2017

■ひとりでミッション!

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「裕貴ー……」
「ああ、雄平。来たか――って、どうした?」
「バイト先の後輩の」
「諏訪かんなです!」
「あやめです」
「あ、ああ。雄平の同期で友人の萩裕貴です」

 雄平と出かける予定だったのが、小さな女子が2人増えていた。雄平が言うにはバイト先で押し切られて断りきれなかった、と。実に雄平らしい。俺はこの手のハプニングに慣れているし、特に問題はないが。
 見た目的に、2人は一卵性双生児なのだろう。髪留めの色で区別が出来るくらいだ。赤い方が姉のかんなさん。紫の方が妹のあやめさん。バイト先の同僚である雄平ともなれば、性格や語調の差で区別が出来るらしい。

「かんなさんとあやめさんは今日はどうして」
「私たちに内緒で越谷さんが楽しいことをすると聞いてきました!」
「ました」
「抜け駆けは許されないのです!」
「です」
「バイト先でこの2人の教育係になったんだけど、やたら懐かれてて」
「雄平の男気や包容力のような物がそうさせるのだろう。さほど不思議ではないと思うが」

 今日の本題はファンタジックフェスタだ。水鈴のMCに、星ヶ丘放送部のステージを見ること。それと、インターフェイスの方で出ているという朝霞班の面々を影から見守ることが出来ればとも。

「裕貴、お前の本題はステージの視察だろ。俺のことはいいから見て来い」
「それだけではないし、せっかくお前と外に出てるんだ。楽しんだっていいだろう」
「部活の連中に俺と一緒にいるところを見られたらマズいだろ」
「何の問題がある。俺もお前も部活は引退した。どこで何をしようと文句を言われる筋合いはない」

 雄平は未だに自分が幹部に反抗して流刑地に流された立場であることを気にしているようだった。俺とのあり方や、後輩たちに対する負の影響など。俺も洋平たちもそんなことは微塵とも気にしてないというのに、気負い続けている。

「かんな、あやめ。お前たちはどうするんだ」
「ついてくです」
「です」
「雄平。お前こそ水鈴のMCはそろそろだぞ。見てやらなくていいのか」
「見たいけど、バレると面倒だからな。アイツ、俺がどこにいても見つけやがるし」
「愛の力か」
「やめろ、冗談じゃない」

 すると、こちらは赤い方だからかんなさんが俺の腕をそそくさと引っ張り、こそこそと何かを話したそうにしている。ただ、耳打ちをするには身長差がありすぎる。少し屈んで耳を近付ける。

「雄平、俺はステージを見つつかんなさんに星ヶ丘の部活を紹介してくるから、お前はあやめさんと水鈴のMCを見ていてくれ。後で合流しよう」
「あ、ああ。わかった。じゃあ、行くかあやめ」

 星ヶ丘放送部のステージをやる北ステージに向けてかんなさんと歩き出す。彼女が気になったのは、雄平と“愛の力”の関係について。それを聞くために俺は連れ出されたのだ。

「ミスズさんて越谷さんの彼女、ですか?」
「いや、水鈴は雄平にアプローチしてるけど、雄平にその気はないはずです。進展があるのかないのか。それが何か」
「多分ですけど、あやめは越谷さんのことがちょっと気になってるんです。ミスズさんて人が彼女じゃないならいいんです」
「雄平は男の中の男だから、モテるのも後輩から慕われるのもわかる。人当たりがいいし、熱いし、正義感もある。それでいて冷静で頭もいい。時に、雄平を羨ましく思う。俺は雄平に男として敵わない部分も多くあると思う。尊敬はしているが、届くことはないのだろうとも」
「萩さんには萩さんのいいところがあります。初対面ですけど、多分わかります。友達を大事にするところとか、突然ついてきた私たちを受け入れてくれる器の大きさに優しさ。内緒話するのに屈んでくれたのも、嬉しかったです」

 立場上畏怖の念を抱かれたり、距離を置かれやすいからか何も臆せず付き合ってくれる人もそういないのだが、知らないからこそなのだろう。かんなさんは俺という人間をこの短い時間で見てくれたのだと嬉しく思う。

「見た目がカタいと言われるし、部活などで上に立つ機会が多くなると、しっかりしないとという意識が強くなり過ぎて。雄平は自然体でいることを許してくれる数少ない友人で」
「じゃあ、越谷さんのことも抜きにして自然体の萩さんを見せてください。興味が湧きました」
「今日は部のステージも見に来ているので、後日また機会を作れませんか」
「それじゃあ、連絡先を交換しましょう」
「はい。お願いします」


end.


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ん? 何やらフラグ的な物が立ち始めているようだけど気の所為かな? FF当日、ひそかにこんなことが。
……確かに水鈴さんならこっしーさんがどこにいても見つけるに違いない。ステージ上からは尚更よく見えるだろうしなあ
萩さんがお忍びで見た星ヶ丘放送部のステージがどんな感じだったのかが気になるところ。

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