2016(04)

■先を見通す部屋の中

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「カーズー、買ってきたよー」
「待て、部屋に入る前に」
「はーい」

 玄関先で服や頭をパタパタと払えば、花粉も少しは落とせていると思う。しっぽも忘れずに振っておかないと。ポニーテールをブンブン振り回してるとディクシーみたい。久々にスーファミやりたい。
 少しずつ春の陽気が強まって、うちは外に出歩きたい気分。だけど、うちのお出かけムードと反比例するように、重度の花粉症を患うカズが引きこもりモードに入っていく。花粉をとことん遠ざけたいんだって。
 部屋には当然のように空気清浄機があるし、部屋に入る前に花粉を払い落とすのは基本。服の素材も、一番外はナイロンみたいな物でなくちゃいけない。花粉をくっつけにくくするために。
 玄関先で払った物を舞い上げないようにすぐ床をクイックルワイパーで掃除するのも必須。玄関先は台所と繋がっているから、ここで少しでも花粉を舞い上げようものなら食事どころじゃなくなっちゃう。

「一応2本ほど買って来てみたけど。あとクイックルと保湿ティッシュと」
「ああ、サンキュ」
「本当に輪切りを3枚食べるだけで症状が良くなるの?」
「今度のはマジだ。試す価値はある」
「今までどんな民間療法やっても良くならなかったんだから病院に行けばいいのに」

 カズから頼まれていたおつかいというのが、レンコン。何か、こないだテレビでレンコンの輪切りを1日3枚食べたら花粉症の症状が楽になるとか何とかってやってたんだって。本当かなあ。
 ヨーグルトを食べるとか、お茶を飲むとか、花粉症に効くって言われる民間療法はいろいろ試してる割にメガネやマスクをしないのがカズの本末転倒なところって言うかさ。病院にも行かないし。

「うちもレンコンは好きだけどさー、輪切りだけじゃなくていろんな食べ方したいなー」
「心配すんな。その辺はちゃんとレシピ研究してる。俺は別に輪切りも食うっていうだけの話で。ポタージュにするのがいいって言ってたし、ミキサー出しとかないとな」
「最近乳酸菌も流行ってるっていうよねー。カズのヨーグルトとは別件だろうけどさー」
「ああ、何かチョコとかにも入ってんな。腸内環境を整えたらいろいろいいみたいじゃんな、詳しくは知らねーけど」

 最近、カズはヨーグルトを増やすことにハマってて、ホームベーカリーでヨーグルトを作って喜んでいる。プレーンで作った物の中に果物を入れたり、いろいろな食べ方をしててね。
 花粉症の民間療法の中にヨーグルトを食べるといいっていうのがあって、ホームベーカリー使ったら買いに行かなくていいんじゃね、みたいな感じで使い始めたんだよね。でも牛乳とか買わなくちゃいけないっていうね。買いに行くのは誰? うちでしょ。
 さすがにレンコンとヨーグルトを組み合わせるレシピはまだ開発していないみたい。一緒に食べるよりは別々に食べたいなあ。レンコンはレンコン、ヨーグルトはヨーグルト。でも、開発しかねないのがカズだからなあ。

「乳酸菌はともかく、レンコンな。って言うかさ、野菜の栄養って皮のすぐ下とかにあることが多いんだよ。レンコンも例外じゃない」
「えっ、もしかして皮ごと食べる的なこと?」
「だからポタージュにするといいんだってさ」
「なるほどね。潰しちゃえば同じみたいなことか」

 民間療法もいいけどさ、それをやった上で病院に行くのがいいと思うんだけどね。病院に行くのが面倒なら大学の保健センターでも花粉症は診てもらえるんだけどな、知らないのかな。

「何よりレンコンは食物繊維もあるからうまく使えばダイエットにも」
「もっと買ってくれば良かったかな!」
「あ、いや、その辺は良識の範囲でだな」


end.


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いち氏、例によって民間療法頼みの現状。はよ病院行け
春になると外に出ることの多くなる慧梨夏です。いち氏が引きこもるので買い物から何から一挙に引き受けることになるよ!
何気に慧梨夏は大学の保健センターのお世話にもなっているようです。怪我とか病気も軽く診てもらえるらしい。すごいね!

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