2016(05)
■ぼろ雑巾とガラスの靴
++++
「所沢、話がある」
「何でしょうか」
部長直々に呼び出しを食らうなんて、あまりいい気がしませんね。今日も長門さんの補佐……という名の雑用係として幹部の仕事の手伝いをしていたのですが。もしかして仕事に粗でもありましたかね。
それとも、追いコンの参加費の件を文化会の監査に密告したのがバレたか、源と浦和に接触していたのがバレたか……幹部の班にふさわしくない行為とかで罰せられる可能性もありますよね。
「実質的に、会計の仕事はお前がやっているんだろう」
「え」
「長門の様子を見ていればわかる。文化会の監査に会計帳簿の記載をもう少し詳細にするよう注意を受けたのだが、あれ以来アイツは拗ねて会計帳簿を放り出しただろう」
「ああ、あれは拗ねていたんですね。確かに最近は俺が帳面を付けていましたが、何か誤りでもありましたか」
「いや、よくやっている。そこで、会計の名は長門にしたまま、お前が実質的な会計として今後部の財布を握り、文化会に何か突っつかれた際の応対なども頼みたい」
「はあ。構いませんが」
ゴーストライターならぬ、ゴースト会計ですか。まあ、中途半端にやるよりは全部やってしまった方が逆に楽ですしね。状況も把握できますから。俺の存在が認識されていたのが驚きですよ。部長は仕事をしないものだと思っていましたから。
柳井部長が言うには、長門さんに会計事情を聞いても返ってくるのはあやふやな返事ばかり。これでは何の計画も立てられないし、帳簿の記載が曖昧だと今後の部費査定にも響くから、とのこと。
「随分あっさりと返事をするのだな」
「与えられた仕事をやるだけです。それに、部長の期待に応えたいです」
「期待、か」
「はい。“よくやっている”など、言われたことがありませんから」
「……Dをあからさまに下に見る班長の下にいるのも大変だろう」
「慣れですね」
Dの役割は汚れ仕事。そう言われ続けて1年やってきました。台本を盗用してコピーアンドペーストしたり、他の班の妨害工作をしたり。やりたくてやっていた仕事ではありませんでしたし、それを見てもらうこともありませんでした。
この部活の見えざるヒエラルキー。それに基づく態度を受けているだけで、特に言うことは。確かに、前部長にやれと言われたからなあなあで始めたディレクターですが、性には合っているので問題はありません。
「所沢、俺の班に来い」
「それは、どういう」
「長門班から引き抜くという意味だ。安心しろ。班の移動などさほど珍しい話でもない。長門には俺が話を付ける」
「……来いと言われれば、部長の下で働きます。何なりと」
「ただし、俺の班は旧日高班とは違ってステージにも全力でかかる。ディレクターとしての腕も向上させろ」
「わかりました」
見る人が見れば、やはり日高班の本質などわかってしまうんですね。ステージに全力でかかっていなかったことも。
「柳井部長から見て、あの班はどう映っていましたか」
「糞だ。能力もやる気もない、何があってあんな糞が部長になったのか。能力がないのを棚に上げて、上手く行かなければ流刑地……朝霞の所為だと。確かに流刑地の連中は好き勝手に動いてやりたい放題で扱いにくいが、あれが言うほど悪でもない」
「そうですか」
「ただし、戸田は別だ。言っていることはともかく態度が気に食わない。まあ、言うだけの技術はあるし、ステージに関しては泳がせてもいいが」
どうやら柳井部長は戸田さんの言うこと――つまり、ディレクターの地位どうこうについては考える余地を持っているらしい。それは俺にも嬉しい話。ただ、戸田さんの態度はどうにもこうにも合わないようで。犬猿というヤツなのでしょう。
「話は以上だ。会計として、柳井班のDとして、よろしく頼む」
「わかりました」
end.
++++
まさかの引き抜き劇! レオが着々と何らかの階段を上っているようです。そして柳井は悪いヤツではなさそうな雰囲気。
日高と比べると、柳井の方が部長としての資質じゃないけど、何かそんなようなものがあるんやろなとは思います。ただ、柳井はやや口が過ぎる印象。つばちゃんのことは言えんぞお前さんも
柳井はレオの野望(?)に気付いているのかいないのか。ただ、このまま行くと次の年にはゴーストじゃない正式な会計になるのかな!? どうかな!
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「所沢、話がある」
「何でしょうか」
部長直々に呼び出しを食らうなんて、あまりいい気がしませんね。今日も長門さんの補佐……という名の雑用係として幹部の仕事の手伝いをしていたのですが。もしかして仕事に粗でもありましたかね。
それとも、追いコンの参加費の件を文化会の監査に密告したのがバレたか、源と浦和に接触していたのがバレたか……幹部の班にふさわしくない行為とかで罰せられる可能性もありますよね。
「実質的に、会計の仕事はお前がやっているんだろう」
「え」
「長門の様子を見ていればわかる。文化会の監査に会計帳簿の記載をもう少し詳細にするよう注意を受けたのだが、あれ以来アイツは拗ねて会計帳簿を放り出しただろう」
「ああ、あれは拗ねていたんですね。確かに最近は俺が帳面を付けていましたが、何か誤りでもありましたか」
「いや、よくやっている。そこで、会計の名は長門にしたまま、お前が実質的な会計として今後部の財布を握り、文化会に何か突っつかれた際の応対なども頼みたい」
「はあ。構いませんが」
ゴーストライターならぬ、ゴースト会計ですか。まあ、中途半端にやるよりは全部やってしまった方が逆に楽ですしね。状況も把握できますから。俺の存在が認識されていたのが驚きですよ。部長は仕事をしないものだと思っていましたから。
柳井部長が言うには、長門さんに会計事情を聞いても返ってくるのはあやふやな返事ばかり。これでは何の計画も立てられないし、帳簿の記載が曖昧だと今後の部費査定にも響くから、とのこと。
「随分あっさりと返事をするのだな」
「与えられた仕事をやるだけです。それに、部長の期待に応えたいです」
「期待、か」
「はい。“よくやっている”など、言われたことがありませんから」
「……Dをあからさまに下に見る班長の下にいるのも大変だろう」
「慣れですね」
Dの役割は汚れ仕事。そう言われ続けて1年やってきました。台本を盗用してコピーアンドペーストしたり、他の班の妨害工作をしたり。やりたくてやっていた仕事ではありませんでしたし、それを見てもらうこともありませんでした。
この部活の見えざるヒエラルキー。それに基づく態度を受けているだけで、特に言うことは。確かに、前部長にやれと言われたからなあなあで始めたディレクターですが、性には合っているので問題はありません。
「所沢、俺の班に来い」
「それは、どういう」
「長門班から引き抜くという意味だ。安心しろ。班の移動などさほど珍しい話でもない。長門には俺が話を付ける」
「……来いと言われれば、部長の下で働きます。何なりと」
「ただし、俺の班は旧日高班とは違ってステージにも全力でかかる。ディレクターとしての腕も向上させろ」
「わかりました」
見る人が見れば、やはり日高班の本質などわかってしまうんですね。ステージに全力でかかっていなかったことも。
「柳井部長から見て、あの班はどう映っていましたか」
「糞だ。能力もやる気もない、何があってあんな糞が部長になったのか。能力がないのを棚に上げて、上手く行かなければ流刑地……朝霞の所為だと。確かに流刑地の連中は好き勝手に動いてやりたい放題で扱いにくいが、あれが言うほど悪でもない」
「そうですか」
「ただし、戸田は別だ。言っていることはともかく態度が気に食わない。まあ、言うだけの技術はあるし、ステージに関しては泳がせてもいいが」
どうやら柳井部長は戸田さんの言うこと――つまり、ディレクターの地位どうこうについては考える余地を持っているらしい。それは俺にも嬉しい話。ただ、戸田さんの態度はどうにもこうにも合わないようで。犬猿というヤツなのでしょう。
「話は以上だ。会計として、柳井班のDとして、よろしく頼む」
「わかりました」
end.
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まさかの引き抜き劇! レオが着々と何らかの階段を上っているようです。そして柳井は悪いヤツではなさそうな雰囲気。
日高と比べると、柳井の方が部長としての資質じゃないけど、何かそんなようなものがあるんやろなとは思います。ただ、柳井はやや口が過ぎる印象。つばちゃんのことは言えんぞお前さんも
柳井はレオの野望(?)に気付いているのかいないのか。ただ、このまま行くと次の年にはゴーストじゃない正式な会計になるのかな!? どうかな!
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