2016(04)

■壮絶なるにゃんにゃにゃん

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「朝霞クーン、そんなところに頭突っ込んでたら取れなくなっちゃうよ~」
「もうちょっと! ここから声がしたんだって」
「ねえ朝霞クーン、かくれんぼしてるんじゃないんだから~」
「おーい、にゃーん! にゃー、にゃーん」

 星ヶ丘大学の周りには坂が多い。その坂の中にぽつぽつとコインパーキングめいた駐車場があって、草っぱらとか竹林だとか、ちょっとした溝がある。朝霞クンがさっきから何をしているのかと言えば、猫探し。
 小さくて、すごくかわいいのがいた! そう言って、子猫を探し回ること早30分。俺たちを警戒して今日はもう出てこないんじゃないかなあと思うけど、にゃーにゃー言いながら子猫を呼ぶ朝霞クンがかわいいので言わない。
 今も、そこらの草むらにある土管に頭を突っ込んで、腰を突き上げてにゃーにゃー言ってる。お尻のラインが浮いて、あるはずのないしっぽまで見えてきたのでにゃんにゃんにゃんの日には早いよなあと思いつつ、朝霞クンが見えていない方を探索。

「ねえ朝霞ク~ン、そんなにその猫かわいいの~?」
「バカ山口、あれは本当にかわいかったんだ! もう1回見たい。あわよくば撫でたい。何としても探すぞ」
「野生の子を撫でるのってあんまりよくないんじゃないかな~」
「にゃーん、おーい、にゃーん」

 朝霞クンがそこまで特別猫好きだった覚えもないけど、その猫がきっと特別かわいかったんだろうなあ。あと、言っても聞かないし。俺はきっと朝霞クンの猫探しに時間が来るまで付き合うしかないんだろうなあ。

「あっ」
「ど~したの朝霞クン」
「肩ハマった。動けない」
「だから言ったでしょ~!?」

 土管に頭を突っ込んで動けなくなった朝霞クンの救出作戦に急遽変更。朝霞クンの服って基本もこもこしてかさばるから、体格以上に幅を、って言うか服の厚さを見なきゃいけないんだよね~。
 朝霞クンの真後ろに回って、突き出された腰を掴んでみる。うわ、ほっそい。なのに抜けなくなるって猫見たさにムチャするから~。土管の中から早く助けてくれと声がする。もうしばらく身動きのとれない朝霞クンを楽しみたかった気もするけど。

「じゃ、一気に行くよ~」
「やだ、ムリ、ゆっくり、優しくだぞ!」
「そーれっ」
「いたたたたっ! バカやめろ山口ムチャすんな!」
「こんなときは思いっきりいかないとデショ? あと、ムチャしてるのって俺じゃなくて朝霞クンだからネ。それとも、119番する? チェーンソーとかドリルで土管割ってもらう? 夕方のニュースで全国に朝霞クンの恥ずかしい姿が流れちゃうネ」
「すみませんもう1回引っ張ってみてください」
「いくよ~」

 もう1回腰を掴んで引っ張ろうとした瞬間のこと。俺の足元でガサッと音がする。何かと思って目をやれば、そこには黒地に明るい茶色系の毛が混ざった子猫がいる。とっさにその子を捕まえていた。この子だっていう確証はないけど子猫は子猫だから。

「おーい山口、どうしたー?」
「朝霞クン、探してたのって、黒地に茶色っぽい毛の混ざった子~?」
「そうだそれそれ!」
「その子なら今捕まえちゃったんだけど、ど~しよ。手を離すと逃げちゃうけど、手を離さないと朝霞クンを助けられないよね~」
「気合いで出るから離すなよ!」

 それで、本当に出てきちゃうところが朝霞クンらしくて大好き。引っかかる原因になっていたカーディガンはビリビリだし、顔も泥だらけ。壮絶な格好なんだけど、俺の手の中にいる子猫を目の当たりにしたときの顔と言ったら。

「朝霞クン、この子確かにかわいいケド、どうかわいいの~?」
「ちょっと前までのお前に似てるだろ、毛の色が。どうしても並べてみたくて」
「なるほどね~」

 とは言っても今の俺は金メッシュじゃなくしたただの黒髪。顔が似ているというワケでもないから並べたところで人間と猫。だけど、俺が抱いているその子に触る朝霞クンが満足そうなのでよかったです、まる。

「あー、体バキバキだ。腰いてえ。銭湯行きたい」
「なら、行く?」
「行く」

 抱いていたこの子にはたくましく生きてもらうことにして、お別れを告げる。毛の色か。ちょっと前までなら確かに似てたんだろうなあ。猫一匹にここまで振り回されるとは思わなかったけど、まあ、これはこれで。


end.


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ナノスパ至上最大にアホな洋朝のお話になったようが気がしないでもない。まあ、洋朝でもアホなお話がやれるとわかって収穫。秋冬限定だろうけど。
猫見つけたさで土管に頭を突っ込む朝霞Pよ。何かもうこれと決めたら一直線過ぎて周りが見えてないところがザ・朝霞Pという感じ。朝霞Pは定例会が一番冷静なんだろうなあ
今回の洋平ちゃんは朝霞Pを眺めて楽しんでるポジション。だけど、途中で1回ちょっとご立腹になられた模様。

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