2016(03)

■水面下の波紋

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「あっ、林原さんおはようございまーす」
「どうした、嫌に静かだな」

 最近はやたらきゃいきゃいと騒がしかったセンターの事務所がやたら静かだ。これが年末に近くなれば課題だの何だので利用者が増え、ある程度は忙しくなるからスタッフも増え、年を跨ぐプチ繁忙期に入る。
 しかし、最近はシフトにも入っていないのにオレも含めたスタッフが暇潰しのためにここに来ていたのだ。もちろん時給は発生してないが、それでもいるからには何となく雑務をしてしまっていた。

「今日は本来こんな感じですよね。A番が俺で、B番が林原さんで」
「まあ、そうだが。春山さんは映画休暇で烏丸が友人と会うとか何とか」
「烏丸さんが友達と会うって聞くと、何かまた野菜でももらえたりしないかなあって期待しちゃいますね」

 思い起こされるのは、サツマイモを大量にもらってきた映像と、大玉のキャベツを二玉抱えてやってきた映像だ。食に執着しない男にそんなものを与えてどうなるとも思うが、その友人にいろいろなことを話しているのだろう。
 「バイト先に料理出来る人おるならこれで何か作ってもらったらええやん、まともなモン食べーや!」と関西方面のイントネーションを交えた言葉を吐きつつ再現をするのが面白かった覚えもある。

「川北、そう何度もあるとは思わん方がいいぞ」
「そうですよねー。冴さんは元々予定があるとかではないお休みですか?」
「さあ、土田は知らん。ところで綾瀬はどうした」
「カナコさんはそろそろ演劇部の稽古がカツカツに詰まって来るそうですよー。ここに来る時間は何とかして捻出するって言ってましたけど、まあ、主演ですししばらくは来れないでしょうね」
「そうか」
「あれっ。林原さんがカナコさんの所在を聞くって、よく考えたらすごいことなんじゃ」
「静かでちょうどいい」

 ブルースプリングで集まることもなくなり、すっかり忘れていたのだが綾瀬は演劇部の演者だ。青山さんが舞台音楽の監修だかバックバンドだかで舞台を手伝った縁で引き寄せられた変態だ。
 何がどうなって今に至っているのかは知らんが、本人は「情報センターのスタッフ研修生」を自称している。オレはもちろん認めとらんのだが、春山さんが面倒を見ている以上後ろ盾がある。

「こないだカナコさんがチケット買ってくださいってお願いしに回ってましたよ」
「オレは見とらんが」
「林原さんがいなかった日ですねー。でも、誰にも買ってもらえなくてヤケになってましたけど」
「だろうな。ここの面々にそんなものを期待する方がどうかしている。ちなみに、ジャンルは」
「SFだったと思います」
「ほう、SFか」

 確かチラシがあったんでー、と川北がそれを俺に手渡す。確かにSFのような舞台で、スタッフクレジットには音楽監修・青山和泉(軽音)と書かれている。ほう、あの人が音楽を監修しているのか。
 しかし、ここで興味があると言ってしまうのも癪だ。何がどう癪なのかはわからんが、とにかく癪だ。演劇部の女優としての綾瀬はここで見せる変態的な様相ではないにしてもだ。
 演劇部がホームページなどを持っているとすれば、別に綾瀬から直接買わずとも行けはしないだろうか。綾瀬から直接買うことによる特典があるわけでもないだろう。

「川北、もし秘密裏にチケットを買えなければお前名義で入手しておいてくれ」
「えっ、って言うか何で俺がー!? 林原さんが自分でカナコさんにお願いしたらいいじゃないですかー!」
「フン、オレの目の前で売りに来んのが悪い」
「そんなー!」


end.


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リン様マジリン様。つかチケットくらい自分で買いなさいよリン様。
カナコの本業はそういや演劇部だったなあと思ってそのようなあれこれを匂わせてみました。ちゃんと部活もやってんだぜカナコは
そしてダイチと友達という組み合わせに野菜を期待するミドリwww まあ、期待しちゃうよなあ、過去の事例を見ちゃうと。

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