2018

■隙間の息継ぎ

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 時間を追うごとに、裕貴の表情がどんどん険しくなっているのがわかった。怒りだとか、呆れだとか。普段は表に出さないように努めている物が、とめどなく溢れて隠せなくなっているように思えた。
 視線の先にあるのはファンタジックフェスタの北側ステージだ。北側ステージでは星ヶ丘の放送部がステージイベントをやっている。南側ステージはプロのMCたちが舞台を捌いていて、言わずもがな、メインステージは南側だ。

「裕貴、顔がイッてるぞ」
「……このレベルの物で丸一日ステージを占有してしまうとは、主催に対して申し訳が立たないと思ってな」
「そりゃ3週間じゃ無理があるだろ」
「いくら突貫だとしても酷すぎる。学生のステージとは言え、これを見てイベント全体がつまらないと思われてしまっては元も子もない。下手をすれば、部の関係ない明日の集客にも影響しかねない」

 ファンフェスは大きな公園で開かれている。公園内をぐるりと回って見回ってきたであろう人が時々ステージの前にも来るけど、足を止めることはほとんどない。北ステージの前は閑散としていて、賑やかな南側と比べるのが辛いくらいだ。
 このステージの枠は、誰も知らないところで部長の日高が勝手に取ってきた物だそうだ。部としての枠を主催に返上するにも日がなく、やらなければ夏の丸の池はないと班長たちは脅され、渋々準備を始めたと。

「裕貴、南側でも見に行くか? 時間的に、水鈴が出てる頃だ」
「……ああ。雄平、すまない。息が詰まるようだ」
「気にすんな。お前は真面目すぎる」

 裕貴は放送部の前監査として、今は文化会の監査として部のことを気にかけているようだった。俺みたく、何の職もなくただ引退した4年は部がどこで何をしてようとふーんで終わるけど、裕貴は責任感の塊だ。見届けなければという想いが強い。
 少しでも裕貴に気晴らしをしてもらおうと、南側に向けて歩く。南側に向かっていくと、人も多いしそれぞれのブースも賑わっているように見える。さっきまでが静かすぎたから尚更そう思う。

「雄平、あれはインターフェイスのDJブースか?」
「ああ、そうだな」
「少し見たいのだが」

 裕貴は、前々……それこそ部活の現役の頃から流刑地と呼ばれた班のことを気にかけていた。扱いが悪かったと言え越谷班がさほど嫌がらせを受けなかったのはひとえに裕貴のおかげだろう。そして、裕貴は今でも朝霞班のことを気にかけている。
 どんなタイミングか、ちょうど朝霞が番組をやっているところだった。ただ、聞いていた話ではミキサーは2人だったはずだけど、松江がいない。あの巨体を見逃すことはまずないだろう。これは何かあったか?

「あっ、雄平さん裕貴さん来てたんですか~? こんにちは~」
「よう洋平」

 俺たちの存在に気付いたのか、洋平が寄ってきて声をかけてきた。朝霞は……トークをしながら周りを見る余裕はあまりなさそうだな。どうやらこっちには気付いてないようだ。

「洋平、調子はどうだ? お前の番組はもう終わったのか」
「あ~、残念裕貴さん。俺の番組はもう終わっちゃいました~」
「……あのステージを見ているくらいなら洋平の番組を聞きたかったな」
「裕貴、本音が漏れてるぞ」
「あはは~……裕貴さん査察お疲れさまです~。あっ、ファンフェスの番組は同録あるんで~、よかったら今度ゼミの時にでも渡しますけど~」
「そうか、聞けるか。ではそのように頼む」
「了解で~す」
「洋平、朝霞はどうした? 班に松江がいるって聞いてたけど3人で回してないか」
「あ~……松江クンは~、長野っちが昨日の夜に緊急入院しちゃったみたくて~、そっちについてあげてるみたいなんです~」

 左手に巻かれた包帯が痛々しい。果林は逆キューをバリバリ使ってるのに朝霞からの逆キューが振られないところを見ると、壁を殴った手がまだ痛むのだろう。自業自得だけど。朝霞が今思うことは想像も付かないけど、ここが南寄りで良かったなと思う。

「裕貴、そろそろ南ステージに行かないか」
「ああ、わかった。洋平、南ステージでは水鈴がMCをしているそうだ」
「水鈴さんから聞いてたんですよ~! 俺も見たいです~!」
「じゃあ一緒に見ないか」
「行きます! あ~でも朝霞クンの番組も聞いてたいし~……」
「洋平、朝霞だったら絶対「生きたステージを見て勉強しろ」って言うぞ」
「確かに。雄平さんの言うことはご尤もです」

 査察に冷やかし、勉強にとそれぞれのファンフェス模様。心配事もいろいろあるけれど、歩きながらそれを紛らわせて。


end.


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こっしーさんと萩さんのファンフェス査察回です。どこからか洋平ちゃんが湧いて出た模様。まあ、懐いてるからね、仕方ないね
生きたステージを見て勉強しろ。まあ、朝霞Pなら自分も(定例会の目を掻い潜って)そうしてそうですし班員にも求めそうですね!!
そして萩さんの気苦労よ……こっしーさんと一緒に来ていてよかったね。そういや今年はかんなあやめはどうした

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