全部出してカゴを拭かなきゃいけないこと。
「でも、いくら支障がないっつってもテスト期間中に無制限飲みっつーのも変な感じっすね。しかも2人で」
「派手にやるだけが無制限じゃねえんだよ」
「そっすね」
何てことないいつもの日常だけど、無制限飲みという名前が付くとちょっとした行事感がする。高崎先輩が倒れるまでの間、俺はしこたまチーズとベーコンを食べさせられ、カクテルを作り続けることになるのだろう。でもまあ、これはこれで。
「あ、チーズ食うだろ。いろいろ買ってきてんだ」
「何か気遣ってもらっちゃってスイマセン」
「うるせえ、自惚れるな。お前がちっとも食わねえのを見てると俺の精神衛生にも良くねえんだ。わかったらチーズ食え」
「あざっす」
end.
++++
L誕は緑ヶ丘大学のテスト期間に大体カブってくるのでMBCCとしての無制限飲みは開催されません。
高崎に「せっかち」とか言えるのもLだからだろうなあ。他の人がそんなこと言おうものなら、と言うか恐ろしくて言えないヤツ
何かLは多分チーズが好きなんじゃないかなと最近思い始めました。前に直クンともチーズのお店に行ってたもんね
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