2016(03)

■肉とる~び~と私

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「肉とる~び~と私~、働くあなたのため~、毎日~仕事を~作るから~」

 つばめがよくわからない替え歌を歌っている。原曲は「部屋とYシャツと私」だろうが、肉とる~び~……つまりビールと私という、俺が歌っても何ら問題ねえ感じの歌になっている。

「あ、る~び~空だ。あ、そこのピッチャー……っと、高崎サンのは盗れないや。えーっと、今日注文って誰が取ってんだろ」
「つばめ、空なのか。飲んでいいぞ」
「えっでも高崎サンもめちゃ飲むんでしょ? 足りなくない?」
「さっさとなくして新しいのもらおうぜ。つばめ、ジョッキ出せ」

 今日はインターフェイスの夏合宿打ち上げという体の飲み会。果林の希望で焼き肉食べ放題。3年もちょいちょい来ている。3年生の参加条件は合宿に参加、もしくはモニター会に来ていること。でも人数が多すぎてワケがわかんねえ。
 俺のイメージでは、インターフェイスの飲み会で注文をとりまとめるのは大体本職の山口だ。だけど、今日は山口が来てない。誰が注文をとりまとめてるのかもよくわからないから好き勝手にやる式なのだろう。
 つばめのジョッキにビールを注ぎ足しつつ、自分の分も注いでピッチャーを空にする。そしてそれと並行して肉も焼いていくのだ。俺の周りに自然と出来るスモーカーゾーン、それに臆せずくじ引きの結果を受け入れ続けるつばめだ。

「高崎サン、インターフェイスってる~び~派の人少なくないですか」
「そう言われりゃそうかもしんねえな。ウチで一番飲む奴もビールは飲めねえし」
「る~び~派が少なくて寂しいんですよ」
「果林がいるだろ」
「果林は甘いのだって飲むじゃないですか。アタシ常々る~び~をメインにしこたま飲んでるから慣れなくって。だから高崎サンがいてちょっと嬉しいです」
「そうか」

 つばめ的にはビールをガンガン飲むのが普通らしいが、インターフェイスの場でそれをやると瞬く間に酒豪扱いされてしまうのが納得行かないらしい。普段一緒に飲んでるらしい山口や朝霞はそんな目で見ないのに、と不満たらたら。

「話は変わるけどよ、山口がいねえとオーダー取るの不便でしょうがねえ」
「あっわかる。こっちが強要してるワケじゃないのにあれは職業病なんだよ」
「違いねえ」
「あっ話変わるけど、高崎サンてバイク確かマジェスティだよね? どうですか?」
「どうっつーのは」
「アタシの原付マジェスティ125で」
「マジか! 親戚みたいなモンじゃねえか」

 まさかつばめとここまで話が合うとは今の今まで思ってもいなかった。ビール談義に始まり、話は二輪へと移る。合間に肉を挟みつつ、酒のつまみは何がいいというようなことを淡々と語り合う。
 ただ、今日は伊東が包丁を握る無制限飲みではないし、山口が本職の本領を見せてくれる朝霞班の飲みでもない。ある物でやりくりしつつ飲むしかないのだ。違うことは、空気を肴に出来るくらいか。

「せめて朝霞サンがいればな~、る~び~派の仲間として」
「朝霞ってクソ弱いイメージが強いけど、飲むのか」
「実際クソ弱いし酔うと同じ話何遍もするし説教始まるしステージ談義が始まっちゃうからめんどくさいんだけど。それでいてこっしーじゃないと処理出来ないし」
「こっしー……ああ、越谷さんか。つか朝霞もマジでめんどくせえんだな」
「でもいないならいないで面白くないのよ、洋平にしてもそうだけど。てか洋平がいないとアタシ気軽に殴れる相手いないし」
「殴る相手がいないなら三井でも殴っとけ。今ならアイツもぐだぐだだから殴られた記憶も残らねえだろ」

 積年の恨み、とつばめが拳を堅く握る。しかし、頼んでいたピッチャーが届けばそんなことはフッと消えてしまう。今は目の前にある酒と肉だ。

「肉とる~び~と私~」
「おっ、高崎サンもこの歌の虜? 元々は「串とる~び~と私」っていうアタシの持ち歌なんだけど」
「持ち歌」
「そ、持ち歌。主に朝霞班の飲みで歌うヤツ。串とる~び~と私~、働くあなたのため~、毎日~仕事を~作るから~、5種盛りも割り引いてね、シメはとろけるプリンを~……ってな具合に続く、洋平を煽るために作られた朝霞サンの願望滲む戸田つばめデビュー曲ね」
「そういや、山口がバイトしてる店は夏に1回行ったっきりだな」
「えっ、じゃあ今度行きます? アタシの顔で洋平割利くと思うんで」


end.


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洋平ちゃんがバイトしてる店の立地を改めて調べたら、高崎ならタカちゃんの部屋で飲み直すくらいのことはしそうだからこわいぜ!
というワケで肉とる~び~と私。つばちゃんと高崎の間にはちょいちょい話の通じるポイントがあったらしい。そして高崎の中で朝霞Pがめんどくさい扱いに
でもって「殴る相手がいないなら三井でも殴っとけ」という何気にツボをついた発言であった。

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