2016(05)

■次元越しのハビタブルゾーン

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 街でばったり出会った彼女の手には、大柄な荷物。そして、俺の手にも同等の荷物があった。見る人間が見れば、ショップ袋など名刺代わり。互いに薄々察してはいたけど決して深く踏み込むことのなかった領域を、意図せず曝け出している。
 恐らくは同人誌やグッズを大量に買ったと思われる福島さんと、同人誌やゲームを買い漁った俺。互いに見て見ぬ振りをすればよかったのかもしれない。だけど、気付いた時には手遅れだったのだ。

「まさか同じカードに手が伸びるとは」
「互いに提げてる袋が決定的すぎたよね」
「別に隠してるワケでもないけどあまり大っぴらにはなってないみたいで」
「アタシも青女ではオタク扱いだけど、インターフェイスに出るとそうでもないから加減が難しくって」

 同人活動をしていることはあまり自分でも言わないけれど、マンガアニメゲームと言ったベタなサブカル成分を積極的に摂取しに行く性質のオタクであるということは特に隠してはいない。同人活動の件は身バレが面倒だから言わないけど。
 今時、ちょっと漫画を読み、アニメを見て、ゲームをやる程度ではごくごく一般的な行動だと俺は思う。調子のいいことばかりをマスコミが取り上げるということもある。自分からオタクであるとも言わないけれど、聞かれれば否定はしないという程度。

「福島さんて、どういうタイプのオタクなの? 白衣フェチの件は聞いてたけど」
「アタシ? 乙女ゲーメインで最近はソシャゲ系の腐だよ。あっでも舞台とかにもたまに」
「あ、腐なんだ」
「石川クンは?」
「俺は何でも幅広く。敢えてどれがメインかと言われればPCゲーだけど、ソシャゲも程々にやってる」

 互いのジャンルがかぶることはそうないとは思っていたけれど、やっているソシャゲのラインアップは少し重なっていた。せっかくなので、オタバレ記念にフレンド登録をすることに。
 ここで俺は福島さんがソシャゲガチ勢だということを目の当たりにする。鞄から出てきたのはごくごく普通のスマホケース……にしては少し厚みがある。ケースが開けば、2台のスマートフォンがそれぞれ別のゲーム画面を表示していた。

「2台持ちなんだ」
「うん。前に連絡先変わったって連絡したでしょ?」
「そうだね。格安に乗り換えたんだーって思ってたけど、まさかソシャゲのため?」
「だね」

 俺もスマホは2台(SIMの入っていない物を含めれば4台)持っているけど、片方はデータ格納や自作アプリの動作確認用に使っているから持ち歩いてはいない。だけど福島さんは両方をアクティブに活用している。

「どれだけ公式に貢いだか」
「あるある。何千円分の石をつぎ込めば推しが来るのか、とかね」
「何千円で済めば良心的だよ」
「一理ある」
「日々節約だよね。石川クン、バイトの他にどこからお金捻出してる?」

 絵を描いて作った本で出た儲けをつぎ込んでる、とはさすがに言えないので、外食や間食の頻度と質を少しずつ下げている、と学生らしい受け答えをする。あと、ファッションに疎くてもさほど問題のない環境なのがよかった。
 福島さんは女子大だけに日々の洋服などにも気を遣いたい環境だ。彼女は、服はなるべく安く買ってそれを長く着るために極力シンプルな物を選ぶし、バイト先の社割で安く買える小物で違いを演出するそうだ。
 そんな風にケチっていると言えば聞こえは悪いけど、決して節制しているようには見えないのが女子の恐ろしさだろう。それに、女子は化粧品にも金がかかる印象が強い。もしかしたらその辺りは美奈が異常なのかもしれないけれど。

「あの、石川クン。こんなところで話すのも難だし、カラオケか漫喫に行かない?」
「そうだね。長くなりそうだし」

 これ以上の話は壁のある場所、さらに言えば個室が好ましい。“好き”や“楽しい”を表に出すのもこんなに大変だったかな。一般的になりつつある文化とは言え、俺はまだまだアンダーグラウンドに棲み続けたい。


end.


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たまに欲しくなるイシカー兄さんと紗希ちゃんのお話。今回は互いの趣味の話について。
2人とも、知ってる人は知ってるけど知らない人は知らないし隠してもないけど大っぴらにしてないよっていうスタンスのオタク。加減が難しいらしい。
というか兄さんの資金の出どころw 兄さん黒字作れるレベルの人なんやなあと再認識。

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