2016(05)
■化けの皮を脱いだ日に
++++
「さとちゃん、鍵持ってる?」
「ありますよー」
「ちょっと借りるねー」
さとちゃんは台所で水仕事、俺は部屋で洗濯物を畳むゆったりとした時間。まだもう少しさとちゃんは時間がかかりそう。その間に、さとちゃんに渡しているこの部屋の合鍵をちょっと拝借。
あんまり相手をびっくりさせすぎない、ささやかなサプライズは好きだ。特にさとちゃん相手だから、変に怖がらせたりするようなことはしない。高崎相手だったら軽くジャブを入れる程度に驚かしたりしたけど。
「ふー。終わりましたー」
「ありがとう」
「あの、宏樹さん。さっきの、鍵って」
「見て」
「わあ、かわいいです」
「かわいいでしょ」
さとちゃんに渡した合鍵にこっそり施した細工。それは、アクリルキーホルダー。ハロウィンの時に作って好評だったお化けちゃんローブの元絵をモッチーにデータ化してもらって、それを業者に入稿して作った。
「5つしか作ってないから、本当に世界に5つしかないキーホルダーなんだ」
「えっ、宏樹さんが作ったんですか?」
「後輩の手も借りてるけどね。最近、そういうオリジナルグッズ作る敷居が下がってるし」
「嬉しいです…! 大切にしますね」
ああ、喜んでくれたみたいでよかった。
さとちゃんはホラーやオカルトが苦手な子。元々得意じゃなかったところにトラウマになる一連の出来事があって、グロだとかスプラッタだとか、そういうのもダメになったそうだ。
俺からすればそれらをセット扱いにするのは違うけど、大きな分類としては同じところに入るのかなあと理解は出来る。納得はしていない。多分「怖いもの」っていう括りなんだろうなって。
だから、グロはともかく血の流れないコミカルなかわいいお化けちゃんから入っていって、少しずつ耐性が付けばなって。無理は言わないけど、俺の趣味が趣味だし専攻が専攻だから、血とか生け贄を避けられないし。
「お化けちゃん、かわいいですよね」
「後輩の子がキレイにしてくれたんだよ。この線もね、鉛筆で描いた風合いを残してくれてて」
「いえ、造形もかわいいんですけどそういうことじゃなくて」
「じゃあ何」
「ハロウィンの時に、宏樹さんがお化けちゃんをかぶってたのを思い出して。中身が宏樹さんだからよりかわいく、愛らしく見えるのかなって」
「何それ。俺って可愛い系なの」
「そうやって、拗ねるところがかわいいです。でも、お化けちゃんキーホルダーがついてたら、宏樹さんがいなくても一緒にいる気持ちになれて嬉しいです」
「じゃあ、本体はいらないってこと?」
「……本体があって、ですよ。宏樹さんが、欲しいです」
あー、さとちゃんかわいい。恥じらいながら言うのがかわいい。拗ねてみるもんだね。でもさ、そんなこと言われたら意地悪したくなって来ちゃったよね。揚げ足取りじゃないけど、言葉の節々をつついて何でも言わせたい。
恥ずかしそうに少し俯き加減なのとか、ちょっと頬が赤らんでるのとか、もじもじしてて座ってる脚が左右にちょっと動いてるのとか。たまんないね。触りたい。抱きしめたいとかじゃ全然足りない。
「さとちゃん、言葉を選んでくれないかな。体に悪いでしょ」
「えっ、まさかお腹が」
意味をわかってるのかわかってないのか。俺が何ともないか心配し始めたさとちゃんの前に正座をして向かい合う。だってしょうがないじゃん、俺だって男だし。
「俺が欲しいとか言われると、俺もさとちゃんが欲しくなる。俺とさとちゃんの間で意味が違ってたとしても、俺は性的にとっちゃう。……さとちゃんが嫌なら何もしない。オッケーでも今日は触るだけでやめる。トラウマあるし本当はもっとずっと待ってるつもりだったけど、先に言っとく。さとちゃんと、シたいです。……ダメ?」
「宏樹さんて、自分のかわいさを知ってますよね」
「えー、何のこと」
「宏樹さんの「ダメ?」をあたしが拒否できないのを知っててやってるところが、ずるいです。使いどころをわかってるところがかわいくないです」
「それで、したいの、嫌なの」
「……優しく、してくださいね…?」
あー、ホント今のダメ。アウト。俺のことをずるいとか言うけど自分だって大概だよ。ズルすぎ。本当は最後までしたいけど、今日は触るだけの約束だし。うう、ツラい。
「じゃ、電気消すね」
end.
++++
お化けちゃんキーホルダーの話が主題だったはずなのに、気付いたらいちゃこらしてた。現状ナノスパで一番甘ったるい。長さと。公式の夫婦は熟練過ぎて甘さが足りない。
と言うかやっぱミソノが1枚噛んでたか。長野っちからすればミソノはこの分野で頼れる後輩なんやろなあ。
しかし、ジャブを入れる程度に脅かされる高崎である。前対策委員ではいじられポジションになるのか…? それでも後輩たちからすれば怖い先輩なんだから怖いね
.
++++
「さとちゃん、鍵持ってる?」
「ありますよー」
「ちょっと借りるねー」
さとちゃんは台所で水仕事、俺は部屋で洗濯物を畳むゆったりとした時間。まだもう少しさとちゃんは時間がかかりそう。その間に、さとちゃんに渡しているこの部屋の合鍵をちょっと拝借。
あんまり相手をびっくりさせすぎない、ささやかなサプライズは好きだ。特にさとちゃん相手だから、変に怖がらせたりするようなことはしない。高崎相手だったら軽くジャブを入れる程度に驚かしたりしたけど。
「ふー。終わりましたー」
「ありがとう」
「あの、宏樹さん。さっきの、鍵って」
「見て」
「わあ、かわいいです」
「かわいいでしょ」
さとちゃんに渡した合鍵にこっそり施した細工。それは、アクリルキーホルダー。ハロウィンの時に作って好評だったお化けちゃんローブの元絵をモッチーにデータ化してもらって、それを業者に入稿して作った。
「5つしか作ってないから、本当に世界に5つしかないキーホルダーなんだ」
「えっ、宏樹さんが作ったんですか?」
「後輩の手も借りてるけどね。最近、そういうオリジナルグッズ作る敷居が下がってるし」
「嬉しいです…! 大切にしますね」
ああ、喜んでくれたみたいでよかった。
さとちゃんはホラーやオカルトが苦手な子。元々得意じゃなかったところにトラウマになる一連の出来事があって、グロだとかスプラッタだとか、そういうのもダメになったそうだ。
俺からすればそれらをセット扱いにするのは違うけど、大きな分類としては同じところに入るのかなあと理解は出来る。納得はしていない。多分「怖いもの」っていう括りなんだろうなって。
だから、グロはともかく血の流れないコミカルなかわいいお化けちゃんから入っていって、少しずつ耐性が付けばなって。無理は言わないけど、俺の趣味が趣味だし専攻が専攻だから、血とか生け贄を避けられないし。
「お化けちゃん、かわいいですよね」
「後輩の子がキレイにしてくれたんだよ。この線もね、鉛筆で描いた風合いを残してくれてて」
「いえ、造形もかわいいんですけどそういうことじゃなくて」
「じゃあ何」
「ハロウィンの時に、宏樹さんがお化けちゃんをかぶってたのを思い出して。中身が宏樹さんだからよりかわいく、愛らしく見えるのかなって」
「何それ。俺って可愛い系なの」
「そうやって、拗ねるところがかわいいです。でも、お化けちゃんキーホルダーがついてたら、宏樹さんがいなくても一緒にいる気持ちになれて嬉しいです」
「じゃあ、本体はいらないってこと?」
「……本体があって、ですよ。宏樹さんが、欲しいです」
あー、さとちゃんかわいい。恥じらいながら言うのがかわいい。拗ねてみるもんだね。でもさ、そんなこと言われたら意地悪したくなって来ちゃったよね。揚げ足取りじゃないけど、言葉の節々をつついて何でも言わせたい。
恥ずかしそうに少し俯き加減なのとか、ちょっと頬が赤らんでるのとか、もじもじしてて座ってる脚が左右にちょっと動いてるのとか。たまんないね。触りたい。抱きしめたいとかじゃ全然足りない。
「さとちゃん、言葉を選んでくれないかな。体に悪いでしょ」
「えっ、まさかお腹が」
意味をわかってるのかわかってないのか。俺が何ともないか心配し始めたさとちゃんの前に正座をして向かい合う。だってしょうがないじゃん、俺だって男だし。
「俺が欲しいとか言われると、俺もさとちゃんが欲しくなる。俺とさとちゃんの間で意味が違ってたとしても、俺は性的にとっちゃう。……さとちゃんが嫌なら何もしない。オッケーでも今日は触るだけでやめる。トラウマあるし本当はもっとずっと待ってるつもりだったけど、先に言っとく。さとちゃんと、シたいです。……ダメ?」
「宏樹さんて、自分のかわいさを知ってますよね」
「えー、何のこと」
「宏樹さんの「ダメ?」をあたしが拒否できないのを知っててやってるところが、ずるいです。使いどころをわかってるところがかわいくないです」
「それで、したいの、嫌なの」
「……優しく、してくださいね…?」
あー、ホント今のダメ。アウト。俺のことをずるいとか言うけど自分だって大概だよ。ズルすぎ。本当は最後までしたいけど、今日は触るだけの約束だし。うう、ツラい。
「じゃ、電気消すね」
end.
++++
お化けちゃんキーホルダーの話が主題だったはずなのに、気付いたらいちゃこらしてた。現状ナノスパで一番甘ったるい。長さと。公式の夫婦は熟練過ぎて甘さが足りない。
と言うかやっぱミソノが1枚噛んでたか。長野っちからすればミソノはこの分野で頼れる後輩なんやろなあ。
しかし、ジャブを入れる程度に脅かされる高崎である。前対策委員ではいじられポジションになるのか…? それでも後輩たちからすれば怖い先輩なんだから怖いね
.