2016(03)

■創造神と紅瞳竜

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「ああ、唯香さん。いてよかったです」
「どーしたの実苑」

 どうやら実苑がアタシに用事らしい。アタシは部のパソコンにこれまで撮った素材を突っ込みながら、それでどうしたんだと話を振る。そもそも部の活動日なんだから、時間は可変にしても大体は来ている。いなかったにしても、来はするんだから別に焦る必要もない。

「先週の土曜日が誕生日だったそうですね。すみません当日に祝えなくて。それで、よければこれを受け取っていただければと」
「えっ、誕プレ的なこと?」
「そうですね」

 別に当日じゃなくたって祝ってもらえるのはありがたいし、誕生日プレゼントの類の物は前後半年間受け付けている。実苑から手渡された包みは少し不格好。きっと自分で包んだのかもしれない。
 ――ってことはもしかして! もしかして、例によって実苑は何かを作ってしまったのではないかと。店で何か買ったんなら、それらしいラッピングだし! 微妙に不格好ってことは、ねえ。

「開けていい?」
「どうぞ。この土日で頑張りました」

 包みを開けると、目の前に現れたのは手のひらサイズのドラゴン。手のひらサイズと言えどその迫力はすごい。鱗も1枚1枚丹念に作られているし、皮膚の質感なんかも圧巻。爪も鋭くてカッコいい。
 そして何よりすごいのは四肢やしっぽが球体関節になっていて、くるくると動かせること。結構派手に動かしてるんだけど、壊れそうな雰囲気はない。うわっ、足の裏までちゃんとしてある。
 石膏粘土が乾くまで時間がかかりそうだけど、粘土は土台となる素体の上に置いてるから全部粘土で作るよりは断然早いらしい。この出来の物を2日で作れるとかどんな手をしてるんだと。神の手だし! このクオリティの物を普通に買おうとしたら結構な出費だし!

「すごいし実苑! これ、着色ってアクリル?」
「はい。重ね塗りが出来ますし」
「わー、カッコいいなー、さすが実苑だし! ありがとね!」
「喜んでもらえて僕も嬉しいです。あ、それと包みの中にもうひとつあるんです」

 ドラゴンに気を取られて全然気付かなかったけど、ビニール袋に個包装されたもうひとつの物がある。それをよく見ると、ヘアゴムに飾りの付いた、最近やたらとよく見るヤツ。

「ドラゴンの乾燥待ちの間に作りました。パーツは姉のために作った残りがあったので――っと、その事情は言わない方が良かったですね、すみません」
「いや、いいよ。これも何気にドラゴンの目とかだよね?」
「さすが唯香さん、気付いてくれましたか」
「はー、この赤がカッコいいわ」

 ブロンズ風のフレームに樹脂製の瞳があしらわれたヘアゴムは、実際に使うというよりは観賞用にしていたい。ただ、実苑的にはアタシに似合うだろうと思って作ってくれたそうなので、そのうち使おうと思う。

「唯香さんだったら赤かなと思ったんですよ」
「さすが。外してない」

 だけどここで気になることが出てくるのだ。何を隠そう、アタシは実苑の誕生日を知らない。同い年の姉が出来て誕生日の関係で弟になったんですよーなんていう話は聞いてたけど、誕生日がいつかという話には至らなかったから。

「実苑、そういや聞いたことなかったんだけど、アンタ誕生日いつ?」
「僕ですか? 3月28日です」
「あっ、ギリだね」
「そうなんですよ。姉は7月20日生まれなんですよ」
「それは聞いてない」
「そうですか、すみません」
「血の繋がらない姉に惚れるってのも大変だねえ」
「法的に問題はないそうなので、それは別に。同居をしているわけでもありませんから」

 ただ、惚れた相手と私服を交換し合ってるとかなあ。どっか変だわ実苑って。いや、美術かじってる人間らしいと言えばらしいおかしさだけど。もう1コ聞いてみようかな、子供の頃とかに頭を打ったことあるのかって。

「あ。唯香さんの素材集の中にツバメの写真ってありますか?」


end.


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あずみん誕の厳密には後日談的なこと。土日だったので当日にはお祝いできませんでしたーという月曜日。
ミソノがどエラいことをしでかしたらしい。ちょっとかじってる人だったらとんでもねえぞって驚くんだけど、かじってない人だと「ふーんそれっくらいで出来ちゃうんだー」って思っちゃいそうなヤツ
そしてミソノと言えば血の繋がらない姉……っつーかマリンである。しかしここで浦和姉弟の誕生日が決まるとは。まさかまさかである。

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