2016(05)

■インフるインフレーション

++++

「わ、わーっ! ウソですよね!」
『すまんが、判定をもらった以上は水曜まで出て来れん。月曜と火曜を何とか堪えてくれ』
「わかりましたー……」

 来週月曜からは、情報センターは利用者ラッシュに見舞われる。健康診断と履修登録があるからだ。普段の情報センターは文系の利用者が主だけど、履修登録は文理問わず全学部の学生が押し寄せる。
 そんな嵐のようなときに林原さん離脱という絶望的な状況。インフルエンザはまだまだすぐそばにある脅威であると再認識。繁忙期に林原さん抜きというのがどれくらいアレかと言えば、肉のないハンバーグプレート、魚のない焼き魚定食って感じ。

「どうしましょう烏丸さんカナコさん! 林原さんインフルで水曜まで出て来れないみたいですよ!」
「えー!? って言うか月曜は俺、火曜はカナコちゃんが健康診断だし、ミドリ大変じゃない!?」
「B番に2人欲しいんですけどねー、この期間は」
「私がA番しか出来ないばっかりに…!」
「いえ、A番に専念してもらえるだけありがたいですよー」

 繁忙期はB番に2人は欲しい。なのに健康診断の日程の都合上、センターにスタッフが2人しかいないという非常事態。春山さんって本当にいなくなるんだなって思ったし、そもそもの問題が林原さんですよ! このタイミングでインフらなくても!

「うーん……わかった。ミドリ、俺に任せて」
「えっ、烏丸さん何か策があるんですか」
「ちょっと待っててくれる?」

 そう言って烏丸さんは出かけてきまーすと外へ出てしまった。烏丸さんが何を考えているのかさっぱりわからないまま、今はまだ落ち着いたセンターの番をしつつ30分。嵐の前の静けさとはこのことか。

「ただいまー」
「おかえりなさ――」
「やァー、ご無沙汰ス」
「冴さん! 今までどこ行ってたんですかー!」
「サーセン、ちょッと死ンでやした」
「冴ちゃん外に出るの久々だけど、2日だけ頑張ってもらう約束をしたよ。ねえ冴ちゃん」
「緊急事態らしースからネ」

 常々林原さんは冴さんに期待をしていないような感じで溜め息を吐いていたけれど、この窮地を救ってくれるのはもしかしたら冴さんなのかもしれない。いや、そもそも冴さんが普通にシフトに入っていればって思うのは野暮かもしれないけど。
 烏丸さんの部屋に入り浸っているというのは聞いていた。それに、こないだ林原さんと一緒に烏丸さんの部屋をぶち破ったときの様子からして、尋常じゃないなとも思った。だけど、こうしている分にはごく普通。救いのない、仄暗い冴さんではない。

「ちょッと来ない間に、カナコは正式にスタッフになったンすね」
「おかげさまで、A番専任だけど」
「やァー、めでたいスわ」

 カナコさんと話している冴さんの後ろから、烏丸さんが腕を回して抱いている。その手は、冴さんの着ている服の隙間から直に胸を鷲掴んでいる。そうだった、この2人ってこんな感じだった。

「冴ちゃん、大丈夫そう?」
「ダイチの頼みスからァー…?」
「うん、そうだね。ありがとう。うちに帰ったらたっぷりお礼するからね」
「わー、マジすかー」
「うん、たっぷり」

 ブランクはあるけど、烏丸さんがいれば冴さんは大丈夫そうかなあ。とりあえず2日間頑張れば林原さんが戻ってくるし、それまで何とか耐えなきゃ。……簡単に食べられて、腹持ちのいい物ってなんだろうなー。時給、何百円まで下がるかなー。


end.


++++

今年のリン様、バレンタインやら美奈の誕生日を健康体のまま過ごしたかと思いきや、まさかのここでインフル発症! 春山さんおらんのやで、バイトリーダー様よ
そしてとうとうミドリの時給が3桁に落ち込むようになるらしい。これで名実ともに情報センターのナンバーツーだ!w
リン様のいない情報センター……カナコとダイチには経験値荒稼ぎのチャンスと捉えるしかないだろうなあ……

.
14/23ページ