2018(02)
■定期の駆け引き
++++
「カフェオレ氷、コーヒーゼリーソフトトッピングで」
「くっ……い、いちご練乳ミニで……」
夏の“髭”の期間限定メニューはかき氷だ。ミニで十分一人前くらいにはなるだろうそれを、ミニじゃない方のノーマルサイズで注文をする。毎年少しずつメニューのラインナップは変わるが、今年の一押しはカフェオレ氷だろう。
トッピングには自分の店のコーヒーを使ったゼリーと、ソフトクリーム。さすがに練乳をかけるのはやめておいた。これで値段は890円ほどになる。かき氷としては少々高めだが、ここ最近流行ってるタイプのかき氷と比較すれば妥当になるのだろう。
「飯野パイセンゴチっす」
「高崎の野郎~…!」
「奢りが嫌ならテストは諦めるんだな」
「喜んでご馳走させていただきます!」
どうしてこのかき氷を飯野に奢らせているのかと言えば、それがテスト対策の交換条件だからだ。
飯野は大学祭実行委員のお偉いさんで、まだまだ大学祭には早いであろう時期からバタバタと動き回っていた。いや、それとは関係なく遊び呆けて授業に出てなかったりもする。それで足りないノートだのプリントだのをくれと泣きついて来やがるのだ。
「でもよー、この氷が890円だろ? これで1教科分とかじゃなくて授業5回分っていうのはどーなんだよ」
「俺が別の奴に授業1回分のプリントをもらうのと同じレートにしてある」
「つかお前も出てない授業とかあるんだな」
「木曜2限な」
「あー、木曜なー。お前には鬼門だよなー」
「何故か木曜だけは気が緩むのか何なのか、なあ」
ちなみにその木曜2限の授業はほとんどが寝坊で出れていない。ただ、評価基準がテスト100%なのをいいことにプリントや何かは宮ちゃんに貰っていて、授業1回ごとに学食で160円のサンデーを奢っている。
俺が授業1回に対して160円を出しているのに、飯野が160円以下で授業1回分の救済を得られるのはどう考えてもおかしい。最低でも160円、それでなくても飯野が慌てているのは1教科どころの騒ぎじゃねえから、助けて欲しけりゃもっと積めという話だ。
「って言うかお前ゼミ出席ヤバくね?」
「ヤバいな。でもレポートがヤバいお前に言われたくねえな」
「うっ、うるせー! 出席がヤバい方がヤバいだろ!」
「七夕ボーナスで1回補填したけど、今後も多分ヤバいからな」
俺は基本的に授業をサボることは少ないし、それなりに真面目に授業を受けている方だ。成績もB以下はあんまないからまあ悪くない方だと言えるだろう。ただ、ゼミだけはどうしても出席が足りなくなって最終的に安部ちゃんに泣きつくことになるのだ。
それと言うのもゼミは木曜4限。木曜2限と同じく4限のゼミも寝坊で欠席または遅刻になること数知れず。45分以上の遅刻は0.5回分の欠席にカウントされる安部ゼミでは、そのちりつもが命取りになりかねない。
去年足りなくなった出席は黒糖かりんとうを渡すことで何とかしてもらった。ただ、今年も同じ手段が使えるとは思わないから、何らかの手段を考えておかなければならないだろう。レポートは人並み以上に書けている。問題は出席だけなんだ。
「こちらカフェオレ氷といちご練乳のミニです。ご注文は以上でお揃いでしょうか」
「はーい」
「じゃ、いただきます」
「いただきまーす」
「あ~、うめえ」
「そりゃお前は俺の金で食ってんだから美味さも極上だろうがよ」
「あ?」
「サーセンした」
氷を食べ進めながら、テストが終わった後のことを考える。テストが終わって夏休みに入れば、バイト三昧になるだろう。あと、ゼミ課題のレポート。このレポートで出席が危うい分を何とかカバー出来りゃいいんだろうけどな。
「ところで高崎様」
「あ?」
「テストとはまた別に、夏休みのレポートをちょっと手伝っていただけないかな~と」
「それで、それを手伝ったら俺に何が返って来るんだ」
「あ、え~っと……お前の出席を0.5~1回分くらいどうにかならないか安部ちゃんに交渉します」
「確定事項じゃねえのかよ」
「でもさ、お前に協力してもらわないとそれらしいレポートになんかなんねーしさ! そんなようなことを安部ちゃんに言ったら手伝ってもらえばって言ってたんだって!」
「いや、リターンがねえのに手伝う気はさらさらねえぞ」
「そこを何とか~」
やっぱり、ただの学業よりも安部ちゃんとの駆け引きじゃないけどそういうところの交渉術みたいな物が肝になって来るのだろう。賄賂はもう受け付けてもらえないとすれば、目に見える形で評価を上げるにはやはりゴミクズみたいな飯野のレポートをそれなりに読める物にすることだろうか。
「じゃあ、明日安部ちゃんに交渉しに行くぞ」
「マジか! えっ、俺のレポートを何とかしたら出席ボーナス!?」
「それっくらいのリターンがねえとお前の相手なんざやってらんねえからな」
end.
++++
テスト期間と言えばこれをやらないと始まらないなあというのが高崎と飯野の密会ですね
そう言えば木曜日は高崎も授業に出れてなくて慧梨夏からいろいろ買ってたなあと思い出し久々にその話も。
そして出席追加ボーナスを獲得しに行くための戦いが始まるのであった……
.
++++
「カフェオレ氷、コーヒーゼリーソフトトッピングで」
「くっ……い、いちご練乳ミニで……」
夏の“髭”の期間限定メニューはかき氷だ。ミニで十分一人前くらいにはなるだろうそれを、ミニじゃない方のノーマルサイズで注文をする。毎年少しずつメニューのラインナップは変わるが、今年の一押しはカフェオレ氷だろう。
トッピングには自分の店のコーヒーを使ったゼリーと、ソフトクリーム。さすがに練乳をかけるのはやめておいた。これで値段は890円ほどになる。かき氷としては少々高めだが、ここ最近流行ってるタイプのかき氷と比較すれば妥当になるのだろう。
「飯野パイセンゴチっす」
「高崎の野郎~…!」
「奢りが嫌ならテストは諦めるんだな」
「喜んでご馳走させていただきます!」
どうしてこのかき氷を飯野に奢らせているのかと言えば、それがテスト対策の交換条件だからだ。
飯野は大学祭実行委員のお偉いさんで、まだまだ大学祭には早いであろう時期からバタバタと動き回っていた。いや、それとは関係なく遊び呆けて授業に出てなかったりもする。それで足りないノートだのプリントだのをくれと泣きついて来やがるのだ。
「でもよー、この氷が890円だろ? これで1教科分とかじゃなくて授業5回分っていうのはどーなんだよ」
「俺が別の奴に授業1回分のプリントをもらうのと同じレートにしてある」
「つかお前も出てない授業とかあるんだな」
「木曜2限な」
「あー、木曜なー。お前には鬼門だよなー」
「何故か木曜だけは気が緩むのか何なのか、なあ」
ちなみにその木曜2限の授業はほとんどが寝坊で出れていない。ただ、評価基準がテスト100%なのをいいことにプリントや何かは宮ちゃんに貰っていて、授業1回ごとに学食で160円のサンデーを奢っている。
俺が授業1回に対して160円を出しているのに、飯野が160円以下で授業1回分の救済を得られるのはどう考えてもおかしい。最低でも160円、それでなくても飯野が慌てているのは1教科どころの騒ぎじゃねえから、助けて欲しけりゃもっと積めという話だ。
「って言うかお前ゼミ出席ヤバくね?」
「ヤバいな。でもレポートがヤバいお前に言われたくねえな」
「うっ、うるせー! 出席がヤバい方がヤバいだろ!」
「七夕ボーナスで1回補填したけど、今後も多分ヤバいからな」
俺は基本的に授業をサボることは少ないし、それなりに真面目に授業を受けている方だ。成績もB以下はあんまないからまあ悪くない方だと言えるだろう。ただ、ゼミだけはどうしても出席が足りなくなって最終的に安部ちゃんに泣きつくことになるのだ。
それと言うのもゼミは木曜4限。木曜2限と同じく4限のゼミも寝坊で欠席または遅刻になること数知れず。45分以上の遅刻は0.5回分の欠席にカウントされる安部ゼミでは、そのちりつもが命取りになりかねない。
去年足りなくなった出席は黒糖かりんとうを渡すことで何とかしてもらった。ただ、今年も同じ手段が使えるとは思わないから、何らかの手段を考えておかなければならないだろう。レポートは人並み以上に書けている。問題は出席だけなんだ。
「こちらカフェオレ氷といちご練乳のミニです。ご注文は以上でお揃いでしょうか」
「はーい」
「じゃ、いただきます」
「いただきまーす」
「あ~、うめえ」
「そりゃお前は俺の金で食ってんだから美味さも極上だろうがよ」
「あ?」
「サーセンした」
氷を食べ進めながら、テストが終わった後のことを考える。テストが終わって夏休みに入れば、バイト三昧になるだろう。あと、ゼミ課題のレポート。このレポートで出席が危うい分を何とかカバー出来りゃいいんだろうけどな。
「ところで高崎様」
「あ?」
「テストとはまた別に、夏休みのレポートをちょっと手伝っていただけないかな~と」
「それで、それを手伝ったら俺に何が返って来るんだ」
「あ、え~っと……お前の出席を0.5~1回分くらいどうにかならないか安部ちゃんに交渉します」
「確定事項じゃねえのかよ」
「でもさ、お前に協力してもらわないとそれらしいレポートになんかなんねーしさ! そんなようなことを安部ちゃんに言ったら手伝ってもらえばって言ってたんだって!」
「いや、リターンがねえのに手伝う気はさらさらねえぞ」
「そこを何とか~」
やっぱり、ただの学業よりも安部ちゃんとの駆け引きじゃないけどそういうところの交渉術みたいな物が肝になって来るのだろう。賄賂はもう受け付けてもらえないとすれば、目に見える形で評価を上げるにはやはりゴミクズみたいな飯野のレポートをそれなりに読める物にすることだろうか。
「じゃあ、明日安部ちゃんに交渉しに行くぞ」
「マジか! えっ、俺のレポートを何とかしたら出席ボーナス!?」
「それっくらいのリターンがねえとお前の相手なんざやってらんねえからな」
end.
++++
テスト期間と言えばこれをやらないと始まらないなあというのが高崎と飯野の密会ですね
そう言えば木曜日は高崎も授業に出れてなくて慧梨夏からいろいろ買ってたなあと思い出し久々にその話も。
そして出席追加ボーナスを獲得しに行くための戦いが始まるのであった……
.