2018(02)
■VS MURAISM!!
++++
「いっよーう圭斗ー! おじちゃんがドでかいの用意してきたぜー!」
「帰れ」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」
突然村井サンが大きな袋を持ってサークル室に遊びに来た。きっとロクでもないことを企んでるな。それというのも、村井サンという人は悪乗りの凄まじさからその所業がムライズムとまで呼ばれたおじちゃんだ。
如何せんこんなノリなので圭斗は村井サンを(一応先輩としても扱ってるけど)基本的には小馬鹿にしたような態度を取り、先のやり取りは既にテンプレートと化している。まあでも、村井サンのこのノリは本当に嫌な予感しかしない。
季節外れのサンタクロースのような大きな袋の中身を窺い知ることは出来ない。だけど、担いでいる様子からすればそこまでバカみたいに重たい物でもないのだろう。三井みたいに空気の読めない品でなければいいけど。
「それで、今日はまた何の用事で」
「だからお前、ドでかいの用意するって言ってただろ。だから今日はこれよ」
そう言ってひっくり返された袋からは、大量のうまい棒。30本入りのパックがひいふうみい……10袋。正味300本のそれが机の上に溢れ返る。
「ドでかいと言うより細かいですが」
「バカ野郎お前、おじちゃんがただうまい棒を持って来ただけだと思ったら大間違いよ」
「で?」
「今日はこれで遊ぼうと思ってね。そう、うまい棒レースと言ったところでどうだ!」
ホワイトボードマーカーを手にした村井サンは、コツコツと文字を書いていく。「胃袋は人間の宝だ! MMP杯争奪第1回うまい棒レース」と書かれたその前で仁王立ちする様と言ったら。なーにが始まるんですかね。
缶蹴りや何かの遊びはうちら3年生にとっては日常だったから驚きも少ないけど、うまい棒レースは今までやったことがないから何が始まるんだという嫌な予感が凄いし、遊び慣れていない2年生以下は完全に引いている。
「これでどうレースをするんです? 大食い競争ですか」
「まあ、そんなような感じだけどルールはあるよね。30本までは時間をカウントしてみんな一斉に食べ進めるとか、水飲んだら負けとか」
「うまい棒を食べるのに水分の摂取を禁止するなど拷問ですね」
「だからレースになるんだろ。ちなみに部屋の窓も閉め切るからな」
「は!? この男だらけでむさ苦しい空間で窓を閉め切る!? 真夏ですよ? 扇風機はロートルですよ!? お前馬鹿じゃねーのか」
「言っちまえば30本を過ぎるまでは我慢大会よ。あと扇風機はお前が会計なんだから勝手に買い替えればいいだけの話だし、お前何先輩に向かって馬鹿とか言ってんだ」
「どっからどう見ても馬鹿以外の何物でもねーだろ」
やいやいと圭斗と村井サンの言い合いが始まったけど、ここのこれはいつものことだから放置で問題ない。そんなことよりうちはこの大量に用意されたうまい棒に、どうして村井おじちゃんはそんなことばかり思いつくのかという呆れを隠せない。
この山を見て2年生もどうしたらよいやらわからないようで、誰が何本食べる想定で用意されたうまい棒なのかとか、わざわざこんなクソ暑いときにそんなことしなくても、とやっぱり引いてしまっている。
「菜月先輩、これ、誰がレースに参加するんですか」
「知らない。まあ、村井サン主催だし圭斗は強制じゃないか?」
「他人事みたいに言ってるけど菜月、お前もやるよな?」
「やりませんよ!」
「えー、お前がやったらいいところまで行くなって思ったのに」
「うまい棒を一度に大量に食べるとしばらく体臭がうまい棒になるんですよね。夏にそれはちょっと」
どうしてうちがそんなことを知っているのかというと、1年の時にお金がなくて一時的にうまい棒を主食にして生活していたことがあるからだ。圭斗からはうまい棒じゃなくてパンを買えと馬鹿にされたのは今でもよく覚えているし許してない。うまい棒の方が30本あるし、と思ったんだ。
「優勝者にはおじちゃんのポケットマネーから賞金を出します」
「ん?」
「優勝者にはおじちゃんのポケットマネーから2000円が出ます」
「……やりましょう」
「参戦されるのですか菜月先輩!」
「サークル費を滞納してるからな。ここで勝ってそのまま賞金をサークル費に充てる」
「ん、それはぜひ菜月さんに勝っていただきたいところだね」
「菜月がやるって言ってるよー。のーさーかーくーん、君もやろう」
「ええー……薄々察してはいましたが、やっぱり狙われたー…!」
「野坂、お前に拒否権があるとでも思っているのかい?」
「圭斗先輩にそう言われて拒否できるワケがありませんよねー」
そんなこんなでカンザキも参戦させられることになり、参加者が揃ったのは良かった。だけど、肝心の村井サンが完全に傍観をキメているというのはこれ如何に。とりあえず、もらうものをもらった後で村井サンにぎゃふんと言わせなければ。これを茶番とか余興として楽しませるだけで終わってたまるか。
end.
++++
かのうまい棒レースのお話。うまい棒レース本編は短編の方に置いてあるけど穿り返さなきゃなあ
村井おじちゃんの悪乗りをもっともっともっと派手にやりたいのですが、なかなか簡単にはいきませんね
この話、地味に菜月さんが昔うまい棒で暮らしてたとかお金に釣られるとか残念な面を見せています
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「いっよーう圭斗ー! おじちゃんがドでかいの用意してきたぜー!」
「帰れ」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」
突然村井サンが大きな袋を持ってサークル室に遊びに来た。きっとロクでもないことを企んでるな。それというのも、村井サンという人は悪乗りの凄まじさからその所業がムライズムとまで呼ばれたおじちゃんだ。
如何せんこんなノリなので圭斗は村井サンを(一応先輩としても扱ってるけど)基本的には小馬鹿にしたような態度を取り、先のやり取りは既にテンプレートと化している。まあでも、村井サンのこのノリは本当に嫌な予感しかしない。
季節外れのサンタクロースのような大きな袋の中身を窺い知ることは出来ない。だけど、担いでいる様子からすればそこまでバカみたいに重たい物でもないのだろう。三井みたいに空気の読めない品でなければいいけど。
「それで、今日はまた何の用事で」
「だからお前、ドでかいの用意するって言ってただろ。だから今日はこれよ」
そう言ってひっくり返された袋からは、大量のうまい棒。30本入りのパックがひいふうみい……10袋。正味300本のそれが机の上に溢れ返る。
「ドでかいと言うより細かいですが」
「バカ野郎お前、おじちゃんがただうまい棒を持って来ただけだと思ったら大間違いよ」
「で?」
「今日はこれで遊ぼうと思ってね。そう、うまい棒レースと言ったところでどうだ!」
ホワイトボードマーカーを手にした村井サンは、コツコツと文字を書いていく。「胃袋は人間の宝だ! MMP杯争奪第1回うまい棒レース」と書かれたその前で仁王立ちする様と言ったら。なーにが始まるんですかね。
缶蹴りや何かの遊びはうちら3年生にとっては日常だったから驚きも少ないけど、うまい棒レースは今までやったことがないから何が始まるんだという嫌な予感が凄いし、遊び慣れていない2年生以下は完全に引いている。
「これでどうレースをするんです? 大食い競争ですか」
「まあ、そんなような感じだけどルールはあるよね。30本までは時間をカウントしてみんな一斉に食べ進めるとか、水飲んだら負けとか」
「うまい棒を食べるのに水分の摂取を禁止するなど拷問ですね」
「だからレースになるんだろ。ちなみに部屋の窓も閉め切るからな」
「は!? この男だらけでむさ苦しい空間で窓を閉め切る!? 真夏ですよ? 扇風機はロートルですよ!? お前馬鹿じゃねーのか」
「言っちまえば30本を過ぎるまでは我慢大会よ。あと扇風機はお前が会計なんだから勝手に買い替えればいいだけの話だし、お前何先輩に向かって馬鹿とか言ってんだ」
「どっからどう見ても馬鹿以外の何物でもねーだろ」
やいやいと圭斗と村井サンの言い合いが始まったけど、ここのこれはいつものことだから放置で問題ない。そんなことよりうちはこの大量に用意されたうまい棒に、どうして村井おじちゃんはそんなことばかり思いつくのかという呆れを隠せない。
この山を見て2年生もどうしたらよいやらわからないようで、誰が何本食べる想定で用意されたうまい棒なのかとか、わざわざこんなクソ暑いときにそんなことしなくても、とやっぱり引いてしまっている。
「菜月先輩、これ、誰がレースに参加するんですか」
「知らない。まあ、村井サン主催だし圭斗は強制じゃないか?」
「他人事みたいに言ってるけど菜月、お前もやるよな?」
「やりませんよ!」
「えー、お前がやったらいいところまで行くなって思ったのに」
「うまい棒を一度に大量に食べるとしばらく体臭がうまい棒になるんですよね。夏にそれはちょっと」
どうしてうちがそんなことを知っているのかというと、1年の時にお金がなくて一時的にうまい棒を主食にして生活していたことがあるからだ。圭斗からはうまい棒じゃなくてパンを買えと馬鹿にされたのは今でもよく覚えているし許してない。うまい棒の方が30本あるし、と思ったんだ。
「優勝者にはおじちゃんのポケットマネーから賞金を出します」
「ん?」
「優勝者にはおじちゃんのポケットマネーから2000円が出ます」
「……やりましょう」
「参戦されるのですか菜月先輩!」
「サークル費を滞納してるからな。ここで勝ってそのまま賞金をサークル費に充てる」
「ん、それはぜひ菜月さんに勝っていただきたいところだね」
「菜月がやるって言ってるよー。のーさーかーくーん、君もやろう」
「ええー……薄々察してはいましたが、やっぱり狙われたー…!」
「野坂、お前に拒否権があるとでも思っているのかい?」
「圭斗先輩にそう言われて拒否できるワケがありませんよねー」
そんなこんなでカンザキも参戦させられることになり、参加者が揃ったのは良かった。だけど、肝心の村井サンが完全に傍観をキメているというのはこれ如何に。とりあえず、もらうものをもらった後で村井サンにぎゃふんと言わせなければ。これを茶番とか余興として楽しませるだけで終わってたまるか。
end.
++++
かのうまい棒レースのお話。うまい棒レース本編は短編の方に置いてあるけど穿り返さなきゃなあ
村井おじちゃんの悪乗りをもっともっともっと派手にやりたいのですが、なかなか簡単にはいきませんね
この話、地味に菜月さんが昔うまい棒で暮らしてたとかお金に釣られるとか残念な面を見せています
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