2016(05)

■write your farewell messages

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「方角はこっちの方だね。お前たち、起立・脱帽の上、僕が向いているのと同じ方角に向かって」
「へーい」
「圭斗先輩例のヤツですね!」
「よし、やるよ。神様、仏様」

 菜月さまー。

 ……と北西くらいの方角を向いて、MMPサークル室から感謝の念を込めた礼を。今日は菜月先輩を除いた3年生以下のメンバーがここに揃っている。これから始まるのは、卒業式に向けた4年生への色紙作りだ。
 このMMPというサークルが泣く子も黙る筆不精やらラブ&ピースに満ち溢れたサークルで、色紙への寄せ書きなんかは最も不得意とする分野。
 圭斗先輩の手元には、CDジャケットより一回りくらい大きい折り畳み式の色紙と、一見すると付箋のようなカードがある。色紙の内側にはイラストが描かれ、カードの貼り付け位置が指示されている。

「今回は我らが菜月様の妙案により、このメッセージカードに各自先輩方へのメッセージを書いてもらうことになりました」
「つまり、無理に色紙の余白を埋める必要はないと?」
「そういうことだね。そして、菜月さんの完璧なレイアウトによって、各人から集めたカードを貼り付ければ素晴らしいデザインの色紙が完成するという仕組みだよ」

 菜月先輩は現在緑風のご実家にいらっしゃって、卒業式の時にカードを持ってくるそうだ。色紙に描かれたイラストなんかは印刷されたものだと思っていたけど、圭斗先輩曰くすべて菜月先輩が手書きされた物だとか。さすが菜月先輩だ!
 圭斗先輩のお宅に郵送で送られてきたそれを見たとき、圭斗先輩は菜月先輩のアイディアやデザインに大層感激されたそうだ。これなら4年生方に出しても恥ずかしくない物になるだろうと。ただ、外見はいいにしても、問題はメッセージの中身だ。

「やァー、さすが菜月先輩スわ。自分らのコトをよーく理解してもらッてヤす」
「間違いありませんね」
「ホンマやわ」
「お前ら誰だと思ってるんだ、菜月先輩だぞ!」
「そこでどうして野坂さんが怒りだすんですかねえ」
「はー、これやからノサカは」
「野坂、来年も色紙はこの手法で行くだろうけど、菜月先輩と圭斗先輩へのメッセージがカードで足リないと思ったら個人的に便箋と封筒を買って来テくーだサイ」
「りっちゃん、僕もいるんだけどな」
「や、三井先輩、野坂の愛情だとか尊敬の念は回避出来てるのがラッキーすよ」
「……それもそうか。僕もいい先輩だったつもりだけど、野坂にはハマらなくてよかったかも」
「ははァー、それは思い上がりスわァー!」

 確かに、律の言うように菜月先輩と圭斗先輩へのメッセージが手のひらサイズにも満たないカードだけで足りるとは到底思えない。やはりその時になったら便箋と封筒を準備した方がいいか…? その前にペン字でも習おうか。
 それぞれが、小さなカードを前に村井サンと麻里さんへのメッセージを考える。語彙力などどこかに置いてきた。たまにあってもラブ&ピースかムライズム。いや、まともなことを書こうとするからいけないんじゃないか。
 この色紙は、人間の視線の動きやMMPメンバーの書きそうなことまで計算した上での配置がされているとは圭斗先輩談。誰のものをどこに置けと指定されているのだ。多分、俺たちの語彙力を菜月先輩は完璧にわかっていて、去年と今年で書ける内容に大差はないと思われたのだろう。
 実際、みんな提出が早かった村井サンの物を並べてみると、出だしのインパクトから最後のオチまでが見事に形成されているし、中頃では“読ませる”構成が出来上がっている。不思議と、各々好き勝手に取ったはずのカードの色が菜月先輩の描かれたイラストにも調和している。

「本当に、菜月さん様々だよ」
「今までは余白を菜月先輩の長文メッセージで埋めていましたからね……」
「お前たち、新歓のポスターやビラはどうするんだ?」
「……えー、あー、あー……」


end.


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りっちゃんのラブ&ピースが炸裂している件。MMPの2年生が4人揃ってしまうとぎゃあぎゃあとうるさくなって台詞ばかりになるのがナノスパあるある。
MMPは色紙などを本当に苦手にしているので、この時期は苦行にも等しいヤツ。新入生勧誘のためのポスターやビラなんかもいつも菜月さんに投げてたしなあ……
ノサカからの尊敬の念だとかは確かに回避できている方がラッキーなのかもしれない

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