2018(02)

■Dead or Aliveの考査ギャンブル

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 夏の丸の池ステージに向けてどこの班も動き出している中、この俺、世界のシゲトラこと鳴尾浜茂虎が班長を務める鎌ヶ谷班もバタバタしてると思うじゃん? ところがどっこい、ウチの班は他の班とは比べ物にならないくらい時間がゆったりと動いてるんだぜ!

「響人、そろそろ台本上がりそうか?」
「もうちょっと待って」
「そろそろなー、こっちにも小道具の準備とか音の用意とかあるじゃんなー」
「急かさないで、今書いてるから」

 ウチの班のPは、この鎌ヶ谷響人。鎌ヶ谷班の鎌ヶ谷ってのは響人のことだ。響人はウチの部のPの中じゃ自己主張が少ない方だし、自分でグイグイ引っ張るっつーよりは影になるタイプのPだ。逆に出たがりなのがミキサーの俺ってね! だから班長をやってる。
 響人は如何せん遅筆だ。そのおかげで5月に唐突に入って来たファンフェスの台本でもかなり苦戦していたし、夏を視野に入れて考えていたネタもそこで結構使っちまったモンだから今苦労しているというワケだ。
 ただ、響人のいいところは一度書き上げた物を変えることがそうそうないというところだ。変えるにしてもほんのちょっと。これが朝霞班とかだったら本番2日前に内容全部ひっくり返すとかも全然あるし(それでやっちまうのがアイツらが化け物集団って呼ばれる理由なんだけど)。

「ところでシゲトラ、インターフェイスの合宿に出るって聞いたよ」
「ああ、久々に出てみようかなーって」
「大丈夫? ステージもあるのに」
「おうよ! ダテに世界のシゲトラはやってないぜ!」
「マロもベルも出るみたいだし。あとホリーとポリ子。え、こう見たらうちの班ほとんどじゃない」

 そりゃプロデューサーからすればステージがあるっていうのに大多数の班員に他の予定が入って来ていてその打ち合わせとかもしなきゃならないってなったら心配にもなるだろう。でも合宿はステージの後が本番みたいなモンだしそこまで心配するほどでもない。
 どうしてこんなに自信満々に言えるのかと言えば、7月下旬には私大勢、それから8月アタマには国公立勢がテスト期間に入る。そんなようなこともあって一番ステージが忙しい時期に合宿の打ち合わせなどはほとんど入って来ないことが予想できるからだ。

「まあ、連中の面倒を見るって意味でもな! 心配しなくてもインターフェイスのことでステージに迷惑は掛けねーよ」
「どっちかと言えば合宿よりテストの方を心配してるよ」
「ぐっ…!」
「爆死覚悟で朝霞にノートとかプリント頼み込むんでしょ」
「ち、散らずに帰って来るから…!」

 台本を急かした仕返しだろうか。響人は俺の一番痛いところを的確に突いて来る。何が俺にとって一番の問題化って言うとやっぱりそこはテストで。ファンフェスの準備もあったし春学期の序盤が結構抜けてるっていうな。
 で、毎回のパターンになってるのは同じ学部学科の朝霞にノートをもらったりレポートのお題を教えてもらったりっていう対策なんだけど……まあ、この時期の朝霞にそんなことで声を掛けるとか完全に地雷原に突っ込みに行くような物で。
 ちなみに人間学部には部長の日高もいるんだけど、日高はぶっちゃけ俺よりヤバイから相当ヤバイ。1年の時の必修をまだやってるくらいだし、俺にテスト対策を集って来る時点で終わってるじゃんな。なんなら卒業も怪しいんじゃね?

「イチかバチか! 賭けなきゃ貰えるモンも貰えねーんだ! 俺はとにかく朝霞に当たってみるんだ!」
「はいはい、頑張って。でも、準備の最盛期にあんまり班長がいないってことにならないでよ。シゲトラがいなくて幹部に怒られるのは俺なんだから」
「わーったよ」

 ――とは返事をするけど、今年に限っては「部長もいねーけど?」でカウンターを返せる気がしないでもない。まあ、やんねーけど。下手にケンカを売ってると解釈されたら俺はともかく他の連中が危ない。

「ところでシゲトラ、ひとつ頼みがあるんだけどいい?」
「おうよ! 何でも来いよ響人!」
「コンビニでまんじゅう買って来てくれない?」
「いつものでいいんだよな」
「いつものじゃないとダメ」
「わーったよ、行って来るよ。お茶もつけときゃいーんだな」
「ご名答」
「金は」
「後払いで。レシート貰って来てね」


end.


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星ヶ丘はそろそろ丸の池に向けて忙しくなっているようです。鎌ヶ谷班も準備中。
遅筆なかまひび、決して多くはないネタのストックをどうやらファンフェスで使ってしまっていた模様。がんばれ!
そしてテストを心配されるシゲトラであった。まあ、放送部の中でもお察しの部類という認識だもんなあ……

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