2016(03)
■日常の卵焼き
++++
「なあ山口」
「な~に~?」
「甘い卵焼きってどう思う」
突然、朝霞クンからこんなことを尋ねられる。朝霞クンは卵料理が好きで、卵焼きも例に漏れず好きだったはず。尤も、俺がよく焼いているのはだし巻き卵だけど、あれも一応卵焼きの一種だと思う。
甘い卵焼きと、しょっぱい卵焼き。卵焼きには大きく分けるとこの2種類がある。朝霞クンが好きなのはだし巻き卵というイメージが強いのは、きっと店でよく食べているから。甘い卵焼きも実は好きなのかもしれない。
「ど~したの、突然。甘い卵焼き嫌いだっけ」
「こないだ大石ン家で飯食わしてもらったときに謎に伏見がいて、まあ幼馴染みだからいてもおかしくないんだけど、そこで伏見が卵焼きを焼いてくれたんだ。それが甘かったんだよな。甘い卵焼きなんて久々に食うなと思って」
「俺が甘い卵焼きを好きか嫌いかの話?」
「いや、甘い卵焼きのジャンルが知りたい。甘くない、醤油とかだしの味の卵焼きはおかずだろ。甘い卵焼きは、おかずとしてカテゴライズされるものなのかと思って」
卵焼きの論争については、実は在りし日の対策委員でも勃発したことがある。夏合宿が終わって、対策委員で話し合うことも特になかった日のこと。その発端は議長サンだった。
プリンを食べながら、議長サンは「甘い卵焼きはおかずかスイーツか」と呟いたのだ。これに真っ先に反応したのが高崎クン。甘い卵焼きはおかずじゃねえと。それに異を唱えたのは石川クン。おせちの伊達巻きだって甘いだろう、と。
長野っちはどっちでもいいやって言ってて、俺はそれをどっちだろうね~とうやむやにしながら甘い卵焼きが好きな雄平さんと、だしの効いた卵焼きが好きなメグちゃんのことを考えてた。
紗希ちゃんは「甘い卵焼きはきれいな発色をするから好き」って言ってたのが印象的だった。味じゃないんだって総ツッコミされてたけど、青女の後輩に卵焼きを綺麗に作る子がいて、お弁当を覗きながらいいなあって見てるそうだ。
結局、この論争はどこにも着地しなかった。議長サンは甘い卵焼きもしょっぱい卵焼きも、結局「卵焼きはうまー」で片付けてしまったから。そう言えば、議長サンに俺の焼いた卵焼きを食べてもらう約束、果たせてないけど覚えててくれてるかな。
「そう言えばさ、こないだ長野っちに会ったじゃん学祭で」
「ああ」
「その時に言ってたんだけどさ、長野っち、体の都合で食べられる物結構限られてるジャない?」
「そうだな。大変だと思う」
「お菓子とかも結構選ぶんだって。生クリームとかよくないみたいだし、羊羹とかもダメなんだって~。でね? そんなときに、甘い卵焼きがすっごい美味しいって思ったんだって~。食事療法を手伝ってくれてる子がいるらしいんだけど~、その子が焼いてくれるのが絶品らしいよ~」
そう語る長野っちの笑みに、前にちづちゃんが言ってた冬の窓際みたいな雰囲気ってこういうことなのかなってちょっと思った。食事療法を手伝ってくれてるっていう子が例の三つ編みの子なのかなって。どういう関係は聞いてないけど。ちづちゃんのためにもね。
「あれっ、俺その話聞いてないけど現場にいたよな?」
「朝霞クン、ステージの参考になるものはないのかって1人で学内散策してたジャない」
「あれっ、そうだったっけか」
「朝霞クン、俺、甘い卵焼きも焼けるけど、焼いてみようか」
「いや、お前は降りて来るな」
「えっ?」
「確かに甘い卵焼きも好きだし食ってみたい気はする。だけどな山口、俺にとってお前の卵焼き……っつーかだし巻き卵は金を出してでも食べたい特別な卵焼きだ。甘い卵焼きだろうと安売りすんな」
それはつまり、俺の卵焼きは朝霞クンに認められているということなのかなって。素直に嬉しいけど、お金をもらわなきゃ卵焼きは作っちゃダメみたいな雰囲気で、どうしたらいいのかな~とも思ったりして。
特別な卵焼きだって言ってもらえるのは嬉しいけど、ささやかな日常の中にあるごく普通の卵焼きでありたいっていう気持ちも、ちょっと。
「わかった、こうしよう。この勢いでさ、議長サンに卵焼きの話持ちかけてみるよ。対策時代にいろいろ話してたし~。議長サンと、松岡クンにも来てもらって実際に卵焼きをつまみながら討論する会を開くの。もちろん朝霞クンも出席で~。参加費は1人につき卵1パック。これでどう?」
「そ、そういうことなら参加してやらないこともないけど」
end.
++++
洋朝が卵焼きについて語っている回でありつつ、洋平ちゃんがいろんなことを思い出している回想回と言う方が正しいかもしれない。
前対策の面々が卵焼きについてやいやい話してるのもかわいいと思います。しかし「卵焼きはうまー」で片付ける菜月さんが菜月さんである。
長野っちの食事療法の話は洋平ちゃん、聞いてたのね。しかしステージの参考になるものはないのかって学内散策してたんかい朝霞Pw まあ、青敬の学祭は星ヶ丘の前だったしねえ
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「なあ山口」
「な~に~?」
「甘い卵焼きってどう思う」
突然、朝霞クンからこんなことを尋ねられる。朝霞クンは卵料理が好きで、卵焼きも例に漏れず好きだったはず。尤も、俺がよく焼いているのはだし巻き卵だけど、あれも一応卵焼きの一種だと思う。
甘い卵焼きと、しょっぱい卵焼き。卵焼きには大きく分けるとこの2種類がある。朝霞クンが好きなのはだし巻き卵というイメージが強いのは、きっと店でよく食べているから。甘い卵焼きも実は好きなのかもしれない。
「ど~したの、突然。甘い卵焼き嫌いだっけ」
「こないだ大石ン家で飯食わしてもらったときに謎に伏見がいて、まあ幼馴染みだからいてもおかしくないんだけど、そこで伏見が卵焼きを焼いてくれたんだ。それが甘かったんだよな。甘い卵焼きなんて久々に食うなと思って」
「俺が甘い卵焼きを好きか嫌いかの話?」
「いや、甘い卵焼きのジャンルが知りたい。甘くない、醤油とかだしの味の卵焼きはおかずだろ。甘い卵焼きは、おかずとしてカテゴライズされるものなのかと思って」
卵焼きの論争については、実は在りし日の対策委員でも勃発したことがある。夏合宿が終わって、対策委員で話し合うことも特になかった日のこと。その発端は議長サンだった。
プリンを食べながら、議長サンは「甘い卵焼きはおかずかスイーツか」と呟いたのだ。これに真っ先に反応したのが高崎クン。甘い卵焼きはおかずじゃねえと。それに異を唱えたのは石川クン。おせちの伊達巻きだって甘いだろう、と。
長野っちはどっちでもいいやって言ってて、俺はそれをどっちだろうね~とうやむやにしながら甘い卵焼きが好きな雄平さんと、だしの効いた卵焼きが好きなメグちゃんのことを考えてた。
紗希ちゃんは「甘い卵焼きはきれいな発色をするから好き」って言ってたのが印象的だった。味じゃないんだって総ツッコミされてたけど、青女の後輩に卵焼きを綺麗に作る子がいて、お弁当を覗きながらいいなあって見てるそうだ。
結局、この論争はどこにも着地しなかった。議長サンは甘い卵焼きもしょっぱい卵焼きも、結局「卵焼きはうまー」で片付けてしまったから。そう言えば、議長サンに俺の焼いた卵焼きを食べてもらう約束、果たせてないけど覚えててくれてるかな。
「そう言えばさ、こないだ長野っちに会ったじゃん学祭で」
「ああ」
「その時に言ってたんだけどさ、長野っち、体の都合で食べられる物結構限られてるジャない?」
「そうだな。大変だと思う」
「お菓子とかも結構選ぶんだって。生クリームとかよくないみたいだし、羊羹とかもダメなんだって~。でね? そんなときに、甘い卵焼きがすっごい美味しいって思ったんだって~。食事療法を手伝ってくれてる子がいるらしいんだけど~、その子が焼いてくれるのが絶品らしいよ~」
そう語る長野っちの笑みに、前にちづちゃんが言ってた冬の窓際みたいな雰囲気ってこういうことなのかなってちょっと思った。食事療法を手伝ってくれてるっていう子が例の三つ編みの子なのかなって。どういう関係は聞いてないけど。ちづちゃんのためにもね。
「あれっ、俺その話聞いてないけど現場にいたよな?」
「朝霞クン、ステージの参考になるものはないのかって1人で学内散策してたジャない」
「あれっ、そうだったっけか」
「朝霞クン、俺、甘い卵焼きも焼けるけど、焼いてみようか」
「いや、お前は降りて来るな」
「えっ?」
「確かに甘い卵焼きも好きだし食ってみたい気はする。だけどな山口、俺にとってお前の卵焼き……っつーかだし巻き卵は金を出してでも食べたい特別な卵焼きだ。甘い卵焼きだろうと安売りすんな」
それはつまり、俺の卵焼きは朝霞クンに認められているということなのかなって。素直に嬉しいけど、お金をもらわなきゃ卵焼きは作っちゃダメみたいな雰囲気で、どうしたらいいのかな~とも思ったりして。
特別な卵焼きだって言ってもらえるのは嬉しいけど、ささやかな日常の中にあるごく普通の卵焼きでありたいっていう気持ちも、ちょっと。
「わかった、こうしよう。この勢いでさ、議長サンに卵焼きの話持ちかけてみるよ。対策時代にいろいろ話してたし~。議長サンと、松岡クンにも来てもらって実際に卵焼きをつまみながら討論する会を開くの。もちろん朝霞クンも出席で~。参加費は1人につき卵1パック。これでどう?」
「そ、そういうことなら参加してやらないこともないけど」
end.
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洋朝が卵焼きについて語っている回でありつつ、洋平ちゃんがいろんなことを思い出している回想回と言う方が正しいかもしれない。
前対策の面々が卵焼きについてやいやい話してるのもかわいいと思います。しかし「卵焼きはうまー」で片付ける菜月さんが菜月さんである。
長野っちの食事療法の話は洋平ちゃん、聞いてたのね。しかしステージの参考になるものはないのかって学内散策してたんかい朝霞Pw まあ、青敬の学祭は星ヶ丘の前だったしねえ
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