2016(05)

■夢を掴みに翼は開く

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「ただいま」
「大丈夫だったか」
「うん」

 いい具合に酔っていたメグちゃんを家まで送って、再び朝霞クンの部屋に。途中のコンビニで買ってきた缶ビールを開けて。朝霞クンもいい具合にほろ酔いだけど、いつもよりはしっかりしているという印象。今も、部屋の片付けをしているところだった。

「お前何抜け駆けしてんだよ。俺のは?」
「あるよ。はい」
「サンキュ。えっと、財布財布」
「ああ、いいよ。俺たちの友情に乾杯ってことで」

 なんだそれ、と朝霞クンは苦笑して缶を開けた。プシュッとガスの抜ける音。言葉のないまま淡々とビールを飲むだけの空間。部屋は静かだけど、心地いい。
 さっき、我ながらみっともないくらいに泣いてしまったけど、あれだけ何にも左右されない心の動きとか、解放……それとも開放? それをするのは覚えていないくらい前のことで。今は怖いくらい自然体でいられてる。

「ああ、そうだ山口」
「何?」
「答えが出た。こないだ、お前は俺の何だって聞いただろ」
「あー……あったネ。でも、友達でしょ? 俺は朝霞クンの友達」
「それはそうなんだけど、別解」

 つい感情的になって言ってしまった、「俺って朝霞クンの何?」という言葉。今になって思えば別れを切り出されそうな彼女とか、捨てられそうなセフレみたいなことを言っちゃったな~って感じ。
 だけど、朝霞クンは「友達」という模範解答以外に答えを導き出したらしい。とても気になる。朝霞クンが何を考えて、その答えを導き出したのか。そして、俺のことをどう思ってくれているのか。

「お前は俺の夢だ」
「えっと、朝霞クン酔ってる? 水でも入れる?」
「いや、冗談に聞こえるかもしれないけど真面目に言ってるぞ。俺の将来のビジョンは――」
「仕事が軌道に乗った頃、俺が独立して開いた居酒屋で昔話と将来の話を肴に飲みたい、だよね」
「ああ。だけど、それ以前にお前が川口班に流れ着いて来なかったら、俺はどうなってたかって話だ。お前が川口班に来て、越谷さんが俺をPとして育ててくれたから今の俺がある」
「うん、雄平さんには本当に感謝しかないね」
「越谷さんは地に足を付けさせてくれた。お前との出会いは、何て言うか……夢が迎えに来てくれた、そんな感じだな」

 朝霞クンはこうだと思ったら周りなんか全然見ないで突き進む人ではある。だけど、同じ班にいたアナウンサーが俺だったから今の朝霞クンがあるという風に言ってくれたのは嬉しいし、俺も朝霞クンだったから張り合いがあったなって思う。
 仕事としてイベントに携わっていたいとまで思えるようになったのも、部活での経験から。そう思えるほどステージにのめり込めたのは、班員に恵まれたからだと。熱量のこもった語り口は、お酒の回り具合とは関係なさそうだ。

「俺の描いたステージの風景、つまり夢。それを具現化するステージスターはお前だ。その積み重ねが、俺に将来の職業という夢や目標を運んできて、その先のビジョンをもたらした。そこにもお前がいる。つまり俺の夢とお前の存在は同義なんじゃないのかと、さっきから部屋を片付けながら考えてた」
「う~ん、星とかじゃないんだ」
「星はどんだけ頑張っても手が届かないけど、夢は頑張れば掴めるだろ。お前は将来のこともしっかり考えてるし、俺はまだまだ曖昧だ。今は同じ土台にも立ってないけど、お前を追いかけ続けて、いつか同じ土台で、胸を張って話せたらいいなって」
「あっ、ダメ。涙腺ゆるんじゃって。朝霞クン、さっきから俺のこと泣かせすぎデショ~?」

 航平が泣き虫だから俺はせめてそこだけでも兄らしくって我慢ばっかりしてたけど、俺も実は結構涙腺は弱い方。一次会で崩壊したそれが急に治るはずもなく。
 朝霞クンの言葉に感動しちゃってぐすぐす泣いていると、ティッシュの箱とゴミ袋が飛んでくる。あっ、雑。まあ、でもそう何度も胸は貸してもらえないよね。

「うう、ホントに、朝霞クン大好き~! うん、友達でいられて嬉しいよ」
「はいはい。たまにすげームカつくし怖いけど、お前と“純粋な友達”になれて嬉しいぞ。……いや、違うな」
「えっ?」

 一瞬朝霞クンは考え込んで、俺の目をじっと見つめる。そして、口が開けば。

「山口、親友の定義って何だと思う」


end.


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短編の「ライフ・イズ・ビューティフル」のちょっと後の話。ちょっと後って、10分かもしれないし、1時間かもしれないし、そんなレベルの。
今年度の山口洋平さんは朝霞Pにちょっと依存してるような感じでしたがここらで吹っ切れた様子。でも朝霞Pのことが大好きなのはデフォルトだから治らないよ!
そして朝霞Pである。この人がナチュラルたらしみたいなことを無意識でやってのけるのが割といろんなことの元凶な気がするよ!

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