2017

■Bird, Yakking Bird

++++

「今日のピー子ちゃん動画ですッ!」

 今日も奈々は元気だ。と言うか、先週からずっとこんな感じだ。圭斗先輩は表情こそいつも通りの笑みだけど、対応がどこか棒読み。菜月先輩は……あっ、これは聞いてるようで聞いてないな。

「野坂せんぱーい、ピー子ちゃんは今日もかわいいんですよぉー」
「前の動画と何が違うのかわからない」

 奈々は家で文鳥を飼っている。最近は犬や猫だけじゃなくていろんな動物をペットとして飼う人も増えているとは言うけど、こんなに身近にいるとは。俺は犬が大好きで、他の動物もまあ好きだ。
 自分の家の動物がかわいいのはわかる。ただ、如何せん文鳥だ。最初の頃は珍しいからみんなピー子ちゃん動画を見てたんだけど、エスカレートしてくると……うん、まあ、この通りですよ。

「ピー子ちゃんの良さがわからないなんてぶち殺しますよ」
「意味がわからない」
「こんなにまるまるとして。ああ、何故だろう、焼き鳥が食べたい気分ですね」
「こーた先輩なんて恐ろしいことを言うんですかーッ!」
「今頃羽剥かれとるかもしれん」
「ヒロ先輩までッ! 2年生の先輩は鬼畜集団ですッ!」
「やァー、人畜無害なこのリツさんまで鬼畜集団に含めてもらっちゃーァ困りやスわァー」

 ふう、と菜月先輩と圭斗先輩の溜め息が浮かぶ。圭斗先輩はともかく、菜月先輩は動物が苦手だという話を聞いている。いくら鳥とは言え、こういう話題が続くと少し辛いものがあるのかもしれない。
 菜月先輩がどのくらい動物嫌いかと言うと、発声練習の時に近所の犬の散歩のタイミングとぶち当たると、俺の後ろに隠れて犬が通りすぎるまで微動だにしなくなるくらいだ。幸せだけど俺は犬とも触れ合いたい、けど幸せだ。

「奈々は鳥の良さを布教しようとしているのはわかるんだけどね」
「愛鳥週間だけにか」
「ん、奈々のそれは多分愛鳥週間に関係ないね。文鳥は犬や猫より認知度と言うか、まだもう少しマイナー感が拭えないだろう?」
「まあ、そうだな」
「世間の抱く文鳥へのギャップを埋めようとして熱くなってるのかもね」

 奈々は相変わらず鬼畜集団と戦っている。こーたがわかりやすく悪党と化しているのがまたこの一連のやり取りを茶番にしている風に見える。あと、さっき突っ込めなかったけど律のどこが人畜無害だ。お前が一番鬼畜だろ。

「僕は興味を持ったら自分で調べて相手に話題を振りたいタイプでね」
「それがどうした」
「奈々の熱さには少々ついていけないだけだよ」

 嫌いじゃないんだけどね、と圭斗先輩はそっと奈々に目をやる。話によれば圭斗先輩の実家には犬が3匹と猫が……何匹だっけ、確か7とか8とか、とにかくたくさんいるという話をちらりと聞いた気がする。

「菜月は、犬だけじゃなくて他の動物もダメなのかい?」
「虫は全然大丈夫なんだけど、動物は怖いな」
「虫の方が怖いと思いますけど」
「あっ、そこにカメムシ」
「ちょっ」
「なんちゃって」

 どこからか、ピーピーと鳥の鳴く声がする。存外に近いから、きっと奈々のケータイだろう。もうしばらくこんな日々が続くのか。文鳥動画の違いをわかるようにはなかなかならないと思うから、奈々にはせめてもう少し大味な動画を用意してくれとしか言えない。

「おはよー」
「ああ、三井じゃないか。何だその袋は」
「ああ、これ? いやー何かね、唐揚げが美味しそうだったからつい買って来ちゃったよ」
「……今日が三井の命日だな」
「三井先輩この流れで唐揚げとかぶち殺しますよ」


end.


++++

去年書いたものの、時期を逃して1年寝かせました。奈々のピー子ちゃん動画について。きっと星ヶ丘でも似たようなことが行われている
うーん、やっぱりノサカ的には発声練習とクララのお散歩が重なると幸せだけど生殺し、だけど幸せなんだな!
人畜無害なりっちゃんについては一度改めてやりたいなと思いつつ。2年生がぎゃあぎゃあ言ってるだけのお話をやりたいんだ!

.
48/100ページ