2017
■リアルフェイスと面の皮
++++
「あの、青山さんすみません」
「どうしたのアオキちゃん」
「蒼希です。「あ」にアクセントを置いてください」
「で、何だった? これって、就活用の写真だよね」
高校を卒業して星港大学への進学が決まってすぐに始めたことは、アルバイトを探すことだった。高校では放送部と写真部を兼部していたということもあってカメラや機材に対する興味はある方だと思う。
家からも大学からも程々の距離にある写真屋でバイトをすることに決めて、面接をした次の日からさっそく研修に入った。子供のスタジオ撮影から各種証明写真、それからカメラに関する小物やアルバムの販売などなど。仕事内容は多岐に亘る。
185センチほどの長身で無造作にセットされた黒髪、そして黒縁眼鏡。常にニコニコして笑顔を絶やさないのが同じ星大で国際学部4年の青山和泉さん。ちょっと軽めで胡散臭い風貌に言動。その青山さんに何の相談なのか。それは、就活用の写真とにらめっこをしつつ。
「オーダー通りに加工したら明らかに原型がなくなるんです」
「まあ、ちょっとでもよく見せたいって心理なんだろうね」
「原型がなくなるまでやってもいい物なんですか?」
就職活動用の写真は印象が大事だというのはよくわかる。書類ひとつで合否が決まったり、どうせ同じ能力だったら少しでも見た目のいい方を取ろうとか、いろいろな事情が渦巻くんだろうとは1年の私でもわかる。
だけど、贅肉で顎が埋まる人が顎をシャープにくっきりととか、開いているのかいないのかわからない細目の人がぱっちりと開いた二重にしてくれとか。美容整形外科かと思うような注文も多々。今回もなかなかのムチャ振りなのだ。
ムチャ振りとは言うけれど、合成の技術はある。ただ、あまり加工した結果が原型から離れすぎるのもどうなのかと。本人がそれでいいのならいいのかもしれないけれど、まだまだその辺で覚悟だとか、経験が足りないらしい。
「やっちゃっていいよ」
「いいんですか」
「店的にはお金がもらえればオッケーだし、就活が成功することを保証してるワケでもないからね」
「そうですか。では、やります」
腫れぼったい一重まぶたを二重に。そばかすやニキビ跡が多い肌も白く、陶器のような肌に。それでいて自然な赤味を持たせて健康的な血色にすることも忘れない。頬や首回りもシャープにして、鼻の筋もスッと伸ばす。
「やっぱりアオキちゃん上手だね。あっ、黒目大きくなった」
「ここまでやると完全に別人で引きますけどね」
「あのね、それを生かすも殺すも技術なんだよね」
「――って云うのは?」
「職種によってはそれをネタに話を膨らますことの出来る技能の方が求められることもある、ってこと」
「なるほど」
淡々と顔面を加工している私の後ろで、クリックの度に青山さんが何百えーん、などと銭勘定をしながら笑っている。意外とリアリストなところもあるのかもしれない。
あくまで私のやっていることはお客様からの依頼だ。それを用いてどこで何をするのか、そしてその結果まで心配して一喜一憂していたら仕事にならない。やれと言われたからやったけど、その後のことは責任を持たない。それでいい。
「青山さん、大分見られる顔になったと思うんですけど」
「アオキちゃん表現」
「青山さん、「あ」です」
「……蒼希ちゃん、表現が、ちょーっと」
「注文に対する結果がこうなんですが、これでお客様に提示して大丈夫でしょうか」
「出してみるといいよ。でも、大体追加修正が入るからそのつもりでいてね。うんうん、綺麗なんじゃない? 俺はそそらないけど」
「就活用の写真で青山さんがそそることに何の意味が?」
「ないです、すみません」
原型から遠く離れた写真データを見ながら、これを堂々と出す面の皮の厚さを見習うべきなのかを考えていた。それとも、能力はあるから後は見た目が何とかなればどこででもやっていけるという圧倒的な自信? 4年生になればわかるのだろうか。
「ところで青山さんて、就活はどうしてるんですか?」
「俺? え~、内緒~」
「じゃあいいです」
「ウソウソちゃんと話すから聞いてー!」
end.
++++
ネタ帳にこのネタを何度書いたことやら。多分5~6回は書いたと思われるくらいにやりたかったお話。
蒼希が青山さんをボコボコにしてると楽しいんだけど、まだ全然だなあ。でも一応助けられてる身でもあるしそこまで酷いことは言わないか。
そして青山さんがそそる女の子とは…?というところになってくるのだけど、その辺はあまりの恐怖に震えるね!
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「あの、青山さんすみません」
「どうしたのアオキちゃん」
「蒼希です。「あ」にアクセントを置いてください」
「で、何だった? これって、就活用の写真だよね」
高校を卒業して星港大学への進学が決まってすぐに始めたことは、アルバイトを探すことだった。高校では放送部と写真部を兼部していたということもあってカメラや機材に対する興味はある方だと思う。
家からも大学からも程々の距離にある写真屋でバイトをすることに決めて、面接をした次の日からさっそく研修に入った。子供のスタジオ撮影から各種証明写真、それからカメラに関する小物やアルバムの販売などなど。仕事内容は多岐に亘る。
185センチほどの長身で無造作にセットされた黒髪、そして黒縁眼鏡。常にニコニコして笑顔を絶やさないのが同じ星大で国際学部4年の青山和泉さん。ちょっと軽めで胡散臭い風貌に言動。その青山さんに何の相談なのか。それは、就活用の写真とにらめっこをしつつ。
「オーダー通りに加工したら明らかに原型がなくなるんです」
「まあ、ちょっとでもよく見せたいって心理なんだろうね」
「原型がなくなるまでやってもいい物なんですか?」
就職活動用の写真は印象が大事だというのはよくわかる。書類ひとつで合否が決まったり、どうせ同じ能力だったら少しでも見た目のいい方を取ろうとか、いろいろな事情が渦巻くんだろうとは1年の私でもわかる。
だけど、贅肉で顎が埋まる人が顎をシャープにくっきりととか、開いているのかいないのかわからない細目の人がぱっちりと開いた二重にしてくれとか。美容整形外科かと思うような注文も多々。今回もなかなかのムチャ振りなのだ。
ムチャ振りとは言うけれど、合成の技術はある。ただ、あまり加工した結果が原型から離れすぎるのもどうなのかと。本人がそれでいいのならいいのかもしれないけれど、まだまだその辺で覚悟だとか、経験が足りないらしい。
「やっちゃっていいよ」
「いいんですか」
「店的にはお金がもらえればオッケーだし、就活が成功することを保証してるワケでもないからね」
「そうですか。では、やります」
腫れぼったい一重まぶたを二重に。そばかすやニキビ跡が多い肌も白く、陶器のような肌に。それでいて自然な赤味を持たせて健康的な血色にすることも忘れない。頬や首回りもシャープにして、鼻の筋もスッと伸ばす。
「やっぱりアオキちゃん上手だね。あっ、黒目大きくなった」
「ここまでやると完全に別人で引きますけどね」
「あのね、それを生かすも殺すも技術なんだよね」
「――って云うのは?」
「職種によってはそれをネタに話を膨らますことの出来る技能の方が求められることもある、ってこと」
「なるほど」
淡々と顔面を加工している私の後ろで、クリックの度に青山さんが何百えーん、などと銭勘定をしながら笑っている。意外とリアリストなところもあるのかもしれない。
あくまで私のやっていることはお客様からの依頼だ。それを用いてどこで何をするのか、そしてその結果まで心配して一喜一憂していたら仕事にならない。やれと言われたからやったけど、その後のことは責任を持たない。それでいい。
「青山さん、大分見られる顔になったと思うんですけど」
「アオキちゃん表現」
「青山さん、「あ」です」
「……蒼希ちゃん、表現が、ちょーっと」
「注文に対する結果がこうなんですが、これでお客様に提示して大丈夫でしょうか」
「出してみるといいよ。でも、大体追加修正が入るからそのつもりでいてね。うんうん、綺麗なんじゃない? 俺はそそらないけど」
「就活用の写真で青山さんがそそることに何の意味が?」
「ないです、すみません」
原型から遠く離れた写真データを見ながら、これを堂々と出す面の皮の厚さを見習うべきなのかを考えていた。それとも、能力はあるから後は見た目が何とかなればどこででもやっていけるという圧倒的な自信? 4年生になればわかるのだろうか。
「ところで青山さんて、就活はどうしてるんですか?」
「俺? え~、内緒~」
「じゃあいいです」
「ウソウソちゃんと話すから聞いてー!」
end.
++++
ネタ帳にこのネタを何度書いたことやら。多分5~6回は書いたと思われるくらいにやりたかったお話。
蒼希が青山さんをボコボコにしてると楽しいんだけど、まだ全然だなあ。でも一応助けられてる身でもあるしそこまで酷いことは言わないか。
そして青山さんがそそる女の子とは…?というところになってくるのだけど、その辺はあまりの恐怖に震えるね!
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