2016(04)

■憂鬱な春のこと

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 情報センターが繁忙期に入った。年が明ければ4年生の卒論ラッシュがあり、テスト期間に就活。情報センターの利用者がグンと増えるのがこの年明けからの1ヶ月だ。
 それに伴い、センタースタッフの人員を増やす必要がある。1月上旬から2月中旬まではそういうシフトが組まれているが、センタースタッフも一般の学生と同様にテストなどを抱えている。改めて浮かび上がるのは人手不足の問題。

「リーン、私の時給いくらまで下がったァー?」
「500円ですね。昼食も受付を睨みつつ済ませてますから、その時間も含めると460円まで下がります」
「マジかよクソが」
「喚いたところでどうなる。川北と烏丸の授業コマ数を減らせるワケでもない」
「お前はいくらだ?」
「545円です」
「どっこいどっこいか」

 情報センターは時給1000円だが、日給は6000円までという上限がある。この上限を越えると仕事は実質ボランティア状態になり、長くいればいるほど時給が下がるという事態に陥る。
 人員が少なければ少ないほど、授業コマ数の少ない上級生がハマりがちだ。今ならオレや春山さんが。特に春山さんは文系で、残すところは遊びで覗いていた授業と卒論だけだ。この人は半日以上をここで過ごしている。

「おいリン」
「何ですか」

 センターの閉めの作業をしながらブツブツと、愚痴混じりに声を発する春山さんから呼び止められる。いい予感はせん。オレはコピー用紙を補給しつつ、次の言葉を待つ。場合によってはバッサリとぶったぎる用意をしつつ。

「そろそろ真剣に考えろよ」
「何をですか」
「今後、っつーか春からのことだ」

 そう言うと、春山さんはスタッフジャンパーの右腕から青い腕章を取り外した。外したそれを突きつけられれば、受け取るほかにない。半ば分かり切っていたことだ。消去法だが、バイトリーダーの役が回ってくるだろうとは。

「冴はどうした」
「最近は姿を見ません。生きてはいるそうですが」
「気紛れな奴だからあんまり深刻に捉えてなかったけど、そろそろ冴を戦力としてカウントするのはやめとけ。来たらラッキーくらいな」
「元々してません」
「そうか。それともう一つ」
「まだあるんですか」
「カナコのことだ」

 自称・情報センタースタッフ研修生の綾瀬だ。もちろんオレは認めていないが、春山さんは綾瀬を可愛がっている。実際に受付業務をさせたり、事務所のマシンを触らせたり。綾瀬のやらかしもこの人が尻を拭いていた。

「カナコのことは、そろそろ認めてもいいんじゃねーのか」
「……どうですかね。機械音痴ですよ」
「どうした、ハイリスクハイリターンが信条の自称天才サマ。文系だろうが理系だろうがA番だろうがB番だろうがやらかす時はやらかすんだよ。そのケツを拭けねえで何がバイトリーダーだ。カナコの能力はお前が一番わかってんだよ。じゃなきゃあんなマニュアルなんか作るか? どう扱えばいいのかわかってんなら、テメーの責任で使ってみろや。あァん?」

 確かに、マシンの扱いはともかく受付としてはある程度使えている。少なくともオレより受付としての適性はある。そして春山さんは言う。この調子だとオレの次のリーダーは学年をひとつ飛ばすことになる。少しでも安定させておけ、と。
 そして、ポケットから1冊の手帳が取り出され、腕章と同じように突きつけられる。受け取ったそれの中を見ると、バイトリーダー日誌と呼ぶのが相応しいメモ書き。雑多で、もう少し綺麗に書けとは思うが、本当に個人的なメモ書きなのだろう。

「この数字は? 1.5とか2とか」
「カナコが研修生として実際にA番としての仕事をしていた時間だ。ブルースプリングを結成してからだから、10月くらいか? アイツは何気に3ヶ月やってんだ」
「今は繁忙期で余裕がありませんが、閑散期に入ったら試してもいいですか」
「何をだ」
「綾瀬にその気があるのなら、一度B番に入れます」
「お前なりの最終試験か」
「機械音痴ですから期待はしませんが」
「バイトリーダーはお前なんだ。好きにしたらいいだろ。私は知ーらね。そうそう、カナコって次3年だろ。文系の3年なんざセンターにはうまみしかねーぞ」

 この人に敵わないなどと言うつもりは毛頭ないが、見た目よりもちゃんとしているバイトリーダーだったとは認めざるを得ない。腕章はオレの右腕に移った。まずはこのひと月を乗り越えること。このオレ様に不可能はない。


end.


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昨年度とはまた様相が違う今年度の情報センターです。冴さんとカナコはそれぞれどうなっていくのか。
なんかさらりとバイトリーダーの職が引き継がれてるけどさすが春山さんである。次の情報センターのお話からはリン様がバイトリーダーだよ!
そういやリン様ってダイチの部屋の合鍵持ってるんでした……その件結局やらなかったので来年度以降に鍵を渡す件をやりたい

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