2018

■ディレクション・メロディー

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 とうとうファンタジックフェスタ当日。私がプロデューサー見習いとして出来ることはまだないけど、ステージは宇部さんの隣で見ながら誰がどう動いているとか、どのパートがどういう仕事をするのかということを勉強させてもらっていた。
 宇部さんは自分の班のステージが終わってからもその場所を動かず、次の班のステージも続けて見始めた。部のステージ全体を見るのも仕事のうちなんだそうだ。その仕事に集中するため、タイムテーブルは自分をトップバッターにさせてもらったと。
 ひょろひょろぱっぱとステージから楽しい音が聞こえ始めたかと思えば、音の主はあのカンノ。こないだはキーボードだったと思うけど、今日はアコーディオンを担いで壇上に上がっている。その脇では菅野すがのさんがスネアドラムを叩いている。

「カンノはアコーディオンまで弾けるですか」
菅野かんのはあらゆる鍵盤を操るわ。鍵盤ハーモニカのこともあるくらいよ」
「上手いのが腹立つですよ」
「あら、まだちびっ子と呼ばれたことを根に持っているの?」
「だって自分だってチビですよ」

 そんな私をよそに、宇部さんは菅野すがの班のステージについての解説を入れてくれている。この公園は音を吸収する材質が少ないから、楽器の音も丸の池公園よりは遠くまで飛ぶとか、そんなようなことを。
 菅野班をタイムテーブルの2番手に据えたのは、もしもステージの企画が倒れても菅野さんとカンノの演奏だけで十分人が呼べるからだそう。ステージそのものというよりは、安定した音楽のパフォーマンスに賭けた。とのこと。
 ステージ企画にはいろいろある。お客さんの参加型企画や、パフォーマンスを見るタイプの企画。大きく分けるとこの2タイプ。放送部では大体前者を軸にステージを組み立てていくけど、後者が主体なのが菅野班なんだそうだ。

「菅野班も人を全く壇上に呼ばないワケじゃないのよ。リンボーダンスやコサックなんかをやったりするし。それでもやっぱりゲームやクイズと言うよりは音に乗せて楽しむタイプの企画が多いわね」
「へーです」
「マイムマイムやオクラホマミキサもレパートリーにあったかしら」
「それはいいんですけど、カンノってDとしての仕事はしてるですか?」

 パートの仕事についても少し教えてもらったけど、さっき聞いたディレクターとカンノの仕事がかけ離れているように思えてならなかった。
 さっき教えてもらったディレクターの仕事は、アナウンサーのマイクケーブルを捌いたり、小道具や大道具の配置や転換、タイムキープ等々……とにかく影に徹するという印象。だけどスガノは表で音を鳴らしてばかり。

「一般的なディレクターと同列に語れないタイプであることには違いないわ。Dでありながら演者と言うのが適しているし。ただ、タイムキープをしつつ全体の動きを把握して回すという意味ではDの仕事を全うしているとも言えるわね。一般的なDがカンペやハンドサインで出す合図を、菅野かんのの場合は音でやっている……私はそう解釈しているわ」
「放送部でDらしいDって言ったら誰になるです?」
「上手いDという意味かしら」
「そうです」
「それなら、今日は出ていないけど朝霞班の戸田さんじゃないかしら」
「……流刑地の人です?」
「浦和さん。流刑地と呼ばれる班だから下手だとか、逆に幹部の班だから上手いとか、そういうことは決してないのよ。名前だけじゃなくて、本質を見るようにしなさい」

 流刑地と呼ばれる朝霞班のことも、戸田さんっていう人のこともよく知らないけど、宇部さんは幹部なのに流刑地の人たちのことを見下してはいないんだろうなっていうことがわかったような気がした。きっと、その人たちの本質を見てるのかなって。

「戸田さんもDの仕事だけをしているかと言えば、ミキサーをやりながらのこともあるから一概には言えないけれど、ディレクターとしての彼女は2年生でありながら部でも3本の指には入るわね」
「そんなに上手ですか。なのに流刑地にいるですか」
「いろいろあったのよ」

 班が違えば色も、やることも違う。パートがこうだからと言って、仕事内容は基本通りじゃない。宇部さんの隣でステージを見ていると、勉強することがいっぱいあって本当に大変。だけど楽しい。

「この感じで行くと、カンノは1時間弾きっぱなしですか」
「あら、慣れっこでしょう」
「絶対しんどいですよ、あんなの担いでずっと立ちっぱで。手だって疲れますよ」
「あら、菅野かんのが心配なのかしら」
「心配なんかじゃないですよ何言ってるですか宇部さんでも怒りますですよ!」
「あらあら、ごめんなさいね」


end.


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マリンのP修行回。宇部Pにくっついて歩いて、見て聞いて勉強をしています。
そして菅野班のステージの様子を少し。今回のカンDはアコーディオン持参らしい。重いやろなあ。なかなかやるね
おっ、マリンが宇部Pに対してもちょっとぷんすこしているよ。しかしそれをあらあらとあしらう宇部Pであった

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