2016(03)

■喫煙所の密会

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 大学祭が始まった。昨日から準備だとか前夜祭で賑やかだったけど、今日はより一層学内が華やかになっている。明日明後日は一般の人も増えるだろうし、より歩きにくくなるだろう。
 MBCCではDJブースと食品ブースの2ブースを出展する。ブース出展で一番の好立地である情報棟前に堂々とテントを二張り。高崎が言うには、MBCCのブース場所に関しては大学祭実行委員との契約の中にあることらしい。
 俺は今年のDJブースで一番長く番組を担当することになっているそうだ。昼放送をやっていない分大学祭の枠は欲しいと軽い気持ちで言ったらこうだ。高崎も案外大胆なことをしてくれるな、と苦笑い。
 長く時間が割り振られているけれど、「合間に休憩できる時間があった方がいいだろ」と確認を入れて来るところもまた“わかってる”なと。休憩というのは煙草休憩のこと。

「岡崎」
「高崎」
「食うか? 唐揚げ」
「じゃあ、もらおうかな。ありがとう」

 唐揚げを手にやってきた高崎もどうやら煙草休憩のようだった。毎年、俺と高崎は大学祭になると紙コップに詰め放題の唐揚げをつまみながら喫煙所で休憩する。この唐揚げはカズの彼女がいるバスケサークルがやっている物らしい。

「今年も美味しい」
「こっちが普通ので、こっちがオプションでネギソースかかってるヤツ」
「ネギソース」
「中華風とかで」
「ふーん。あ、これはこれで美味しい。さっぱりとして。酒が欲しい」
「違いねえな。何か、宮ちゃんが言うには伊東の姉貴をほっとくとネギの割合を増やし過ぎんだと」
「さすが姉弟だね」

 ネギのバランスが程よいソースのかかった紙コップを覗き見て、カズも何だかんだ薬味好きだよね、とケラケラ笑う。3人でそうめんや蕎麦を食べたときに載せていたそれぞれの薬味の量を思い出す。カズは山盛りだった。
 喫煙所では、互いにどこか敷居と言うか、何らかのボーダーが下がっているような気がする。MBCCでここに用事のあるメンバーが自分たち以外にはいないから、というのもあるかもしれない。
 ここでは何でもない話の他に、これからDJブースをどう回していくのかというような話もする。高崎とカズが大祭実行の手伝いに回っている間のやりくりなんかも込みで。
 番組を持つ時間が一番長いというのと同時に、DJブースの責任者にも任命されている。それは表立ってではなく、水面下で交わされていた話。それも今のように、厳密な場所こそ違うけど、喫煙所での密約。

「明日も唐揚げ食べれるかな。美味しいから並びそうだ」
「あー、何か宮ちゃんからこんなのもらったんだ」
「引換券?」
「何か、GREENsのメンツ1人につき2枚支給されてるらしいタダ券だな」
「えっ、高崎が2枚とももらったの?」
「明日誕生日だからやるっつって。去年もお前と食ってたっつー話をしてたからか知んねえけど、例の友達にもあげてくれっつってたから、お前にっつーことだろ」
「……じゃあ、ありがたく」

 明日もきっと、用意してもらった休憩時間にはここで唐揚げをつまみながら一服しているのだろう。大学祭には大学祭のルーティンがある。変わったところに行くでもなく、淡々と。

「さ、行くか」
「そうだね」

 煙草の火を押し消し、空になった紙コップを重ねて高崎は立ち上がる。さて、DJブースはどうなっているだろうか。


end.


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大学祭でのMBCCはブースを2つ回すのですが、高崎といち氏は全体を見ているというのと大祭実行とのあれこれがあるのであまりガッツリとは各ブースを見られません。
ユノ先輩は昼放送をやらなかった分、ここに全部置いてくるような感じでしょうか。高崎の人情じゃないけど、なんかこう、ユノ先輩に対するあれこれというヤツ(語彙力)。
そしてこの2人は唐揚げを食べながらうだうだ休憩しているくらいがちょうどいいです。飾りもあまりされていない喫煙所で、静かにすぱーっと。

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