2016(04)

■そして終わらぬバースデイ

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 どうしてこうなった。例えて言うならそんな感じ。今日は宇部の誕生日で、山口が「店でお祝いしよ~」と言って今に至っている。いつもの店の、いつものカウンター席で。いつものように飲みながら何でもないことを話す、はずだった。それがどうした。

「はー、ついこないだまで生きとった鶏やー」
「ひかり、やめなさい」
「ぷりっぷりで、つやっつやでホンマ美味しそうやわー」
「それを食べることに抵抗はないのな」
「あくまで食糧よ」

 学部で宇部と同じゼミにいる友達がついてきた。「うちは日野ひかりや!」と西の訛りのあるイントネーションで自己紹介をして、宇部の右側にドカッと陣取る。
 大きな目をキラキラと輝かせながらねぎまを頬張る日野は、宇部とは“宇部恵美”になる前からの付き合いだと言う。烏丸でも宇部でもメグはメグやー、と大学での再会を喜んだそうだ。

「ホンマアンタらそれはアカン。うちかてメグの誕生日祝いたいわ! 独占はアカン」
「独占するつもりはなかった」
「ホンマにぃ~? 上手いことゆーて。片方普通に店員しとるし客観的に見たら居酒屋デートやん」
「あー、考えたこともなかったなそういや。宇部とのサシ飲みは部活の話が主だったしその延長かと」
「アサちゃんアンタ、ニブすぎて無意識に人を刺しとるタイプやね」
「はあ? つかアサちゃんて何だ」

 鈍すぎて無意識に人を刺す、とは。日野曰く、ある一点しか見えなくなって周りのことが疎かになる。そうやって忘れ去られたり適当な扱いをされた人がおるはずやー、と。
 この話に、宇部も普通に店員をしていたはずの山口も笑っている。ご尤もじゃないかと。確かにそういう節はあるかもしれないけど、それを実質初対面の日野にここまで言われる覚えもない。お前が俺の何を知っているのだと。

「メグから聞いとるわ。アサちゃんは良くも悪くも部活ばっかりやし、ぐっさんは真面目すぎるわーて」
「俺はぐっさんなんだね~」
「山口は大体ぐっさんや!」
「そうかもだけど~」
「で、どっちがメグの元カレなん! ……って思ったけどアサちゃんはないな。ぐっさんか」
「そこでお前はないなって自己完結されるのも空しいぞ」

 ただ、確かに現役バリバリで部活をやってた時代に恋愛どうこうのことは考えたことがなかったし、今はどうかと言われてもそんなことが出来る気もしない。確かに俺はないな。
 日野は山口と宇部が付き合っていた頃のことが気になるのか、かなり食い気味だ。ただ、この2人の場合は終わり方が終わり方だっただけに、2人とも苦笑いするしかない。

「山口、あれを」
「そうだね~」

 このままだと日野のトークショーで終わってしまう。ここは多少強引にでも本題に戻らなくてはいけない。山口に合図を出して、こないだ2人で買いに行ったプレゼントときんつばを出してもらう。

「あら、この包みは?」
「俺と朝霞クンから~。2人で選んだんだ~」
「開けていいかしら」
「開けて開けて~」
「ペンケースね。細身で使い勝手が良さそう。柄も素敵だわ。それとこれは……あら、櫛ね」

 最初は箸とかにしようと思ったけど、俺や宇部みたいな奴はペンケースがいくつあっても困らないと判断。櫛は副産物的だったけど、山口曰くビビッときたとのこと。基本的にシンプルな和柄を選んだ。

「お前なら、実用的な方がいいかなと思って」
「私の持ち歩く筆記具の量を知った上で、さりげなく和柄を入れてくるところが朝霞のセンスね。櫛はきっと、洋平が選んでくれたのかしら」
「すっご~い、どうしてわかったの~?」
「だってあなた、言ってたでしょう」
「……そうだね」
「あーっ、2人の間で秘密を共有しとるんやな!」
「そういうんじゃないのよ。畑で土を触ることもあるし、特に私は髪が長いからまめに櫛を通した方がいいという話よ」

 アンタらばっかりポイント稼いでずっこいわー、と日野は皿に残っていたチキン南蛮を食い尽くしてしまった。そしてまた食い気味に、うちのきんつばはないん、と丸々とした目を輝かせる。

「ひかり、一口だけよ」
「わー! メグは昔からホンマ優しいわー。うーん、ええ小豆やわー」


end.


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今年の大寒誕生会は今年ナノスパに参戦したキャラクターが新たに加わってきゃいきゃいしています。星ヶ丘はひかりです。
宇部Pはクリームこってりの洋菓子よりは和菓子の方が好きそうな印象があったので、烏骨鶏プリンに引き続き山口洋平さんが今回用意した甘味はきんつばです。
しかしひかりが自由である。アサちゃんにぐっさんか。山口は大体ぐっさんや!というセリフが地味に好き。勢いある。

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