2016(03)
■極東のル・タン・ウールー
++++
「野郎ども、開けるよ!」
「おー! 育ちゃん待ってた!」
「高崎もお疲れ」
「ったく、武藤のヤツ人遣いが荒いのなんの」
「うっさいな高崎のクセに。飲まないなら帰ってもらっていいけど?」
「それとこれとは別件だ」
今日これから始まるのはイク主催のテイスティング会だ。国内外問わずどこかしらを旅しているイクも、11月第3木曜近辺は必ず国内にいる。何故なら、時差の関係でボジョレー・ヌーヴォーの解禁が早いからだ。
MBCCでワインと言えばイクだしイクと言えばワインだ。まだまだ血がワインで出来る域には達していないと本人は言うけど、俺たちからすれば十分ワインで出来た血が流れていると思う。
イクが調達したブツを、会場のカズの部屋まで運搬するのに駆り出されたのが高崎だ。カズはボジョレー・ヌーヴォーだけではなく、この会で出て来るワインに合う料理の準備に忙しくしていた。
高崎とイクは犬猿の仲という体でこの3年間やってきたけれど、酒の絡む場ではただ暴言を吐き合うだけの悪友のような間柄。努力型にも天才型にも共通するのは「酒は楽しく飲むもの」という基本認識。
「で、これが今年のボジョレー・ヌーヴォーか。ド深夜に並んだのか」
「当然。去年が良すぎたし春は天気悪かったからどうかなーって思ったけど、今年は今年で悪くない」
「もう飲んだのか」
「家でちょっと」
「さすがの執念だぜ。そこだけは褒めてやらァ」
「どーも。で、こっちが緑風で買ってきたワインとヤギのチーズ」
「緑風?」
「ほら、青女の縦ロールゴス。名前何だっけ」
「レオンか」
「そーそー、あの子の実家なんだって! 買いに行ったときにいてビビったよね」
そして、あらかじめカズの部屋に置いておいたグラス等々のアイテムが出て来る。イクは形式に沿ってやってるけど、それを俺たちには強要しない。作法は知っていて損はないが、こういう場でそれに凝り固まると楽しくない、と。
イクが各人にワインを入れてくれる。部屋に広がる芳醇な香り。それだけではなく、酸味なんかもあるだろうか。産地やブドウだけじゃなくて作ってる人にもよるんだよ、などとイクが簡単な解説を入れてくれる。
「家にはヴィラージュも置いてるんだけど、まあここは無難にね」
「ヴィラージュ?」
「ボジョレーヴィラージュ・ヌーボー。さらに限られた産地で作ってるヤツ。味がギュってしてて美味しいんだけどやっぱちょっとランク上がる分予算がね」
「武藤てめェそこショット分だけでも分けるトコだろうがよ」
「はー、ショットとかいう単語持ち出さないでもらえますかー」
「あ? 例えだろうが。お猪口って言えばよかったのかよ」
この場で俺はそのヴィラージュを飲ませてもらう約束になっていることを口外しない方がいいだろう。後日イクの部屋でゆっくりと飲み比べることになっている。同じ生産者の物を飲み比べると面白いそうだ。
「こっちがボジョレー」
「高ピー美味しい?」
「ああ、うめえ。で、こっちがレオン家のヤツか。うん」
「高ピー美味しい?」
「うめえ。伊東、お前はどうすんだ」
「俺はみんなが落ち着いたころにちょっともらうよ。せっかくヤギのチーズもあるしね。てかヤギのチーズって未知の食材だからどう扱えばいいか楽しみだよね」
それこそ形式的なテイスティングから始めるイクに、好きなように呑めばいいという高崎、そして料理の方に力を入れるカズ。方向性は少しずつ違うけど、それを誰も責めないし、良しとする優しい世界だ。それが成立するのも酒の力か。
「チーズだけどさー、とりあえず普通にスティック状に切ってみたよー」
「いよっ、カズ待ってました!」
「さすが伊東、シンプルイズベストだ」
「本当、高崎もイクも本当は仲いいよね」
「ユノ、それはちょっと違う」
end.
++++
ワインと言えば育ちゃんだし、育ちゃんと言えばワインなMBCCである。高崎はビールでいち氏は甘いの。ユノ先輩はブランデーとかそっち系。
ユノ先輩と育ちゃんがしっとりやってる予定だったのに、何故か高崎といち氏も招集されて、高崎と育ちゃんがきゃいきゃいしてるだけの話になった。
そして今年っぽいワインネタと言えばレオンの実家云々のことなのでここでちょっとぶちこんでみました。
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「野郎ども、開けるよ!」
「おー! 育ちゃん待ってた!」
「高崎もお疲れ」
「ったく、武藤のヤツ人遣いが荒いのなんの」
「うっさいな高崎のクセに。飲まないなら帰ってもらっていいけど?」
「それとこれとは別件だ」
今日これから始まるのはイク主催のテイスティング会だ。国内外問わずどこかしらを旅しているイクも、11月第3木曜近辺は必ず国内にいる。何故なら、時差の関係でボジョレー・ヌーヴォーの解禁が早いからだ。
MBCCでワインと言えばイクだしイクと言えばワインだ。まだまだ血がワインで出来る域には達していないと本人は言うけど、俺たちからすれば十分ワインで出来た血が流れていると思う。
イクが調達したブツを、会場のカズの部屋まで運搬するのに駆り出されたのが高崎だ。カズはボジョレー・ヌーヴォーだけではなく、この会で出て来るワインに合う料理の準備に忙しくしていた。
高崎とイクは犬猿の仲という体でこの3年間やってきたけれど、酒の絡む場ではただ暴言を吐き合うだけの悪友のような間柄。努力型にも天才型にも共通するのは「酒は楽しく飲むもの」という基本認識。
「で、これが今年のボジョレー・ヌーヴォーか。ド深夜に並んだのか」
「当然。去年が良すぎたし春は天気悪かったからどうかなーって思ったけど、今年は今年で悪くない」
「もう飲んだのか」
「家でちょっと」
「さすがの執念だぜ。そこだけは褒めてやらァ」
「どーも。で、こっちが緑風で買ってきたワインとヤギのチーズ」
「緑風?」
「ほら、青女の縦ロールゴス。名前何だっけ」
「レオンか」
「そーそー、あの子の実家なんだって! 買いに行ったときにいてビビったよね」
そして、あらかじめカズの部屋に置いておいたグラス等々のアイテムが出て来る。イクは形式に沿ってやってるけど、それを俺たちには強要しない。作法は知っていて損はないが、こういう場でそれに凝り固まると楽しくない、と。
イクが各人にワインを入れてくれる。部屋に広がる芳醇な香り。それだけではなく、酸味なんかもあるだろうか。産地やブドウだけじゃなくて作ってる人にもよるんだよ、などとイクが簡単な解説を入れてくれる。
「家にはヴィラージュも置いてるんだけど、まあここは無難にね」
「ヴィラージュ?」
「ボジョレーヴィラージュ・ヌーボー。さらに限られた産地で作ってるヤツ。味がギュってしてて美味しいんだけどやっぱちょっとランク上がる分予算がね」
「武藤てめェそこショット分だけでも分けるトコだろうがよ」
「はー、ショットとかいう単語持ち出さないでもらえますかー」
「あ? 例えだろうが。お猪口って言えばよかったのかよ」
この場で俺はそのヴィラージュを飲ませてもらう約束になっていることを口外しない方がいいだろう。後日イクの部屋でゆっくりと飲み比べることになっている。同じ生産者の物を飲み比べると面白いそうだ。
「こっちがボジョレー」
「高ピー美味しい?」
「ああ、うめえ。で、こっちがレオン家のヤツか。うん」
「高ピー美味しい?」
「うめえ。伊東、お前はどうすんだ」
「俺はみんなが落ち着いたころにちょっともらうよ。せっかくヤギのチーズもあるしね。てかヤギのチーズって未知の食材だからどう扱えばいいか楽しみだよね」
それこそ形式的なテイスティングから始めるイクに、好きなように呑めばいいという高崎、そして料理の方に力を入れるカズ。方向性は少しずつ違うけど、それを誰も責めないし、良しとする優しい世界だ。それが成立するのも酒の力か。
「チーズだけどさー、とりあえず普通にスティック状に切ってみたよー」
「いよっ、カズ待ってました!」
「さすが伊東、シンプルイズベストだ」
「本当、高崎もイクも本当は仲いいよね」
「ユノ、それはちょっと違う」
end.
++++
ワインと言えば育ちゃんだし、育ちゃんと言えばワインなMBCCである。高崎はビールでいち氏は甘いの。ユノ先輩はブランデーとかそっち系。
ユノ先輩と育ちゃんがしっとりやってる予定だったのに、何故か高崎といち氏も招集されて、高崎と育ちゃんがきゃいきゃいしてるだけの話になった。
そして今年っぽいワインネタと言えばレオンの実家云々のことなのでここでちょっとぶちこんでみました。
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